立会事務官の仕事

立会事務官の仕事について【取調べ編】

こんにちは。元検察事務官の検察辞太郎(やめたろう)(@moto_jimukan)です。

今回は,検察事務官の仕事のうち,立会事務官の取調べ時の仕事について紹介していきます。

ちなみに,立会事務官とは,ドラマ『HERO』では松たか子や北川景子が演じていた役柄になり,若手検察事務官が必ず経験する仕事になりますので,検察事務官志望の方は是非見てください。

立会事務官の取調べ時以外の仕事については,下記記事でご確認ください。

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被疑者・参考人の呼出し

検察庁における捜査の基本は取調べになりますので,基本的に,毎日,取調べを行っていますが,取調べ対象者は以下の三パターンとなります。

  • 勾留中の被疑者
  • 勾留されていない在宅の被疑者
  • 被害者や目撃者等の参考人

では,それぞれの取調べ対象者の呼出し方法と注意点について見ていきたいと思います。

勾留中の被疑者の呼出し

勾留中の被疑者は警察署の留置場に勾留されているため,検察庁の取調べに呼出すときは,勾留されている警察署の留置管理担当者か当該事件の捜査担当者に連絡をし,検察庁での取調べの日程を伝え,検察庁への押送を依頼します。

私の場合は,捜査担当者に連絡し,捜査担当者から警察署の留置管理担当者に連絡してもらっていました。

ちなみに,検察庁における身柄事件の被疑者の取調べ回数は,基本的には,勾留手続きにおける弁解録取を含めると2回から3回となります。

  1. 勾留手続きにおける弁解録取
  2. 勾留期間延長前取調べ(勾留期間を延長する場合)
  3. 終局処分前取調べ

取調べ回数が少ないと思われたかもしれませんが,警察で毎日のように取調べを行うので,検察官から捜査担当者に指示し,必要な事項を聴取してもらいます。

そして,警察の捜査担当者が聴取した内容に基づいて検察庁でも取調べを行うという形になります。

勾留中の被疑者の押送方法について

勾留中の被疑者の押送方法には,「集中押送」と「単独押送」の二種類があります。

  • 集中押送
    押送車が複数の警察署を回り,検察庁から呼出しを受けた被疑者などをまとめて検察庁に押送する方法
  • 単独押送
    怪我や病気などで集団での行動が困難であるなどの理由により,当該被疑者を捜査担当者が個別に押送する方法

集中押送だと留置管理担当者が押送車に乗せるだけですが,単独押送となると捜査担当者が3人から4人がかりで被疑者を押送しなければならなくなるため,集中押送が基本となります。

単独押送は,集中押送が困難な被疑者が基本ですが,共犯者を同日に取調べする場合は一方の被疑者を単独押送にしたりします。

  • 警察では,取調べの他に,実況見分引き当たり捜査を行っているため,警察での捜査に支障が出ないよう,検察庁での取調べ日程を早めに調整する必要がある。
  • 共犯者を同日に呼出す場合は,待合室や押送車内で接触して罪証隠滅等が図られないよう注意

