全国一斉考試

【令和2年度】検察事務官等全国一斉考試の問題・解答・解説

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憲法・検察庁法

第1問

憲法上の人権享有主体性に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 生存権は,法人には保障されない。

解答・解説

() 判例(いわゆる八幡製鉄事件,最判昭45.6.24民集24・6・625)は,「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は,性質上可能なかぎり,内国の法人にも適用されるものと解すべきである」と判示しているところ,法人が自然人と異なり,生命,身体やその生存を観念できないことに鑑み,生存権(憲法25条)は,「性質上」法人に保障されない(研修教材・五訂憲法53ページ,研修822号62,63ページ)。

⑵ 地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙権は,外国人にも保障される。

解答・解説

(×) 判例(いわゆるマクリーン事件,最判昭53.10.4民集32・7・1223)は,「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き,わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであ」ると判示している。もっとも,判例(最判平7.2.28民集49・2・639)によると,地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙権については,憲法93条2項の「住民」が地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味することに鑑み,外国人に保障されるものではないとされている。なお,法律により選挙権を付与する措置を講ずることまでが憲法上禁止されているものではない(研修教材・五訂憲法62ページ,研修846号41,42ページ,研修822号65~68ページ)。

⑶ 財産権は,未成年者に保障されない。

解答・解説

(×) 未成年者も人権享有主体性が認められるのは当然であり,財産権も保障される。なお,選挙権については,「成年者による普通選挙を保障する」と規定されている(憲法15条3項)(研修教材・五訂憲法52,53,181ページ)。

⑷ 労働基本権が公務員に保障されることはない。

解答・解説

(×) 公務員は,自己の自由意思によってその地位に就いた者であるが,それは人権の全面的な放棄を意味するものではない。判例(いわゆる全逓東京中郵事件,最判昭41.10.26刑集20・8・901)は,「労働基本権は,……国家公務員や地方公務員も,憲法28条にいう勤労者にほかならない以上,原則的には,その保障を受けるべきものと解される。『公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない』とする憲法15条を根拠として,公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなことは許されない。」と判示し,その後の判例(いわゆる全農林警職法違反事件,最判昭48.4.25刑集27・4・547) も,公務員について,「勤労者として,自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから,憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶ」と判示している。もっとも,公務員は,労働基本権について,一般私企業の労働者の場合に比し,強度の制限を受けている(研修教材・五訂憲法58,173~177ページ,研修818号65~70ページ)。

⑸ 新聞を閲読する自由が未決拘禁者に保障されることはない。

解答・解説

(×) 未決拘禁者は,かなり広い範囲の人権の制限を受けるとはいえ,基本的人権を全面的に剥奪されるものではない。判例(いわゆるよど号乗っ取り事件新聞記事抹消事件,最判昭58.6.22民集37・5・793)は,新聞紙,図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは,憲法19条の規定や,憲法21条の趣旨,目的から,いわばその派生原理として当然に導かれるなどとするとともに,「拘禁される者は,……原則として一般市民としての自由を保障されるべき者である」とした上で,「未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙,図書等の閲読の自由についても,逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか,……監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも,一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。」と判示しており,新聞を閲読する自由が未決拘禁者にも保障されることを前提としている(研修教材・五訂憲法58,59ページ)。

第2問

社会権に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 生存権に関する規定は,全ての国民の生活水準の確保向上を国家の責務として宣言したものであり,裁判規範として作用することはない。

解答・解説

(×) 判例(いわゆる朝日訴訟,最判昭42.5.24民集21・5・1043)は,「憲法25条1項……の規定は,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり,直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」として,具体的権利性を否定しつつ,「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は,いちおう,厚生大臣の合目的的な裁量に委されており,その判断は,当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても,直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ,現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し,法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には,違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」と判示していることから,裁判規範性を認めたものといわれており,後に続く判例(いわゆる堀木訴訟,最判昭57.7.7民集36・7・1235)も同様である(研修教材・五訂憲法163ページ,研修782号75,76ページ)。

⑵ 教育を受ける権利は,これを実現する法律がない場合においても,直接に憲法の規定を根拠として,訴訟によって国にこれを実現するよう要求することができる権利である。

解答・解説

(×) 教育を受ける権利(憲法26条1項)は,生存権と同様,国民に対し,具体的な法律上の権利まで与えた趣旨ではなく,国家が教育の機会均等を保障するため,その責任において講じなければならない立法政策ないし教育行政の指針を宣言したものであって,それを国民の側から「権利」として把握したものである。したがって,直接に憲法の規定を根拠として,訴訟によって国にこれを実現するよう要求することができる権利ではない(研修教材・五訂憲法164,165ページ)。

⑶ 全て国民は,勤労の権利を有するが,勤労の義務を負うことはない。

解答・解説

(×) 憲法27条1項は,「すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ。」と定めている。なお,この義務は,具体的な勤労の義務ではなく,社会国家の理念に基づく一般的・抽象的な義務にとどまるものではあるものの,勤労の権利と表裏の関係にあり,勤労の能力があるにもかかわらず,勤労しない者に対しては,国は就職又は生活を保障する義務を負わないことになる(研修教材・五訂憲法166,167,190,191ページ)。

⑷ 労働組合は,組合員に対する統制権を有するから,市議会議員選挙に際し,組合の統一候補である組合員以外に対し,勧告又は説得の域を超え,立候補を取りやめることを要求したり,これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分したりすることが認められる。

解答・解説

(×) 判例(最判昭43.12.4刑集22・13・1425)は,憲法28条の団結権保障の効果として,労働組合が組合員に対する統制権を有することを認めているが,公職の選挙における立候補の自由(憲法15条1項)が重要な権利であることから,「勧告または説得の域を超え,立候補を取りやめることを要求し,これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは,組合の統制権の限界を超えるものとして,違法といわなければならない」と判示した(研修教材・五訂憲法169,170ページ)。

⑸ 勤労者は,正当な争議行為に随伴して発生する業務妨害,住居侵入,不退去の行為について,刑責を問われないことがある。

解答・解説

() 団体行動権(争議権)の保障により,争議行為に随伴して発生する行為は,それが犯罪構成要件に該当しても,労働組合の正当な行為と認められる限度内であれば,刑法35条の適用を受け,刑責を問われないこととなる(研修教材・五訂憲法172,173ページ,研修教材・七訂刑法総論155ページ,研修818号65頁)。

第3問

国会及び内閣に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 内閣総理大臣は,国会議員の中から選ばれなければならない。

解答・解説

() そのとおり(憲法67条1項,研修836号60ページ)。

⑵ 内閣は,法律案を発案することはできない。

解答・解説

(×) 国会は,国の唯一の立法機関であり(憲法41条),法律が成立するためには国会の議決を要するが(憲法59条1項),法律案の発案権は,内閣にもあり,現に,多数の法律案が内閣から発案されている。法律案の発案権が内閣にもあることの憲法上の根拠としては,憲法72条が挙げられる(研修教材・五訂憲法220,221ページ,研修868号74頁)。

⑶ 内閣には,衆議院及び参議院の解散権がある。

解答・解説

(×) 内閣には,衆議院の解散権はあるが,参議院の解散権はない。そもそも,衆議院の解散は,憲法上制度として規定されているのに対し(憲法7条3号,69条),参議院の解散という制度は憲法上規定されていない(研修教材・五訂憲法218,236ページ,研修868号73頁)。

⑷ 衆議院議員の中から選ばれた国務大臣は,議案について発言するため,衆議院には出席することができるが,参議院には出席することはできない。

解答・解説

(×) 国務大臣は,議院に議席を有しなくても,議案について発言するため,議院に出席することができる(憲法63条前段)のであるから,衆議院議員である国務大臣が参議院に出席することもできる(研修教材・五訂憲法233ページ)。

⑸ 内閣は,衆議院で不信任の決議案を可決し,又は信任の決議案を否決したときは,10日以内に衆議院が解散されない限り,総辞職しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(憲法69条)

第4問

司法に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 裁判の公開が憲法上求められているから,刑事裁判において,証人と傍聴人との遮蔽措置を採ることは許されない。

解答・解説

(×) 憲法82条1項等は,裁判の公開について規定しているが,刑事訴訟法157条の5に基づき証人と傍聴人との間で遮蔽措置が採られることになっても,審理が公開されていることに変わりはないから,憲法に違反するものではない(最判平17.4.14刑集59・3・259)。

⑵ 憲法76条3項は,裁判官が「憲法及び法律にのみ」拘束される旨規定している。これは,裁判官が条例には拘束されないことを明確にする趣旨である。

解答・解説

(×) 裁判官が「憲法及び法律にのみ」拘束される旨の憲法76条3項の規定は,裁判官が裁判するに当たって準拠すべき基準は,客観的な法規範だけである旨を明らかにした趣旨であり,条例を排斥する趣旨ではない(研修教材・五訂憲法256ページ)。

