こんにちは。元検察事務官の検察辞太郎(やめたろう)(@moto_jimukan)です。
来年度から検察事務官になる方や,これから検察事務官を目指す方の中には,凄惨な場面などを見なければいけないことを不安に思っている方もいると思います。
そこで,今回は,立会事務官の仕事のうち,司法解剖の立会いについて紹介していきます。
どれくらいの頻度で司法解剖に立会うのかや,実際に立会う際に何をするのかが分かりますので,是非見て参考にしてみてくださいね。
※一部,生々しい部分がありますので,該当部分には初めに注意書きを入れておきます。
- 本記事で説明する内容は令和3年4月時点のものとなります。
司法解剖とは
まず,司法解剖についてですが,裁判官の発付する鑑定処分許可状に基づいて行われる死体の解剖のことを言い,司法解剖の対象となる死体は以下となります。
- 犯罪死体
→死亡が犯罪によることが明らかな死体 - 変死体の内,検視によって犯罪死体の疑いがある死体
犯罪死体か変死体かによって司法解剖に至るまでのプロセスが若干異なりますので,それぞれ見ていきたいと思います。
犯罪死体発見時
犯罪死体の場合は,直ちに検証や実況見分が行われ,鑑定処分許可状の発付を受けた後に大学病院の法医学教室にて司法解剖が行われます。
検察庁には犯罪死体発見時に速やかに情報共有がなされますので,担当検察官や司法解剖の立会いの有無を決定します。
ちなみに,警察の捜査1課が担当する事件では,検察庁の本部係検事が担当となりますね。
変死体発見時
変死体を発見した場合は,警察は変死体発見状況報告書を作成し,全てFAXで検察庁に送ることになります。
このことを第一報と言いますが,その後,犯罪による死体の疑いがある場合,警察は,第二報として検察庁に検視を行うかどうかの判断を仰ぎます。
これは,そもそも検視は刑事訴訟法で検察官が行うこととされているので,警察が代行で検視を行うためには検察官からの指揮が必要になるからです。
- 刑事訴訟法第二二九条【検視】
①変死者又は変死の疑のある死体があるときは,その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は,検視をしなければならない。
②検察官は,検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができる。
そして,検視の結果,犯罪死体の疑いがあるとなった場合は,司法解剖が行われることになります。
この場合も,検察庁で担当検察官と司法解剖の立会いの有無を決定します。
司法解剖の目的
司法解剖を行う目的ですが,以下の二点があります。
- 犯罪性の有無の判断
- 犯罪の立証
特に,犯罪の立証では,損傷の部位・形状・程度・凶器の種類・加害方法及び凶器と損傷との因果関係等を明らかにし,殺意の証拠等にもなり得ます。
そのため,殺意が認められるかが争われそうな事案であったり,殺害方法が不明な事案である場合は,検察官が司法解剖に立会うことが多いです。
- 司法解剖が行われるのは,死亡が犯罪によることが明らかな場合と犯罪の疑いがある場合。
- 全ての司法解剖に検察官が立会うわけではない。
- 司法解剖の目的は犯罪性の有無の判断と犯罪の立証。
では,次に,司法解剖に立会うことが決まった場合について見ていきたいと思います。
司法解剖立会いの流れ
司法解剖の立会いについてですが,検察事務官が司法解剖に立会う頻度としてはあっても年に1件か2件程度かなと思います。
実際,私の場合は,立会事務官2年目に1件,3年目に2件でしたが,検察事務官の中には一度も司法解剖の立会いをせずに退職に至る人もいますので,こればかりは完全に運となります。
では,司法解剖の立会いの流れについて,どういった準備が必要かや,実際に司法解剖がどのように行われるかなどについて見ていきたいと思います。
司法解剖立会いの事前準備
まず,司法解剖の立会いが決まった場合,担当検察官と立会事務官には,どこの大学病院の法医学教室で,何日の何時何分から司法解剖が行われるか教えられます。