在宅の被疑者の呼出し

在宅の被疑者は,身柄拘束されていない一般社会生活を送っている人になるため,検察庁への呼出しは書面電話で行います。

私の場合は,基本的には書面で呼出しを行っていましたが,それぞれの場合の注意点を見ていきたいと思います。

書面での呼出し

呼出状には特に決まった様式はありませんが,基本的に以下の情報を記載する必要があります。

  • どの事件についての呼出しか
  • 出頭日時・場所
  • 必要なもの
  • 担当者名・連絡先 など

おそらく検察庁ごとに使用している呼出状のフォーマットがあると思いますので,呼出状を作成する場合はそれを使ってもらえればと思います。

また,在宅の被疑者の多くは仕事をしているため,呼出日の数日前に到着するよう余裕をもって発送する必要があります。

ちなみに,呼出し状を送っても無視する被疑者については,呼出状に「次来なかったら逮捕する」という文面を記載していました。

電話での呼出し

基本的には書面で呼出しを行いますが,急ぎの場合や呼出状に反応がない場合は電話で呼び出しを行うことになります。

電話の場合は,電話に出た相手が本人か確認する必要があります。

そして,伝える事項については書面の場合と同じですが,聞き間違いがないように,相手方にメモを促したり,復唱を行うなど注意が必要となります。

  • 在宅被疑者の呼出し日時は平日の勤務時間中で,基本的には被疑者からの夜間や休日の要望は受け付けない
  • 呼出しに応じない場合は,このまま呼び出しに応じないと逮捕することになる旨を伝える

参考人の呼出し

被害者や目撃者等の参考人を呼出す際は,警察を通じて行う場合と検察庁から行う場合があります。

私の場合,身柄事件の場合は警察を通し,在宅事件の場合は検察官から電話で連絡をしてもらっていました。

参考人の場合は,被疑者と違い,最大限,参考人の都合を優先するため,平日の夜間や休日にも対応しますし,検察庁まで来れない場合は最寄りの警察署まで出向くこともあります。

立会事務官の休日出勤の多くは,この参考人取調べのためとなります。

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また,検察官が相当と認める場合は旅費や日当を支給することができるため,その場合は支給の手続きを取ることになります。

  • 参考人の都合を優先し,平日勤務時間中が難しい場合は,平日夜間や休日に取調べ対応
  • 検察庁まで出向くことができない場合は,参考人最寄りの警察署で取調べ対応
  • 場合によっては旅費・日当を支給。 

取調べの事前準備

取調べにあたっては,取調べを円滑に進めるために,事前に準備をしておくことが必要となります。

立会事務官においてどのような準備を行っているか,それぞれ見ていきたいと思います。

事件内容の把握

事件内容については,事件配点時の事務処理である程度確認していますが,取調べの前に以下の内容を再度確認しておくことが望ましいです。

  • 事件の全容
  • 事件に関わる固有名詞(氏名・場所など)
  • 聴取対象者などの過去の供述内容

事件内容を確認する目的は二つあり,一つは供述調書をスムーズに作成するためと,もう一つは供述内容の矛盾点などを聞き逃さないためとなります。

事件記録は,取調べ中は検察官の手元にあって見れないため,取調べが始まるまでに確認し,場合によってはコピーを手元に用意しておく必要があります。

供述調書の入力準備

取調べにおいては,検察官が被疑者や参考人から聴取した内容で供述調書を作成します。

なお,入力ソフトはワードではなく「一太郎となりますので,入力方法に慣れておく必要があります。

また,供述調書の様式は決まっていて,供述調書の文頭に以下の事項を必ず入力するため,取調べが始まる前に事前に入力しておきます。

  • 供述者の住所・氏名・生年月日・年齢
  • 被疑者の場合は本籍
  • 取調べ日時・場所

供述者の身上情報については,事件記録の戸籍謄本や住民票の写しを確認し,正確に入力する必要があります。

間違えて作成してしまった場合は,後に訂正報告書を作成しなければならなくなるため,注意が必要です。

また,供述調書は,検察官が調書にする内容を話し,それを立会事務官がタイピングして作成するため,事件に登場する固有名詞や検察官がよく使う単語や言い回しについては,単語登録をしておくことが望ましいです。

単語登録を活用することにより,供述調書作成のタイピングスピードを上げることができます。

  • 「私は,」→「w」
  • 「このとき本職は,」→「kh」
  • 「問」→「q」
  • 「答」→「a」

録音・録画の準備

身柄事件の被疑者取調べにおいては,以下の場合,取調べの録音・録画を実施する必要があります。

  1. 裁判員裁判対象事件
  2. 知的障害を有する被疑者で,言語によるコミュニケーションの能力に問題のある者,又は取調官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められる者に係る事件
  3. 精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者に係る事件
  4. 独自捜査事件であって検察官が被疑者を逮捕した事件