⑶ 憲法37条2項は,被告人に対し「すべての証人に対して審問する機会を充分に与える」旨を規定しているから,裁判所は,被告人が請求した証人の全てを取り調べなければならない。

解答・解説

(×) 憲法37条2項は,「刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ・・・(以下略)」と規定しているところ,「すべての証人」とされている点について,判例は,「被告人又は弁護人からした証人申請に基きすべての証人を喚問し不必要と思われる証人までをもことごとく尋問しなければならぬというわけのものではなく,裁判所は当該事件の裁判をなすに必要適切な証人を喚問すればそれでよいものと言うべきである。」とし(最判昭23.7.29刑集2・9・1045),裁判を行うに当たって不必要な証人まで取り調べる必要はないとしている(研修教材・五訂憲法142ページ,研修856号65,66ページ)。

⑷ 家庭裁判所は,憲法76条2項に規定されている「特別裁判所」に当たらない。

解答・解説

() 司法権の帰属主体である裁判所には,最高裁判所と下級裁判所があり(憲法76条1項),下級裁判所は,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所(裁判所法2条1項)である。特別裁判所は,このような最高裁判所を頂点として構成される司法裁判所の系列から独立した裁判所のことであるが,家庭裁判所は,司法裁判所の系列から独立したものではなく,特別裁判所に当たらない(最判昭31.5.30形集10・5・756,研修教材・五訂憲法248,249ページ)。

⑸ 最高裁判所は,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について,規則を定める権限を有する。

解答・解説

() そのとおり(憲法77条1項,研修教材・五訂憲法253ページ)。

第5問

検察庁法に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官は,検察事務については,自ら国家意思を決定し,これを外部に表示する権限を有する。

解答・解説

() 検察庁における事務のうち,検察庁法4条及び6条に規定する検察官固有の事務を「検察事務」といい,検察庁における検察事務以外の事務を「検察行政事務」という。同法4条及び6条は,主語を「検察官は」と規定し,検察権を行使する主体が個々の検察官であることを示している(研修教材・七訂検察庁法10,28ページ)。

⑵ 事件事務,証拠品事務等の検務事務は,検察事務ではなく,検察行政事務に分類される。

解答・解説

(×) 検察事務には,捜査,公判のように検察官が自ら行う事務と,これに付随する類型化された集合処理し得る事務がある。後者の事務は,事件・令状,証拠品,執行,徴収,記録,犯歴等の種類別にまとめられており,これらを検務事務という。検務事務は,検察事務の一部である(研修教材・七訂検察庁法50,51ページ)。

⑶ 区検察庁の検察官の職のみに補すと規定されている副検事が地方検察庁検察官の事務取扱を命ぜられるのは,検察庁法14条に規定する法務大臣の指揮監督権に基づく。

解答・解説

(×) 副検事は,区検察庁の検察官の職のみにしか補せられないが(検察庁法16条2項),地方検察庁の長である検事正の事務引取移転権(同法12条)によって,地方検察庁検察官としての事務の取扱いを命ぜられた場合には,地方検察庁の検察官としての職務を執行する(研修教材・七訂検察庁法33,71,72ページ)。

⑷ 区検察庁の検察官事務取扱検察事務官は,区検察庁に送致された捜査中の窃盗事件が簡易裁判所に事物管轄のない常習累犯窃盗罪に該当すると判断した場合,それ以降,検察官事務取扱検察事務官としての資格で同事件の捜査を行うことはできない。

解答・解説

(×) 常習累犯窃盗罪は,法定刑が懲役刑のみであるので(盗犯等の防止及び処分に関する法律3条,2条),区検察庁の対応する簡易裁判所に事物管轄はない(裁判所法33条)。検察官事務取扱検察事務官は,所属する区検察庁の検察官の事務のみを取り扱い得るのであるが(検察庁法附則36条),検察官は捜査に関して事物管轄の制限を受けないから(検察庁法6条),所属する区検察庁で,検察官事務取扱検察事務官の資格において,いわゆる地方事件について被疑者を取り調べるなどの捜査を行うことはできる(研修教材・七訂検察庁法87,88ページ)。

⑸ 検察事務官は,庁外において逮捕状により被疑者を逮捕するに当たり,被疑者から請求があったときは,たとえ逮捕状を示した場合でも,官氏名を表示した証票を示さなければならない。

解答・解説

() 検察事務官が庁外で職務を執行する場合には,検察事務官の証票を携帯し,被疑者その他の関係者の請求があったときには,これを示さなければならない(検察庁事務章程25条,研修教材・七訂検察庁法87ページ)。

民法(総則・債権)

第6問

AがBとの間でA所有の甲建物をBに売却する契約(以下「売買契約」という。)を締結し,その後,BがCとの間で甲建物をCに転売する契約(以下「転売契約」という。)を締結した事例について,意思表示の無効・取消しと第三者に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。ただし,適用される法律は,令和2年4月1日に施工された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正後の民法)とする。

⑴ Aが甲建物を売却する意思がないことを知りながら自ら売買契約を締結し,Bがその当時そのことを知っていたことを理由として,売買契約が民法93条1項により無効である場合において,Cが転売契約を締結した当時Aの真意を知っていたときは,Aは,この無効をCに対抗することができる。

解答・解説

() 本問では,心裡留保の表意者Aと第三者Cとの優劣関係が問題となっている。民法93条2項により,表意者は,善意の第三者に対抗することができない(善意の第三者は保護される)ところ,CはAの真意を知っていたため,善意ではない。したがって,Aは,Cに対抗することができる(Cは保護されない)。なお,同条項は,平成29年改正により追加された(八訂・研修教材民法I(総則)107ページ)。

⑵ 売買契約が,民法94条1項により,AがBと通じてした虚偽の意思表示であることを理由に無効である場合において,Cが転売契約を締結した当時その意思表示が虚偽であることを知っていたときは,Aは,この無効をCに対抗することができる。

解答・解説

() 本問では,虚偽表示の表意者Aと第三者Cとの優劣関係が問題となっている。民法94条2項により,表意者は,善意の第三者に対抗することができない(善意の第三者は保護される)ところ,CはAの意思表示が虚偽であることを知っていたため,善意ではない。したがって,Aは,Cに対抗することができる(Cは保護されない)(八訂・研修教材民法I(総則)109,110ページ,研修845号67ページ)。

⑶ 転売契約の締結後,Aが民法95条1項に基づき錯誤を理由に売買契約を取り消した場合において,Cが転売契約を締結した当時Aの意思表示が錯誤によるものであることを知らなかったことについて過失があるときは,Aは,この取消しをCに対抗することができる。

解答・解説

() 本問では,錯誤による意思表示の表意者Aと第三者Cとの優劣関係が問題となっている。民法95条4項により,表意者は,善意・無過失の第三者に対抗することができない(善意・無過失の第三者は保護される)ところ,Cは,Aの錯誤による意思表示を知らなかったことについて過失があるため,善意・無過失ではない。したがって,Aは,Cに対抗することができる(Cは保護されない)。なお,民法95条は,平成29年改正により,要件・効果が見直され,第三者保護規定が追加されるなどした(八訂・研修教材民法I(総則)123及び124ページ)。

⑷ 転売契約の締結後,Aが民法96条1項に基づきBの詐欺を理由に売買契約を取り消した場合において,Cが転売契約を締結した当時Aの意思表示がBの詐欺によるものであることを知らず,かつ,そのことについて過失がなかったときは,Aは,この取消しをCに対抗することができない。

解答・解説

() 本問では,詐欺による意思表示の表意者Aと第三者Cとの優劣関係が問題となっている。民法96条3項により,表意者は,善意・無過失の第三者に対抗することができない(善意・無過失の第三者は保護される)ところ,Cは,Aの意思表示が詐欺によるものであることを知らず,そのことについて過失がないため,善意・無過失である。したがって,Aは,Cに対抗することができない(Cは保護される)。なお,平成29年改正により,第三者が保護されるためには無過失である必要があることが明記された(八訂・研修教材民法I(総則)127~130ページ,研修847号78,79ページ)。

⑸ 転売契約の締結後,Aが民法96条1項に基づきBの強迫を理由に売買契約を取り消した場合において,Cが転売契約を締結した当時Aの意思表示がBの強迫によるものであることを知らず,かつ,そのことについて過失がなかったときは,Aは,この取消しをCに対抗することができない。

解答・解説

(×) 本問では,強迫による意思表示の表意者Aと第三者Cとの優劣関係が問題となっている。強迫による取消しの場合は,詐欺の場合と異なり,民法96条3項のような第三者保護規定が置かれていないため,表意者は,善意・無過失の第三者にも対抗することができる(第三者は善意・無過失であっても保護されない)。Cは,Aの意思表示が強迫によるものであることを知らず,そのことについて過失がないため,善意・無過失である。しかし,第三者保護規定が置かれていないため,Aは,Cに対抗することができる(Cは保護されない)(八訂・研修教材民法I(総則)133,134ページ,研修847号81ページ)。