そこで,立会事務官は司法解剖立会いに向けた事前準備をする必要があります。
具体的には,司法解剖の時間に間に合う移動手段の確保と,防護具等の持ち物の準備になります。
また,私が所属していた検察庁では,各大学病院の法医学教室毎にマニュアルが整備されていましたので,時間的余裕がある場合はマニュアルで注意点を確認していましたね。
ちなみに,これからすぐ司法解剖の立会いに行ってと指示されることもありますので,立会事務官になったら司法解剖立会いの流れを確認しておいた方がいいですね。
司法解剖立会い
司法解剖の手順についての説明があるため,苦手な人は見ないでください。
司法解剖の立会いですが,大学病院の法医学教室に到着すると,指定の場所で持参した防護服などを装着し,解剖室に入室します。
司法解剖の執刀医は法医学者で,補助は助手と警察官が行うことになりますので,基本的に検察官と立会事務官は司法解剖の様子を見ているだけとなります。
そして,司法解剖は具体的に以下の手順で進められます。
- 司法解剖開始
- ご遺体の外部の観察
- ご遺体の喉元から下腹部にメスを入れ,内部を確認
→刺し傷は深さなどを計測 - 各臓器を取り出し,臓器の外部を観察
- 各臓器をメスで分割し,うっ血の有無等を確認
→臓器の一部は薬物検査 - 胃の内容物の確認
- 頭蓋骨をドリルで空け,脳を取り出し,脳の外部を観察
- 脳をメスで分割し,うっ血の有無等を確認
→脳の一部は薬物検査 - 各臓器と脳を袋に入れ,元の場所に戻す
→ご遺体にメスを入れた部分は縫合 - 司法解剖終了
司法解剖の所要時間は基本的に2~3時間程度ですが,ご遺体の状況によっては8時間かかったなんて話も聞きます。
なお,ご遺体の状況(腐乱状況等)によってはマスクを付けていても匂いがキツイとのことで,中には司法解剖中に気分が悪くなる人もいますが,気分が悪くなったら自由に解剖室から退出できます。
ですので,気分が悪くなったら我慢せずに退出し,新鮮な外の空気を吸ってリフレッシュしてもらえればと思います。
司法解剖立会い終了後
司法解剖の立会い終了後ですが,防護服等を脱いで着替えた後,法医学者から死因等の所見を聞くことになります。
かなり専門的な話なので,立会事務官は特にメモする必要はありませんが,話を聞いている時間に手持ち無沙汰になってしまうので,メモしているふりをしてもいいかもしれないですね。
法医学者から話を聞き終わった後は,検察庁に戻り,検察官は司法解剖立会いの報告書を作成し,立会事務官は特殊勤務手当の請求書類を作成して全て終わりとなります。
- 基本的に,検察官と立会事務官は司法解剖の様子を見ているだけ。
- 司法解剖中に気分が悪くなったら自由に退出できる。
では,次に,司法解剖立会い時に支給される特殊勤務手当について紹介したいと思います。
特殊勤務手当について
国家公務員の各種手当については給与法と人事院規則で定められていますが,検察事務官が司法解剖に立会ったときは特殊勤務手当が支給されます。
特殊勤務手当にも様々な種類がありますが,司法解剖の立会いは「死体処理手当」に該当し,1件につき千円が支給されます。
ちなみに,「千円だけ?」と思われた方も多いと思いますが(私も思っていました),貰えるだけありがたいと思って納得してもらえればと思います。
- 一般職の職員の給与に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第十三条」参照 - 人事院規則九―三〇(特殊勤務手当)(e-GAV法令検索)
※「第十一条」参照
おわりに
今回は,立会事務官の仕事の内,司法解剖の立会いについて紹介してきました。
できれば避けたい仕事かと思いますが,検察事務官になるとやる可能性のある仕事になるため,これから検察事務官になられる方や目指す方は,心の準備を整えてもらえたらと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
なお,立会事務官の別の仕事については,下記記事でご確認いただけます。


