こんにちは。
元検察事務官の検察辞太郎(やめたろう)(@moto_jimukan)です。
今回は、立会事務官の仕事内容の内、事件捜査について詳しく紹介していきたいと思います。
立会事務官の捜査官としての仕事になりますので、検察庁内定者の方はもちろん、検察事務官志望者の方も是非参考にしてください。
事件捜査の概要について
検察庁の事件捜査ですが、事件の種類別にそれぞれ見ていきたいと思います。
なお、事件捜査の内、取調べについては下記記事で紹介しています。
司法警察員送致事件
刑事事件のほとんどは司法警察員からの送致事件になりますが、被疑者の身体拘束の有無で捜査のやり方が変わってきます。
在宅事件の捜査
被疑者の身体拘束のない在宅事件ですが、司法警察員の捜査が終結した後、検察庁に送致されます。
そのため、送致後の事件捜査は基本的に検察庁のみで行うこととなります。
ニュースなどの報道では在宅事件の送致のことを「書類送検」と言う。
身柄事件の捜査
被疑者の身体拘束のある身柄事件ですが、被疑者逮捕後48時間以内に検察庁に送致されます。
在宅事件とは異なり、司法警察員は送致後も検察官の指揮の下、事件捜査を行うこととなります。
身柄事件は逮捕後48時間以内に検察庁に送致しなければならないことから「ヨンパチ送り」と言う。
検察庁独自捜査事件
検察官が自ら捜査を開始する独自捜査事件は特別捜査部に代表されますが、送致事件でも独自捜査を行うことがあります。
送致事件の独自捜査
送致事件の独自捜査ですが、送致事件の捜査の過程で検察庁で余罪が発覚した場合に行われます。
- 司法警察員に捜査させる。
- 検察庁で独自捜査する。
私も独自捜査を経験したことがありますが、担当検察官や決裁官が特捜系だと独自捜査に着手する傾向が強いように思います。
特別捜査部の独自捜査
特別捜査部の独自捜査ですが、主に2種類の事件を担当しています。
- 直告等事件
政治家の贈収賄事件など - 財政経済事件
大企業の脱税事件など
直告等事件では検察庁への告訴やタレコミが、財政経済事件では国税庁や公正取引委員会などからの告発が捜査の端緒となります。
- 刑事事件には司法警察員送致事件と検察庁独自捜査事件があるが、送致事件がほとんど。
- 在宅事件は司法警察員の捜査が終結してから送致されるため、送致後の捜査は検察庁のみで行う。
- 送致事件でも余罪が発覚した場合は独自捜査を行う場合がある。
では次に、任意捜査の内容について見ていきたいと思います。
任意捜査の内容について
検察庁の令状によらない任意捜査の内、代表的な下記捜査について見ていきたいと思います。
証拠品の収集
証拠品の収集ですが、主に以下2種類の手法によって行われます。
捜査関係事項照会
捜査関係事項照会とは、刑事訴訟法197条2項により公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める捜査になります。
- 地方自治体
- 電気・ガス・水道事業者
- 携帯会社
- 金融機関
- 病院
なお、捜査関係事項照会の回答義務は法律で明記されていませんが、一般的に検察庁からの照会を断る団体はありません。
会社によっては捜査関係事項照会の専用窓口(住所・担当部署など)を設けているが、最高検察庁によって専用窓口一覧が作成されている。
任意提出・領置
検察官、検察事務官、司法警察員は、刑事訴訟法221条により所有者や保管者が任意に提出した物を領置することができます。
- 領置
物の占有を取得する任意処分。 - 差押え
令状により強制的に物の占有を取得する強制処分
任意提出を受ける証拠物は多岐に渡りますが、代表的な証拠物は防犯カメラ映像となります。
任意提出時には還付希望や所有権放棄などの意見を確認する。
→防カメ映像は所有権放棄が一般的。
証拠品の精査
証拠品の精査のことを「ブツ読み」といいますが、ブツ読みの代表として以下の証拠品があります。
防犯カメラ等の映像
防犯カメラ等の映像ですが、客観的証拠に当たるため重要な証拠となります。
送致事件では何時何分に何が映っているか記録した捜査報告書も送致されるので、映像の全てを確認するというものではありません。
取調べで映像を供述人に見せる場合があるため、どの証拠品に何が映っているか把握しておく必要がある。