第7問

Aが,Bに対して有する金銭消費貸借契約に基づく甲債権を担保するため,B所有の乙土地に抵当権を有しており,Cが乙土地の占有を続けている事例について,時効に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。ただし,適用される法律は,令和2年4月1日に施工された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正後の民法)とする。

⑴ Cが乙土地の所有権を時効により取得した場合において,その時効完成の直前に乙土地に植えられている木から果実が収取されたときは,その果実の所有権は常にBに帰属する。

解答・解説

(×) 土地上の樹木は,原則として,生立する土地の一部分(構成部分)とされ,土地の所有権に含まれることに鑑みると,天然果実たる果物の収取権者はその土地の所有者となる(民法89条1項)。そして,時効の効果には遡及効があるところ(民法144条),土地の取得時効が完成した場合,時効取得者は,起算点に遡って所有者であったことになるから,その時効期間中の果実の収取権は時効取得者に帰属する(八訂・研修教材民法I(総則)79,83,193ページ)。

⑵ Bが乙土地をDに売却した場合において,甲債権の消滅時効が完成したときは,Dは,その消滅時効を援用することができる。

解答・解説

() 時効の援用権者は,「当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)」である(民法145条)。本問のDは,抵当不動産の「第三取得者」であり,「当事者」に含まれることから,甲債権の消滅時効を援用することができる。なお,民法145条の「当事者」の例示部分は,平成29年改正により追加されたものである(八訂・研修教材民法I(総則)195,196ページ)。

⑶ Bは,甲債権の消滅時効の完成の前後にかかわらず,その時効の利益を放棄することができる。

解答・解説

(×) 時効完成後に時効の利益を放棄することはできるが,時効完成前にはできない(民法146条)(八訂・研修教材民法I(総則)197,198ページ)。

⑷ Bの乙土地についての所有権は,20年間の経過で消滅時効の規定により消滅することがある。

解答・解説

(×) 所有権は,他者の取得時効の反射的効果として消滅することはあっても,消滅時効の規定により消滅することはない(民法166条2項)(八訂・研修教材民法I(総則)215ページ)。

⑸ 甲債権は,弁済期が到来した時から5年間の経過で時効により消滅することがある。

解答・解説

() 従前,債権は原則として権利を行使することができるときから10年間で時効消滅するなどとされていたが,平成29年改正により,普通の債権は,債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年と,権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年のいずれか早い方の経過により消滅時効が完成することとされた(民法166条1項)。甲債権の弁済期が到来した時点(客観的起算点)で,債権者Aがそのことを知った場合には,その時点から5年間の経過で甲債権が時効により消滅する(八訂・研修教材民法I(総則)211~213ページ)。

第8問

債務不履行に基づく損害賠償請求及び契約の解除に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。ただし,適用される法律は,令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。

⑴ 売主Aと買主Bの間で締結された売買契約において,Aの目的物引渡債務が履行不能となった場合,BがAに対して履行に代わる損害賠償請求をするためには,Bがその売買契約を解除する必要がある。

解答・解説

(×) 債権者が債務者に対して履行に代わる損害賠償請求をなし得るのは,①債務の履行が不能であるとき,②債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき又は③債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したときである(民法415条2項)。①のとおり,債務の履行が不能であれば,履行に代わる損害賠償請求をなし得るのであり,契約の解除の有無は関係がない。なお,③のとおり,債務が契約によって生じた場合,契約が解除されなくても,履行に代わる損害賠償請求をなし得る場合がある。平成29年改正後の民法では,履行請求権と履行に代わる損害賠償請求権は併存するものと解されており,履行請求権が履行に代わる損害賠償請求権に転化するとは考えられていない(研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)46,47,187ページ)。

⑵ 売主Aと買主Bの間でA所有の別荘をBに売却する売買契約が締結されたが,契約締結前に当該別荘が火災により焼失していた場合,Bは,Aに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができない。

解答・解説

(×) 契約に基づく債務の履行が成立の時に不能であったとしても,債権者は債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが妨げられない(民法412条の2第2項)。平成29年改正前の民法では,契約に基づく債務の履行が原始的不能の場合には,契約は無効であると解する余地があったが,平成29年改正により民法412条の2第2項が新設された(研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)46,47ページ)。

⑶ 売主Aと買主Bの間でA所有のクラシックカー1台の売買契約が締結されたが,契約締結後に当該クラシックカーがA及びBと何ら関係のない第三者の放火により滅失してAの債務を履行することが不可能となった。この場合,Aには債務不履行につき帰責事由がないので,Bは,AB間の売買契約を解除することができない。

解答・解説

(×) 平成29年改正前の民法では,法定解除権を行使するためには債務者の帰責事由が必要と解されていた。しかし,債権者とすれば,債務不履行があっても契約に拘束され続ける場合が出てくることになり,不都合が生じることになる。そのため,平成29年改正後の民法では,債務者に帰責事由がない場合にも,債権者が契約を解除できるようになった。履行不能の場合の解除権について規定した改正前の民法543条には「ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。」と規定されており,債務者に帰責事由がない場合には解除ができないことが前提とされていたが,平成29年改正後の民法では,そのような規定はない(民法541,542条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)183ページ)。

⑷ 売主Aが買主Bに対して,売買契約の目的物の一部につき引渡しをしない意思を明確に表示したときは,Bは,その売買契約の一部を解除することができる。

解答・解説

() 平成29年改正後の民法では,①債務の一部の履行が不能であるとき,②債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときには,債権者は,催告をすることなく,直ちに契約の一部を解除することができると規定された(民法542条2項,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)185,186ページ)。

⑸ 売主Aと買主Bの間でA所有の建物をBに売却する契約が締結されたが,契約締結後に当該建物がA及びBと何ら関係のない第三者の放火により焼失した場合,Bが当該売買契約を解除しなくても,BのAに対する代金支払債務は消滅する。

解答・解説

(×) 平成29年改正前の民法では,双務契約における一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合,原則として相手方の反対債務も消滅する(危険負担の債務者主義=一方の債務が履行不能となったことによる危険を,不能となった債務の債務者が負担する)とされ(改正前の民法536条1項),特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする双務契約については,相手方の反対債務は消滅せず,履行を請求できる(危険負担の債権者主義=一方の債務が履行不能となったことによる危険を不能となった債務の債権者が負担する)とされていた(改正前の民法534条1項)。平成29年改正後の民法では,債権者主義を規定した改正前の民法534条1項を削除するとともに,危険負担の効果を反対給付債務の消滅ではなく,反対給付債務の履行拒絶権に改めた(民法536条1項,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)177,178ページ)。

第9問

売買契約の売主の責任に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。ただし,適用される法律は,令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。

⑴ 不動産の売主は,買主に対し,第三者対抗要件としての登記を備えさせる義務を負う。

解答・解説

() 民法560条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)196ページ,研修869号79ページ。

⑵ 売主から買主に引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合,その不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときであっても,買主は,売主に対して,代金の減額を請求することができる。

解答・解説

(×) 売買の目的物として引き渡された物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(民法563条1項)。①履行の追完が不能であるとき,②売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき,③一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき,又は④買主が前記の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるときは,買主は,催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる(同条2項)。ただし,前記の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,代金の減額の請求をすることができない(同条3項)。このように,売買の目的物として引き渡された物に不適合があった場合であっても,それが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,代金の減額を請求することができない(研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)198ページ)。

⑶ 売主から買主に引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,債務不履行の規定に従い,契約の解除をなし得る。

解答・解説

() 民法564条,541条,542条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)198ページ,研修869号79~81ページ。

⑷ 売主から買主に引き渡された目的物の数量が契約の内容に適合しないものであるとき,買主がその不適合を理由として履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をするためには,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければならない。

解答・解説

(×) 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合には,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない(民法566条本文)。これに対し,売主から買主に引き渡された目的物の数量が契約の内容に適合しないものであるときは,この期間制限は適用されず,消滅時効の原則により,目的物の数量が契約の内容に適合しないという事実を買主が知ったときから5年,引渡しの時点から10年で,買主の権利は消滅する(民法166条1項,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)198,199ページ,研修869号81,82ページ)。

⑸ 民事執行法の規定に基づく競売における買受人は,その目的物が数量に関して契約の内容に適合しない場合であっても,債務者に対して代金の減額を請求することができない。

解答・解説

(×) 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売は,売買と同一の性質を持つので,目的物の数量に関して契約不適合があったときは,その買受人は,民法541条及び542条の規定(債務不履行に基づく契約解除)並びに563条の規定により,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる(民法568条1項,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)199ページ)。