私が働いていた当時は,録音・録画する場合は上記4パターンに限られていましたが,取調べの可視化の観点から,身柄事件の多くで録音・録画を実施していました。

録音・録画の具体的な準備は,録画の角度に問題が無いかや,音声がしっかり入るかなどを確認し,記録媒体をセットして取調べが始まれば録音・録画をスタートできる状態にすることです。

録音・録画した記録媒体も証拠となり得るため,正常に稼働するか注意する必要があります。

証拠品の借り出し

取調べにおいて,検察官が事件の証拠を供述者に見せる場合があるため,事前に証拠品を証拠品担当から借りておく必要があります。

見せる証拠品は防犯カメラ映像が多いですが,証拠品の再生は専用のノートパソコンが必要になるため,合わせて借りる必要があります。

ちなみに,証拠品再生用のノートパソコンは,通称「ブツ読みパソコン」と呼び,事件管理担当において保管されています。

通訳人の手配

供述人が外国人で日本語を話せない場合は,通訳人を手配し,取調べに同席してもらう必要があります。

通訳人の手配は事件管理に依頼しますが,タガログ語などのレアな言語は通訳人の数も少ないため,早めに依頼をする必要があります。

また,通訳人には,取調べ時間に応じた謝礼を支払う必要があるため,取調べ時間はメモしておく必要があります。

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取調べ中の事務

取調べにおける立会事務官の仕事について,検察官が供述人から聴取している場面供述調書作成の場面で見ていきたいと思います。

検察官の聴取中

検察官が供述人から話を聞いているときは,立会事務官のスタンスは以下の二つに分かれます。

  • 聴取内容を聞かず,自身の事務処理に専念する。
  • 聴取内容を聞き,自身も取調べに参加する。

私の経験や他の立会事務官の話からすると,前者が多かったです。

在宅事件の配点件数が多ければ事務処理に追われるし,検察官によっては立会事務官の意見を聞かない人もいるため,事務処理に専念している人が多いような気がします。

私が立会1年目のときはまさにそうで,聴取内容を聞いている余裕がなく,事務処理に専念していました。

2年目・3年目のときは余裕があり,担当検事も積極的に取調べに参加してもいいと言ってくれていたので,気になることがあれば自分で質問したり,検察官にモニター越しで意見を伝えたりしていました。

検察官とペアを組む際は,事前に取調べに参加していいか確認しておく方がいいですね。

ちなみに,特別捜査部では異なる部分がありますが,詳細については下記記事でご確認ください。

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供述調書の作成

供述者からの聴取内容をまとめた供述調書ですが,取調べ中は以下の流れで作成していきます。

  1. 口述内容の入力
  2. 供述調書原本の印刷
  3. 供述人による内容確認
  4. 供述の増減変更(ある場合)
  5. 供述人による署名・押印

供述調書の作成は上記①から⑥で行われるので,それぞれ見ていきたいと思います。

口述内容の入力

取調べ準備のところでも説明しましたが,供述調書は,検察官が調書にする内容を話し,それを立会事務官がタイピングするという方法で作成します。

この検察官が調書にする内容を話すことを「口述(くじゅ)」と言います。

検察官が口で言った言葉を立会事務官がパソコンに入力しなければならないため,立会事務官にはタイピングスキルが求められます

最低でもブラインドタッチはできた方がいいので,検察庁への内定者の方は,入庁までに練習することをお勧めします。

また,調書の入力には以下のように細かいルールがあるので,注意する必要があります。

  • 文頭は1文字空ける。
  • 文章は一文章ごとに(句点「。」の度に)改行する。
  • 漢字表記は公文書にならう。
  • 読点は「、」ではなく「,」を使用する。 
    など