メール等の履歴
スマートフォンやパソコン等のデジタルデバイスを押収した場合、メールやLINE等の履歴を精査する場合があります。
解析ツールによってやり取りをExcelに出力することもできますので、必要な場合はUSB等でデータ提供してもらい精査します。
東京と大阪にあるDF(デジタルフォレンジック)センターでは、データの抽出・解析の他、削除されたデータの復元やロックの解除にも対応。
また、メール等の履歴から余罪が発覚することもありますので、立会事務官も一通り目を通しておくことが望ましいです。
金融機関等の取引明細
窃盗や詐欺などの財産犯の捜査では、被害金の流れ等を把握するために金融機関等の取引明細の精査を行います。
なお、傷害致死や殺人事件などでも動機が実は金銭がらみだったということもあるので、お金関係の精査は非常に重要となります。
金銭を得る目的又は債務を免れる目的で人を殺める行為は殺人罪より刑が重い強盗殺人罪となる。
- 殺人罪
死刑又は無期若しくは5年以上の懲役 - 強盗殺人罪
死刑又は無期懲役
また、メール等の精査と同様に余罪が発覚することもありますので、立会事務官も一通り目を通しておくことが望ましいです。
被疑者の所在捜査
在宅事件の被疑者が検察庁の出頭に応じない等、行方不明になっている場合もありますが、その場合は被疑者の所在捜査を行います。
被疑者の所在不明等の理由により捜査を継続できないときは「中止」の中間処分をする。
→中止事件は再起して事件処理できるよう継続した所在捜査が必要。
所在捜査は捜査関係事項照会により捜索しますので、検察官ではなく立会事務官がメインとなって所在捜査を行います。
なお、所在判明後の対応については行方不明になった経緯によって異なってきます。
- 故意に行方をくらませていた場合
→逮捕・勾留手続 - 故意なく行方不明の場合
→出頭要請
所在捜査は照会して確認しての繰り返しで根気のいる捜査になりますが、所在の発見は立会事務官の人事評価にもつながってきます。
- 任意捜査では捜査関係事項照会と任提・領置手続で証拠品を収集。
- 証拠品の精査によって動機や余罪の発見につながることがある。
- 被疑者の所在捜査は捜査関係事項照会によって行われるため、所在捜査のメインは立会事務官。
では次に、強制捜査の内容について見ていきたいと思います。
強制捜査の内容について
検察庁の令状による下記強制捜査について見ていきたいと思います。
捜索・差押
捜索差押(ガサ)とは、令状に基づき「証拠物又は没収すべき物と思料するもの」を捜索し、強制的に取得する強制処分になります。
- デジタルデバイス
- 預金通帳・キャッシュカード
- 会計帳票・帳簿
- 手帳・日記
ガサには人員が必要なので、送致事件の独自捜査では事件管理職員や他の立会事務官などに応援を要請することになります。
そして、ガサを執行する際は、居住者や管理者に令状を示した上で捜索を開始します。
不在や居留守を使われた場合は、消防などの地方公共団体の職員を立会いの下、鍵を破壊してガサを執行する。
ガサ執行後は差押えた物をまとめた押収品目録を作成し、居住者や管理者に交付してガサ終了となります。
逮捕・勾留
任意捜査や捜索差押で容疑が固まったら逮捕状を裁判所に請求し、逮捕・勾留手続きを取り事件に着手します。
送致事件では警察署の留置施設に勾留しますが、独自捜査では拘置所に勾留します。
特別捜査部の独自捜査では、勾留期間中は拘置所で毎日取調べを行う。
→東京や大阪の拘置所には検察庁専用の待合室があり、専用PCも設置。
逮捕・勾留手続後は、送致事件と同様に、被疑者の取調べを行いながら起訴・不起訴の判断を行うことになります。
- 独自捜査の強制捜査として、捜索差押(ガサ)や逮捕・勾留手続きがある。
- ガサではデジタルデバイスなどの証拠物を押収する。
- 独自捜査では被疑者は拘置所に勾留し、拘置所で取調べを行う。
おわりに
今回は、立会事務官の仕事の内、事件捜査について詳しく紹介してきました。
事件捜査も立会事務官の重要な仕事になりますので、立会事務官の仕事をイメージする上で参考にしてもらえればと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。