第10問

各種の契約に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。ただし,適用される法律は,令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。

⑴ 書面によらない贈与契約は,履行が終わった部分についても,各当事者が常に解除することができる。

解答・解説

(×) 書面によらない贈与は,各当事者が契約を解除できるが,履行の終わった部分については,解除することができない(民法550条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)189ページ)。なお,贈与を受けた者が贈与を行った者に対して著しく背信的な行為を行った場合や,贈与を行った者が契約後に当初予想できなかった経済的困窮に陥った場合に,贈与者が契約を解除して履行した財産を取り戻すことができるという考え方があるが(最判昭53.2.17判タ360・143),本問のように書面によらない贈与につき履行が終わった部分について常に解除できるというものではない。

⑵ 金銭消費貸借契約は,当事者の一方が相手方に金銭を引き渡すことと相手方が受け取った金銭と同額をその後に返還することをいずれも書面で約束した場合,その約束の時点で成立する。

解答・解説

() 要物契約としての消費貸借契約が成立するには,当事者の合意と目的物の授受が必要である(民法587条)。これに対し,諾成的消費貸借は,貸主が目的物を引き渡すこと,及び借主が引き渡された物と同じ種類,品質,数量の物を返還することの2点を書面で約束した場合には,目的物の引渡しを要せず,書面による約束の時点で成立する(民法587条の2第1項,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)204,205ページ)。

⑶ 使用貸借契約は,目的物を相手方に引き渡さなければ成立しない。

解答・解説

(×) 使用貸借契約は,平成29年改正前の民法では要物契約とされており,当事者間の合意のみならず物の引渡しがあって初めて成立するとされていたが(改正前の民法593条),平成29年改正により諾成契約とされた(民法593条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)208ページ)。

⑷ 賃貸借契約が終了した場合,賃借人は,賃借物を受け取った後の経年変化についても原状に回復する義務を負う。

解答・解説

(×) 賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う。しかし,通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については,原状回復義務はない(民法621条,研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)220ページ)。

⑸ 民法が適用される雇用契約で,当事者が雇用の期間を定めておらず,期間によって報酬を定めた場合において,使用者が解約を申し入れるときは,その期の前半に,次期以後の分について解約の申入れをしなければならない。

解答・解説

() 民法627条2項。

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刑法

第11問

未遂犯に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 犯罪の実行に着手したが,犯罪が既遂に達しなかった場合は,必ず刑が減軽又は免除される。

解答・解説

(×) 刑法43条本文は,未遂犯について,刑が任意的に減免される旨定め,ただし書で,「自己の意思により」犯罪を中止した場合(中止未遂)には,必要的に刑を減免する旨規定している。したがって,犯罪が既遂に達しなかった場合,必ず刑が減軽又は免除されるわけではない。(研修教材・七訂刑法総論227ページ,研修849号58,59ページ)。

⑵ Aは,自動車窃盗をするつもりがなかったBを唆して自動車窃盗を決意させたが,その後,悔悟して思い直し,Bが自動車窃盗の実行に着手する前にBを説得して自動車窃盗をやめさせた。この場合,Aに窃盗教唆罪の中止未遂は成立しない。

解答・解説

() 教唆犯が成立するには,被教唆者が教唆に基づいて当該犯罪の実行を決意し,かつ,実行に着手したことを要する(研修教材・七訂刑法総論284ページ)。設問の事例では,被教唆者が窃盗の実行に着手しておらず(中止未遂が成立するかを検討する以前の問題として)Aに窃盗教唆罪は成立しない。

⑶ Aは,Bの所有する自転車を壊そうと考え,Bの自転車を思い切り蹴ったがその自転車を損壊するには至らなかった。この場合,Aは,器物損壊未遂罪で処罰される。

解答・解説

(×) 刑法44条は,「未遂を罰する場合は,各本条で定める。」と規定しており,未遂犯を処罰するには,個別に各本条の規定がなければならない(研修教材・七訂刑法総論225ページ,研修849号58ページ)。器物損壊罪(刑法261条)には,未遂犯処罰規定はなく,未遂犯で処罰されることはない。

⑷ Aは,来客予定のBを毒殺しようと考え,毒入り菓子を準備したが,Bが到着する前に後悔の念から毒入り菓子を捨てた。この場合,Aに殺人罪の中止未遂は成立しない。

解答・解説

() 設問の事例では,毒入り菓子を準備し,殺人の予備をしたと認められるものの,殺人の実行の着手以前にやめているところ,殺人の未遂犯が成立するには殺人の実行に着手している必要があり,本件では殺人罪の未遂犯は成立しない(研修849号63ページ)。なお,実行の着手が具体的にどのような行為を指すかについて,判例は,構成要件に属する行為に「密接な行為をしたとき」(大判昭9.10.19刑集13・1473)としており(研修教材・七訂刑法総論229ページ),設問の事例では,例えば,毒入り菓子をBに提供するなどの行為があれば,実行の着手が認められると思われる。

⑸ Aは,スーパーマーケットで万引きしようと考え,店内の棚からガムを手に取り,直ちに自己のバッグに隠し入れて,その代金を支払わずに店外に出たものの,すぐに反省して店内に戻り,ガムを棚に戻した。この場合,Aに窃盗罪の中止未遂が成立する。

解答・解説

(×) 設問の事例では,Aが店内でガムを自己のバッグに隠し入れた時点で窃盗は既遂に達しており(遅くとも店外に出た時点では既遂に達している。),その後,Aがガムを棚に戻したとしても,未遂とはならないから,中止未遂は成立しない(研修871号69,70ページ)。

第12問

共犯に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ Aが刑事未成年者Bに指示命令して強盗を行わせた場合,Aに間接正犯が成立することがあっても,Bとの共犯が成立することはない。

解答・解説

(×) 同様の事案で,判例は,母親であるAが12歳の息子Bに対し,覆面をしてエアーガンを突き付けて脅迫するなどの方法により知人Cから金品を強取するよう指示命令の上,覆面やエアーガンを渡した結果,BがAから指示された方法によりCを脅迫したほか,自己の判断によりCをトイレに閉じ込めるなどして同人から現金を強取し,これを全部Aに渡した事案について,「本件当時Bには是非弁別の能力があり,Aの指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく,Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意した上,臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなどが明らかである。これらの事情に照らすと,所論のようにAにつき本件強盗の間接正犯が成立するものとは,認められない。そして,被告人は,生活費欲しさから本件強盗を計画し,Bに対し犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなどして本件強盗の実行を指示命令した上,Bが奪ってきた金品をすべて自ら領得したことなどからすると,被告人については本件強盗の教唆犯ではなく共同正犯が成立するものと認められる。」旨判示し(最決平13.10.25刑集55・6・519),刑事未成年者の行為を利用した者が全て間接正犯になるものではないことを一層明確にした(研修教材・七訂刑法総論255,256ページ,研修853号58,59ページ)。

⑵ 共同正犯が成立するには,共謀は必ずしも明示的に行われる必要はない。

解答・解説

() 共同正犯における共謀は,必ずしも明示的に行われる必要はなく,行為者間の暗黙の連絡でも足りる(最判昭25.6.27刑集4・6・1096),研修教材・七訂刑法総論266ページ)。

⑶ 不作為犯においても,共同正犯が成立する場合がある。

解答・解説

() 例えば,父親と母親が,自分たちの嬰児を殺そうと相談した上,共に授乳せず放置したため,嬰児が死亡した場合には,両名は殺人罪の共同正犯となるというべきであり,不作為犯の共同正犯の成立を認めるのが通説といわれている。また,一方が積極的作為を行い,他方が不作為で関与する場合に,作為犯と不作為犯の共同正犯も認めるのが通説といわれており,1歳2か月の幼児に対し,暴行を加えて死亡させた母親と,その意図を知りながら制止しなかったその夫との間に,殺人罪の共同正犯を認めた裁判例がある(大阪高判平13.6.21判タ1085・292,研修教材・七訂刑法総論278,279ページ)。

⑷ 詐欺罪の幇助犯が成立するには,正犯が実行に着手したことを要しない。

解答・解説

(×) 幇助犯が成立するためには,正犯が,実行に着手したしたことを必要とする(幇助犯の従属性)。通説である共犯従属性説の立場からは,正犯の実行の着手があったが未遂に終わった場合で,その未遂犯を処罰し得るときに初めて従犯の未遂が可罰的なものとして成立する(研修教材・七訂刑法総論291ページ)。