 供述調書原本の印刷

検察官の口述を入力し終えると,供述調書専用の用紙に供述調書原本を印刷し,入力による録取内容を確定させます

そのため,取調べ開始前にプリンターが正常に稼働するかどうかも確認しておく必要があります。

特に別の取調室や出張先だと,印刷の細かい設定が異なっている場合もあるため,必ずテスト印刷なども行って確認しておく必要がありますね。

ちなみに,万が一プリンターの不具合で印刷ができない場合は,立会事務官が手書きで調書を作成する羽目になってしまいますので要注意です。

供述人による内容確認

供述人には,供述調書への録取内容が供述内容と同一であることを確認させる必要がありますので,印刷した供述調書原本を供述者に手交し,検察官が録取内容を読み聞かせます

この読み聞かせのことを「読み聞け(よみきけ)」と言います。

供述人は,この読み聞けの際に訂正等があれば,その都度,検察官に申し立てることになります。

供述の増減変更(ある場合)

読み聞けの際,訂正等がある場合は供述の増減変更を行います

増減変更する場合は,新たにパソコンで入力し直すのではなく,印刷した供述調書原本の最終行の次行に,「供述人の目の前で,上記のとおり口述して録取し,読み聞かせ,かつ,閲読させたところ,次のとおり訂正(追加)を申し立てた。」などと記入し,申立てのあった増減変更の内容を検察官が口述し,立会事務官が追加で筆記する方法で増減変更します。

ちなみに,この赤文字はゴム印で押印しても大丈夫のため,私のいた検察庁ではゴム印を使用していました。

原則としては上記の方法ですが,単に誤字や脱字などの場合は,供述人の目の前で訂正し,立会事務官の訂正印を押印します。

供述人による署名・押印

供述人から録取内容の確認を得た後は,供述調書最終行の次行に署名と押印(印鑑又は指印)をしてもらい供述調書が複数頁の場合は,各調書欄外右下に確認印を押印してもらいます。

そのため,立会事務官は,供述者に署名用のペンと指印や印鑑用のスタンプを渡し,署名・押印後は指や印鑑を拭く紙を渡します。

この署名・押印が終わると取調べが終了となりますので,取調べ中における供述調書の作成作業は以上となります。

供述調書の締め作業については,後述する「取調べ後の事務」のところで説明します。

取調べ状況等報告書の作成(身柄事件)

身柄が拘束されている被疑者や被告人を取調べる際には,取調べ時間等を記載する「取調べ状況等報告書」を必ず作成しなければなりません。

取調べ状況報告書には,取調べ時間の開始時間と終了時間を記入し,取調べ終了時に供述人に確認してもらい,署名・押印を受けます

また,供述人の退出後には,余白に退出時間を記入します。

この取調べ状況等報告書を作成する理由としては,身体拘束されている供述人に対して不当な取調べがされていないか確認するためで,取調べ状況報告書によってどれくらいの時間,取調べを行われていたかが明らかにすることができます。

取調べ後の事務

取調べ後の事務としては,供述調書の締め作業がメインの業務となります。

供述調書の締め作業

供述調書作成の締め作業として,「奥書(おくがき)」の記入があります。

奥書にはいくつかのパターンがありますが,基本的なパターンは以下のものとなります。

 供述人の目の前で,上記のとおり口述して録取し,読み聞かせ,かつ,閲読させたところ,誤りのないことを申し立て,末尾に署名・押印(指印)した上,各ページ欄外に押印(指印)した。
 前同日
  ○○地方検察庁
   検察官検事 署名・押印
   検察事務官 署名・押印

このように,供述調書原本に検察官と立会事務官の署名・押印を行います。

通訳人がいる場合は,検察事務官の署名・押印の下に,通訳人の署名・押印をもらう必要があります。

なお,供述調書原本が複数頁に渡る場合は,前頁裏面と次頁表面に割り印を行い,不正に供述調書を改ざんできないようにします

供述調書はこの作業をもって完成となります。

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おわりに

今回は,立会事務官の仕事のうち,取調べについて紹介してきましたが,検察事務官となり,立会事務官となれば,ほぼ毎日行う仕事となります。

ですので,検察庁志望者の方や内定者の方は,この記事によって検察庁で働くイメージを少しでも掴んでいただければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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