⑸ AがBの傷害の犯行を幇助する意思でカッターナイフをBに貸したところ,Bがこれを使って殺人を犯したときは,Aには傷害致死罪の幇助犯が成立する。

解答・解説

() 本問と同様の事案につき,判例は,Aには殺人罪と比して軽い傷害罪の結果的加重犯である傷害致死罪の幇助犯が成立するとしており(最判昭25.10.10刑集4・10・1965),Aには傷害致死罪の幇助犯が成立する(研修教材・七訂刑法総論301ページ)。

第13問

傷害の罪に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,病院で研究中のBに対し,睡眠薬等を摂取させたことにより,約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた。この場合であっても,Bの健康状態を不良にさせ,生理機能の障害を生じさせているので,Aには,傷害罪が成立する。

解答・解説

() 判例は,本問と同様の事案において,「被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,(中略)傷害罪が成立すると解するのが相当」としている(最決平24.1.30刑集66・1・36,研修教材・三訂刑法各論(その1)19ページ)。

⑵ Aは,自宅内において,約1年半の間にわたり,隣家に最も近い部屋から隣家に面した窓を開け,隣家に住むBに精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないと認識しながら,あえて連日朝から深夜ないし翌日未明まで,前記窓付近から,B方に向けて,ラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどし,Bに慢性頭痛症等の傷害を負わせた。この場合,Aの行為は暴行に当たらないので,Aには,傷害罪は成立しない。

解答・解説

(×) 傷害を生じさせる方法は,暴行を手段とする場合に限らず,無形的方法又は不作為による場合も傷害の実行行為に当たり得る。判例は,本問と同様の事案において,「被告人の行為が傷害罪の実行行為に当たるとして,同罪の成立を認めた原判断は正当である」とし,傷害罪の成立を認めている(最決平17.3.29刑集59・2・54,研修教材・三訂刑法各論(その1)20ページ,研修863号57ページ)。

⑶ Aは,過失による自動車衝突事故であるかのように装い,保険金をだまし取る目的で,Bの承諾を得て,Bに対し,故意に自己の運転する自動車を衝突させ,Bに加療約3週間を要する頸部捻挫等の傷害を負わせた。この場合,被害者であるBの承諾があっても違法性が阻却されないので,Aには,傷害罪が成立する。

解答・解説

() 判例は,本問と同様の事案において,「被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは,単に承諾が存在するという事実だけでなく,右承諾を得た動機,目的,身体傷害の手段,方法,損傷の部位,程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである」とした上で,当該事案では実際には加療約3週間よりもはるかに軽微な傷害しか生じていなかったと認められるにもかかわらず,傷害の部位,程度には言及せずに,「本件のように,過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもって,被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには,右承諾は,保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって,これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではない」とし,傷害罪の成立を認めている(最決昭55.11.13刑集34・6・396,研修教材・三訂刑法各論(その1)22,23ページ,研修863号58,59ページ)。

⑷ A,B及びCは,意思の連絡なく,Dに対し,ほぼ同時に石を投げ付けて,いずれも命中させ,Dに傷害を負わせた。Dの傷害は,B又はCのいずれかの投石によるものであることが判明したが,B又はCのいずれの投石によって生じたものであるかは不明であった。この場合,刑法207条の「傷害を生じさせた者を知ることができないとき」に当たるので,Aにも,傷害罪が成立する。

解答・解説

(×) 刑法207条は,「2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において,(中略)その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,共同して実行した者でなくても,共犯の例による。」と規定し,同時傷害の特例を定めているところ,いずれかの暴行によって傷害を生じさせたことが判明しているB及びCには,同特例が適用され,傷害罪の共同正犯として処罰されるが,自己の行為から傷害が生じていないことが明らかなAには,同特例が適用されず,暴行罪が成立するにとどまる(研修教材・三訂刑法各論(その1)27, 28ページ,研修863号53,61ページ)

⑸ 暴力団員Aは,相手が襲撃してきたときには,これを迎撃し,共同して相手に傷害を負わせる目的で凶器を準備し,同じ目的を有するBら同じ暴力団に所属する者を集合させた。この場合,Aには,積極的に自ら進んで相手に害を加える目的がないので,凶器準備集合罪は成立しない。

解答・解説

(×) 刑法208条の2にいう「共同して害を加える目的」は,積極的に自ら進んで相手に害を加える目的である必要はない。判例も,「相手が襲撃してきた際には,これを迎撃し,相手を共同して殺傷する目的をもって,兇器を準備し,身内の者を集合させたもの」と認定判示した原判決につき,「被告人の所為が刑法208条の2第2項に当るものとしたのは正当である」としている(最決昭37.3.27刑集16・3・326,研修教材・三訂刑法各論(その1)30ページ)。

第14問

放火の罪に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,一軒家のB方において,B及びB方に居住する者全員を殺害した後,無人のB方家屋に火を放って全焼させた。この場合,Aには,同家屋の放火について,非現住建造物等放火既遂罪が成立する。

解答・解説

() 判例は,本問と同様の事案において,「被告はその父母を殺害したる後その犯跡を覆はんがため即時甲(注:実父)等の死屍の横はれる家屋に放火しこれを焼蝦したるものにして(中略)該家屋には他に住居するものなくまた人の現在せる事実をも認めあらざるをもって右被告の所為は刑法第109条に該当すべきもの」と判示し(注:一部を現代語等に修正),現住建造物等放火罪ではなく,非現住建造物等放火罪が成立するとしている(大判大6.4.13刑録23・312,研修教材・三訂刑法各論(その2)19ページ,研修825号43,44ページ)。

⑵ Aは,Bが居住している木造家屋を焼損しようと考え,同家屋に接着して建てられている木造の物置小屋に火を放ったが,この物置小屋を半焼させただけで,B居住の家屋には延焼しなかった。この場合,Aには,非現住建造物等放火既遂罪が成立する。

解答・解説

(×) 判例は,本問と同様の事案において,「人の住居に使用する建物を焼搬するの目的をもって他の建物に放火しその燃焼作用により同住宅を焼蝦し得べき状態におきたるときはいまだ同住宅に延焼せざるときといえども住宅焼蝦罪の未遂犯を構成する」と判示し(注:一部を現代語に修正),現住建造物に延焼させる故意をもって,これに接着する非現住建造物に放火した場合,現住建造物に延焼しなくても現住建造物放火未遂罪が成立するとしている(大判大12.11.12大集2・781)。なお,この場合,非現住建造物等放火既遂罪は,現住建造物等放火未遂罪に吸収され,同罪のみが成立する(研修教材・三訂刑法各論(その2)16,17ページ,研修861号45,47ページ)。

⑶ Aは,Bが居住している木造家屋を焼損しようと考え,取り外しが容易な同家屋の雨戸に火を放ったが,思い直して直ちに雨戸を取り外したため,雨戸を焼損させるにとどまった。この場合,Aには,現住建造物等放火既遂罪が成立する。

解答・解説

(×) 建造物の従物は,これを毀損しなければ取り外すことができない場合は,建造物の一部を構成するが,取り外しの自由な雨戸,畳,建具等は,建造物の一部とはいえないから,建造物を焼損する目的でこれらの物を焼損するにとどまったときは,建造物を焼損したことにはならず,建造物放火の未遂にすぎない。判例も,「建具その他家屋の従物が建造物たる家屋の一部を構成するものと認めるには,該物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず更らにこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とするものである。従って(中略)畳のごときは未だ家屋と一体となってこれを構成する建 造物の一部といえない」としている(最判昭25.12.14刑集4・12・2548,研修教材・三訂刑法各論(その2)12,13ページ,研修861号44,47ページ,同825号41,42ページ)。

⑷ Aは,居住者がいるマンション内部に設置されたエレベーターのかご内で火を放ち,その側壁の一部を燃焼させた。この場合,Aには,現住建造物等放火既遂罪が成立する。

解答・解説

() 判例は,本問と同様の事案において,「被告人は,12階建集合住宅である本件マンション内部に設置されたエレベーターのかご内で火を放ち,その側壁として使用されている化粧鋼板の表面約0.3平方メートルを燃焼させたというのであるから,現住建造物等放火罪が成立するとした原審の判断は正当である」とし,現住建造物等放火既遂罪の成立を認めている(最決平元.7.7判時13・26・157,研修教材・三訂刑法各論(その2)12,13ページ,研修825号41~43ページ)。

⑸ Aは,市街地の駐車場内において,駐車中の他人の自動車1台にガソリンを掛けて火を放ち,同車を焼損させた。その炎は約1メートルの高さに達し,近くに停まっていた自動車2台に燃え移る危険が生じたが,この2台に実際に燃え移ることはなく,建造物への延焼の危険も生じなかった。この場合,Aには,建造物等以外放火罪は成立しない。

解答・解説

(×) 判例は,本問と同様の事案において,「(刑)法110条1項にいう「公共の危険」は,必ずしも同法108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく,不特定又は多数の人の生命,身体又は前記 建造物等以外の財産に対する危険も含まれると解するのが相当である。そして,市街地の駐車場において,被害車両からの出火により,第1,第2車両(注:第1車両は被害車両から3.8メートルの位置,第2車両は第1車両から0.9メートルの位置にあった。)に延焼の危険が及んだ等の本件事実関係の下では,同法110条1項にいう「公共の危険」の発生を肯定することができる」と判示し,建造物等以外放火罪の成立を認めている(最決平15.4.14刑集57・4・445,研修教材・三訂刑法各論(その2)22ページ,研修825号46~48ページ)。

第15問

横領の罪に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,友人BがA方に置き忘れた腕時計を見付けたが,そのことをBに伝えないまま,Cに売却した。この場合,Bの腕時計は,自己が占有する他人の物であるので,Aには,刑法252条1項の横領罪が成立する。

解答・解説

(×) 横領罪にいう「占有」は,物の所有者又は公務所との間における委託信任関係に基づく占有でなければならない。物の所有者等の委託がなく,偶然自己が占有するに至った他人の物を領得しても,(委託物)横領罪(刑法252条)は成立せず,遺失物等横領罪(同法254条)が成立するにとどまる。裁判例も,「刑法第252条第1項の横領罪の成立するがためには物の占有の原因が委任,事務管理,後見等の委託関係に基くことを要し,かかる委託関係が存在しない場合即ち遺失物,漂流物,誤って占有した物件,他人の置去った物件,逸去した家畜等の場合においては刑法第254条の占有離脱物の横領罪が成立するは格別,刑法第252条第1項の横領罪は成立しない」と判示している(東京高判25.6.19高刑集3・3・227,研修教材・三訂刑法各論(その1)237,238ページ)。

⑵ Aは,自己所有の建物をBに売却して引き渡し,Bが当該建物に住み始めたが,いまだBに所有権移転登記をしていなかったことから,当該建物をCに売却し,Cに所有権移転登記をした。この場合,当該建物の占有は既にBに移っているので,Aには,横領罪は成立しない。

解答・解説

(×) 判例は,本問と同様の事案において,「不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合,登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは,売主はその不動産を占有するものと解すべく,従っていわゆる二重売買においては横領罪の成立が認められる」と判示し,一貫して横領罪の成立を認めてきた大審院判例の結論を支持している(最判昭30.12.26刑集9・14・3053,研修教材・三訂刑法各論(その1)238ページ)。

⑶ Aは,友人Bから頼まれて預かっていた貴金属について,Bから許されていないのにこれを質屋に質入れし,手に入れた現金を自分のために使った。Aは,この質入れをした時,後日,質屋から買い戻してBに返却するつもりだった。この場合,Aには,横領罪が成立する。

解答・解説

() 判例は,金銭の受託占有者が費消後に弁償する意思を有していた事案において,「委託を受けたる他人の金銭をその委託の本旨に違いほしいままにこれを費消するときは刑法にいわゆる横領の罪を構成すべく費消者においてこれを弁償する資力又はこれを弁償する意思を有すると否とは同罪の成立に何らの影響なきものとす」と判示し(一部を現代語等に修正),委託の趣旨が一時流用を許すものでない限り,費消者に後日弁償をする意思があっても横領罪が成立するとしており(大判明42.6.10刑録15-759。最判昭24.3.8刑集3・3・276同旨),これは後日返還する意思がある場合でも同様であると解されている(研修教材・三訂刑法各論(その1)241ページ)。

⑷ Aは,妻BがCから預かっていたCの所有物をBから保管を頼まれて預かったが,これを横領して第三者に売った。この場合,AとCとの間に刑法244条1項に規定する親族関係があれば,Aは,横領罪の刑を免除される。

解答・解説

() 判例は,「領得したる物にして犯人の親族又は家族にあらざる者の所有物なるときはたとえその占有が犯人の親族又は家族の委託に基きたる場合といえどもこれに対し該法条(注:刑法255条が準用する同法244条)を適用すべきものにあらざることもちろんなり」と判示し(一部を現代語等に修正),委託者が刑法255条の準用する同法244条に規定する配偶者等の親族であっても,所有者との間に同条各項に規定する親族等の関係がなければ,同条のいわゆる親族相盗例は適用されないとしており,本問の場合,所有者Cと犯人Aとの間に同条に規定する親族等の関係があれば,親族相盗例が適用される(大判昭6.11.17大集10・604,研修教材・三訂刑法各論(その1)246ページ)。

⑸ Aは,宿泊していた旅館内の宿泊客用トイレで,Bが置き忘れた財布を見付け,自分のものにするため,これを持ち帰った。この時,Bは,財布の置き忘れに気付かないまま,既に当該旅館をチェックアウトし,そこから遠く離れた場所まで移動していた。この場合,Aには,刑法254条の遺失物等横領罪が成立する。

解答・解説

(×) 他人の排他的管理・支配下にある場所に物を忘れた場合には,その物の占有は,その場所の管理者に移ると解されている。判例は,本問と同様の事案において,「被告の領得せる物件は所有者甲の事実上の支配を離脱したるも甲の宿泊せる旅館主この事実上の支配が行われる該旅館屋内の便所に現在せしものに係るをもって乙が右事実を認知せると否とを問わず当然右物件は乙の支配内に属すというべくしたがって遺失物をもって論ずるの限りにあらず(中略)被告の行為は(中略)刑法第235条の窃盗罪をもって論ずるを相当とす」と判示し(一部を現代語等に修正),遺失物等横領罪ではなく,窃盗罪が成立するとしている(大判大8.4.4刑録25・382,研修教材・三訂刑法各論(その1)249ページ)。

刑事訴訟法

第16問

強制捜査に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 法律に特別の定めのない強制の処分は,必要性,相当性及び緊急性の認められる場合に限り,これを行うことができる。

解答・解説

(×) 強制捜査とは,強制手段,すなわち個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段によって行われる捜査をいう(最決昭51.3.16刑集30・2・187)。刑事訴訟法は,捜査のための強制処分は,この法律に特別の定めのある場合にこれを行うことができると規定している(刑事訴訟法197条1項ただし書)。法律に特別の定めのない手段による強制捜査は,必要性,相当性及び緊急性があっても,行うことはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)108ページ)。

⑵ 被疑者を緊急逮捕したときは,被疑者を釈放した場合を除き,直ちに逮捕状を求める手続をしなければならない。

解答・解説

(×) 被疑者を緊急逮捕した場合には,直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない(刑事訴訟法210条1項)。緊急逮捕状の請求は,その後の身柄拘束の必要性についての承認とともに,緊急逮捕の追認も求めるものなので,逮捕後に被疑者を釈放した場合も,逮捕状の請求をしなければならない。なお,犯罪捜査規範120条3項にはその旨明記されている(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)123ページ)。

⑶ 被疑者を緊急逮捕した後,その逮捕状請求が却下されたときは,逮捕状請求却下の裁判に対して準抗告を申し立てることはできない。

解答・解説

() 緊急逮捕後,逮捕状の請求をしたが,請求が却下されたときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない(刑事訴訟法210条1項)。逮捕状の却下に対する準抗告はできない(刑事訴訟法429条1項参照,研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)123,113ページ)。

⑷ 検察官が勾留場所を警察署留置施設として勾留請求した場合において,裁判官が勾留場所を拘置所とした勾留状を発付したときは,検察官は準抗告を申し立てることができる。

解答・解説

() 勾留に関する裁判に不服のある検察官は,その裁判の取消し又は変更を求めて準抗告することができる。勾留場所について不服がある場合も,その変更を求めて準抗告することができる(刑事訴訟法429条1項,研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)140,145ページ)。

⑸ 検察事務官は,逮捕状により被疑者を逮捕する場合において,必要があるときは,逮捕の現場で,令状なくして記録命令付差押えをすることができる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法218条1項は,検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,記録命令付差押え,捜索又は検証をすることができると規定し,刑事訴訟法220条1項2号は,検察官,検察事務官又は司法警察職員は,逮捕状による逮捕,緊急逮捕又は現行犯人逮捕の各場合,必要があるときは,令状なくして,逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすることができると規定している。刑事訴訟法220条1項2号に「記録命令付差押え」が掲げられていないから,検察官,検察事務官及び司法警察職員は,逮捕の現場において無令状で記録命令付差押えをすることはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)202,203ページ)。

第17問

告訴に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ A及びBは,共謀してCの名誉を毀損した。Cは,犯人がA及びBの2人であることを知った上で,示談する意思のないAのみを告訴した。この場合,Bについても起訴することができる。

解答・解説

() 名誉毀損罪は親告罪である(刑法230条1項,232条1項)。親告罪について,共犯者の1人に対してした告訴,その取消しは,他の共犯者に対してもその効力を生じる(刑事訴訟法238条1項)(主観的告訴不可分の原則)。よって,Aに対してなされた告訴は,共犯者Bに対してもその効力を生じているので,A及びBの両名について公訴を提起することができる(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)46,47ページ)。

⑵ A及びBは,共謀してCの名誉を毀損した。Cは,犯人がAであることを知ってAを告訴したが,Aの謝罪を受け入れ,その告訴を取り消した。その後,共犯者Bがいたことが判明した。この場合,Cは,新たにBを告訴することができる。

解答・解説

(×) 親告罪について,共犯者の1人に対してした告訴,その取消しは,他の共犯者に対してもその効力を生じる(刑事訴訟法238条1項)。告訴は,公訴の提起があるまで取り消すことができるが,告訴の取消しをした者は再び告訴をすることはできない(刑事訴訟法237条1項,2項)。Aに対してなされた告訴,その取消しは,共犯者Bに対してもその効力を生じているので,Cは,既に告訴を取り消した以上,新たにBの存在が判明したからといって,この名誉毀損事件について再び告訴することはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)50,51ページ)。

⑶ Aは,一つの文書で,B及びCの名誉を毀損した。BのみがAを告訴した。この場合,Cを被害者とする犯罪事実についてもAを起訴することができる。

解答・解説

(×) 1個の犯罪の一部について告訴又はその取消しがあったときは,その犯罪の全部についてその効力を生じるのが原則である(客観的告訴不可分の原則)。本件は,2つの名誉毀損罪の観念的競合であり,全体が1個の犯罪である。しかし,本件では,被害者すなわち告訴権者が別であるので,この原則の適用場面ではなく,Cに係る事実に関しては,Cの告訴がなければAを起訴することはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)47ページ)。

⑷ Aは,友人Bの名誉を毀損した。Bは,犯人がAであることを知っても,友人であるAを告訴しなかったが,犯人がAであることを知ってから6か月経過後,Bの知らないCがAを教唆してAが犯行に及んだものだったことを知った。この場合,Bは,A及びCを告訴することができる。

解答・解説

(×) 親告罪の告訴期間は,一部の例外を除き,犯人を知った日から6か月である(刑事訴訟法235条本文)。共犯者がある場合,犯人の1人が特定されれば,「犯人を知った」ときに当たる。この「犯人」は,正犯者,教唆犯,幇助犯を問わない。よって,Aが犯人であることを知った日から6か月を経過すれば,教唆者Cについても告訴することはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)49ページ)。

⑸ Aは,B及びCの共有物である絵画を損壊した。Bは,犯人がAであることを知ったが,告訴をしないまま6か月が経過した。その後,Cは,外国旅行から帰国した日に初めて絵画を損壊された事実及び犯人がAであることを知り,その日のうちにAを告訴した。この場合,Cの告訴は有効である。

解答・解説

() 器物損壊罪は親告罪である(刑法261条,264条)。B及びCは,それぞれAを告訴することができるが,告訴をすることができる者が数人ある場合には,1人の期間の徒過は他の者に対しその効力を及ぼさない(刑事訴訟法236条,告訴期間の独立)。よって,Bは,6か月の告訴期間が経過したので告訴をすることができないが(刑事訴訟法235条本文),Cは,Aを告訴することができる(研修教材・八訂刑事訴訟法I(捜査)49ページ)。

第18問

公判前整理手続に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 弁護人は,裁判所に対し,事件を公判前整理手続に付すよう請求することができるが,検察官は,裁判所に対し,事件を公判前整理手続に付すよう請求することはできない。

解答・解説

(×) 事件を公判前整理手続に付すよう請求することができるのは,検察官,被告人及び弁護人である(刑事訴訟法316条の2第1項,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)75ページ,研修856号68ページ)。

⑵ 被告人又は弁護人が刑事訴訟法316条の17に基づく主張明示義務を果たさない場合,検察官は,同法316条の15による類型証拠開示請求に応じる義務はない。

解答・解説

(×) 弁護人に刑事訴訟法316条の17に基づく主張明示義務が生じるのは,同法316条の15による類型証拠の開示を受けた後である(刑事訴訟法316条の17第1項,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)84,85ページ)。

⑶ 裁判所が当事者からの証拠調べ請求を却下することができるのは,第1回公判期日以降であり,公判前整理手続において証拠調べ請求を却下することはできない。

解答・解説

(×) 「証拠調べをする決定または証拠調べの請求を却下する決定をすること。」は,公判前整理手続において行うことができる事項の一つである(刑事訴訟法316条の5第7号,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)77ページ)。

⑷ 公判前整理手続期日における被告人の出頭は必要的であり,期日に被告人が出頭しないときは,その期日の手続を行うことができない。

解答・解説

(×) 公判前整理手続においては,検察官及び弁護人の出頭は必要的であり,いずれかが出頭しないときは,その期日の手続を行うことができない(刑事訴訟法316条の7)のに対し,被告人の出頭は必要的ではない。なお,被告人は,公判前整理手続期日に出頭する権利を有し(同法316条の9第1項),また,裁判所は,必要と認めるときは,被告人に出頭を求めることができる(同条2項,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)76ページ)。

⑸ 公判前整理手続に付された事件については,被告人又は弁護人は,証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは,検察官の冒頭陳述に引き続き,これを明らかにしなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法316条の30,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)105ページ)。

第19問

公判手続に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 証拠調べの請求は,証拠とそれによって証明すべき事実との関係を具体的に明示して,これをしなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則189条1項)。いわゆる立証趣旨のことである(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)108ページ)。

⑵ 証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は,証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によって,適切な尋問をすることができるように準備しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則191条の3)。いわゆる証人テストのことである(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)110ページ)。

⑶ 証人尋問では,証人が真実を述べる旨の宣誓が行われるが,被告人質問では,被告人が真実を述べる旨の宣誓は行われない。

解答・解説

() 証人については,真実を述べる旨の宣誓(刑事訴訟法154条,刑事訴訟規則116~119条)が行われるが,被告人については,これは行わない(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)121,146ページ)。

⑷ 検察官は,既に窃盗の罪で公判請求済みの被告人に対し,更にこの窃盗の手段となった住居侵入の罪についても処罰を求めるときは,追起訴の手続を踏まなければならない。

解答・解説

(×) 牽連犯関係にある住居侵入と窃盗のような科刑上一罪の事件について,当初一つの訴因だけで起訴していたのに,新たに他の訴因を付け加えるような場合,訴因の追加ができる。訴因の追加は,追起訴とは異なる(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)176,177ページ,研修860号65ページ)。

⑸ 証人尋問の時間は証人尋問を実施してみなければ分からないのであるから,証人尋問請求者が証人の尋問を請求するときは,証人の尋問に要する見込みの時間を申し出る必要はない。

解答・解説

(×) 証人の尋問を請求するときは,証人の尋問に要する見込みの時間を申し出なければならない(刑事訴訟規則188条の3第1項,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)109ページ)。

第20問

証拠に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 鑑定書に記載された鑑定の経過及び結果は,非供述証拠である。

解答・解説

(×) 鑑定書に記載された鑑定の経緯及び結果(刑事訴訟法321条4項)は,証拠資料となるものが人の知識・経験の報告であるから供述証拠である。(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)4ページ)。

⑵ 収集手続に違法がある証拠については,証拠能力が認められることはない。

解答・解説

(×) 収集手続に違法がある違法収集証拠については,「証拠物の押収等の手続に,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定されるものと解すべきである」(最判昭53.9.7刑集32・6・1672)とし,①令状主義の精神を没却するような重大な違法があるか否か(違法の重大性),②証拠として許容することが将来における違法捜査抑制の見地から相当でないと認められるか否か(違法捜査抑制の観点)の2点を違法収集証拠の証拠能力の判断基準としており,違法の程度が重大ではなく,証拠として許容しても将来における違法捜査抑制の見地から問題がないと認められる場合には証拠能力を肯定しているのが最近の判例の基本的立場である(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)28ページ)。したがって,証拠収集手続に違法がある場合,証拠能力が認められることはないとする点が誤っている。

⑶ 共犯者の供述や共同被告人の供述は,その供述が自白であっても被告人の自白の補強証拠となり得る。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)113,114ページ,研修870号95~102ページ)。

⑷ 再犯加重の要件となる前科は,刑事訴訟法335条1項にいう「罪となるべき事実」ではないから,これを認定するには厳格な証明を要しない。

解答・解説

(×) 再犯加重の要件となる前科は,処断刑の範囲を定めるものであるから,厳格な証明を要すると解される(最決昭33.2.26刑集12・2・316,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)53ページ)。

⑸ 検察事務官作成の前科調書は,刑事訴訟法326条の同意を得られなくても,同法323条1号に該当する書面として証拠能力が認められる。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)180~182ページ,名古屋高判昭25.11.4判特14・78)。

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証拠品事務

第21問

証拠品の受入れに関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 証拠品担当事務官は,証拠品を受領した場合,領置票に品名,数量その他必要事項を記入し,所属課長又は検務監理官,統括検務官若しくは検務専門官の押印を受けるが,この押印は,必ず符号ごとに受ける必要がある。

解答・解説

(×) 領置票の所属課長等の押印は,事務の効率化を図るため,同一日に受け入れる符号の連続する証拠品については,領置票の受入欄1段目の符号ごとの押印に代え,ページごとに一括して,各ページの最初の符号の所属課長等印欄に押印することが認められている(証拠品事務規程5条,平成20.7.15法務省刑総1076号刑事局長通達,研修教材・八訂証拠品事務解説20ページ,研修865号35ページ)。

⑵ 領置番号は,事件記録ごとに進行することから,被疑者が複数いても事件記録が1冊であれば,一つの番号を付す。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程6条,研修教材・八訂証拠品事務解説21ページ,研修865号36ページ)。

⑶ 領置票の品名欄の記入に当たっては,証拠金品総目録の記載を転記するだけでは物の特定に不十分な場合には,物の特定に必要な事項を補って記入する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・八訂証拠品事務解説19,20ページ,研修865号34,35ページ)。

⑷ 証拠品担当事務官は,押収物たる通貨を受領し領置票を作成したときは,保管金提出・受入通知書に必要事項を記入して検察官の押印を受け,押収物たる通貨及び領置票と共に歳入歳出外現金出納官吏に送付する。

解答・解説

(×) 押収物たる通貨の出納保管は,いわゆる立会封金扱いをして証拠品担当事務官が行う。換価代金の出納保管は歳入歳出外現金出納官吏が行うこととされており,証拠品担当事務官は,換価代金を受領し領置票を作成したときは,保管金提出・受入通知書に必要事項を記入して検察官の押印を受け,これを換価代金及び領置票と共に歳入歳出外現金出納官吏に送付する(証拠品事務規程8条3項,9条,13条,14条,研修教材・八訂証拠品事務解説22,23,29,30ページ,研修865号37,38ページ)。

⑸ 司法警察員等から証拠品が追送された場合において,既に送致された事件について領置票が作成されているときは,その領置票により受入手続をするが,その領置票が既済となっている場合であって,既済となった年が前年以前のときは,新たな領置票により受入手続をする。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程6条,11条,研修教材・八訂証拠品事務解説24,25ページ,研修865号38ページ)。

第22問

証拠品の保管に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 証拠品の保管に当たっては,「証拠価値の保全」に努めるとともに,「財産的価値の保全」にも配慮する必要がある。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程2条,研修教材・八訂証拠品事務解説27,28ページ,研修866号49,50ページ)。

⑵ 貴重品と認められる物は,特殊証拠品として取り扱うこととされているが,時計等の本来貴重品とされるものであっても,破損が著しいため経済的価値がないと認められるものについては,特殊証拠品として取り扱う必要はない。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程16条,研修教材・八訂証拠品事務解説32ページ,研修866号51,52ページ)。

⑶ 証拠品を保管委託した場合,有償での保管委託であれば,検察官は,証拠品担当事務官に,当該証拠品の保管状況を確認させる必要はない。

解答・解説

(×) 証拠品を保管委託した場合には,有償か無償かにかかわらず,検察官は,証拠品担当事務官に当該証拠品の保管状況を確認させる必要がある(証拠品事務規程72条,研修教材・八訂証拠品事務解説134,135ページ,研修866号57ページ)

⑷ 有償で保管委託した場合,受託者が善良な管理者の注意義務を負うこととなるから,検察官の保管責任は,自己の財産に対するのと同一の注意義務に軽減される。

解答・解説

(×) 有償で保管委託した場合であっても,委託者である検察官は,引き続き,善良な管理者の注意義務を負う(民法400条,研修教材・八訂証拠品事務解説132,133ページ,研修866号56ページ)。

⑸ 中止処分に付された事件の証拠品については,事件が再起される前に被押収者に還付することは許されない。

解答・解説

(×) 中止事件の証拠品は,原則として公訴時効が完成するまで保管を継続するが,運搬又は保管に不便な物を保管委託すること,危険を生ずるおそれがある物を廃棄すること,没収することのできる証拠品で滅失若しくは破損のおそれがある物又は保管に不便な物を換価処分すること,留置の必要のない物を還付又は仮還付すること,領置の必要のない記録媒体を交付し又は電磁的記録の複写を許すことができる(証拠品事務規程59条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説116ページ,研修866号58,59ページ)。

第23問

証拠品の処分に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官が領置票の処分命令欄に押印する場合,連続する複数の符号に係る証拠品の処分の日及び処分命令が同一であれば,領置票のページごとに,連続した符号に係る証拠品について一括して押印すれば足りる。

解答・解説

(×) 処分事務の重要性に鑑み,検察官の処分命令印を一括して受ける取扱いは相当ではなく,検察官において,証拠品担当事務官による処分命令案が相当か否か証拠品につき一点ずつ確認した上で,その都度処分命令印を押印することが必要である(研修教材・八訂証拠品事務解説39,40ページ,研修868号55,56ページ)。

⑵ 証拠品担当事務官は,仮出しした証拠品を検察官が裁判所に提出した場合において,検察官から押収目録又は証拠品提出証明書の交付を受けたときは,証拠品仮出票の乙片を検察官に返還するとともに,領置票の命令要旨欄に「裁判所提出」,てん末欄に「提出済」と記入して検察官の押印を受け,領置票を処分済みとして整理する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程24条2項,研修教材・八訂証拠品事務解説43ページ,研修868号57,58ページ)。

⑶ 未成年者のする所有権放棄については,必ず法定代理人の同意が必要である。

解答・解説

(×) 未成年者のする所有権放棄については,当該証拠品が「処分を許された財産」(民法5条3項)に当たらない場合には,法定代理人の同意を得る必要がある(民法5条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説83ページ,研修869号73ページ)。

⑷ 事件終結前であっても,還付,仮還付及び被害者還付の処分をすることができるが,廃棄処分をすることはできない。

解答・解説

(×) 事件終結前であっても,還付,仮還付及び被害者還付の処分をすることができることはそのとおり。そして危険を生ずるおそれがある証拠品については事件終結前であっても廃棄することができる(刑事訴訟法222条1項,121条2項,123条,124条,証拠品事務規程60条,65条,研修教材・八訂証拠品事務解説121,125ページ)。

⑸ 仮還付した証拠品をそのまま還付する場合には,証拠品担当事務官は,検察官の指示を受け,本還付通知書により,受還付人にその旨を通知する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程62条2項,研修教材・八訂証拠品事務解説122ページ)。

第24問

証拠品の没収に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 国の機関が押収している証拠品について,没収の裁判が確定した後,その処分前に焼失等により事実上その処分が不能になった場合には,没収執行不能決定をする。

解答・解説

(×) 押収中の没収物について,その処分前に焼失等によって事実上その処分が不能になった場合には,没収物処分不能決定の処分を行う(証拠品事務規程42条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説79,80ページ,研修869号72,73ページ)。

⑵ 関税法違反に係る輸入禁制品については,私人間で売買の対象になり取引価額が形成されているものであっても売却せず,破壊又は廃棄等の処分をする。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程29条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説47,48ページ,研修868号62ページ)。

⑶ 没収物が外国通貨であるときは,売却が可能なものであっても廃棄する。

解答・解説

(×) 没収物が通貨であるときは,歳入編入の処分をすることとされているが,外国通貨は除かれている。外国通貨は,売却可能なものは売却し,売却できないものは廃棄する(証拠品事務規程31条,研修教材・八訂証拠品事務解説54,55ページ,研修869号62ページ)。

⑷ 没収物が収入印紙及び郵便切手類であるときは,廃棄する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程33条1項,別表第2,研修教材・八訂証拠品事務解説60ページ,研修869号63ページ)。

⑸ 没収物が拳銃であるときは,再使用できないよう破壊した上で廃棄する。

解答・解説

(×) 拳銃は,警視庁又は道府県警察本部を通じて警察庁に引き継ぐ(証拠品事務規程33条1項,別表第2,研修教材・八訂証拠品事務解説60ページ,研修869号67ページ)。

第25問

証拠品の還付に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには✕の欄に印を付けなさい。

⑴ 証拠品の還付とは,押収を解除して押収以前の状態に戻すことであるから,必ず被押収者に還付しなければならない。

解答・解説

(×) 証拠品は被押収者に還付するのが原則であるが,押収した鹹物(盗品等)で,被害者に還付すべき理由が明らかなときは,被害者に還付する(刑事訴訟法222条1項,123条1項,124条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説88~94ページ,研修871号42,43ページ)。

⑵ 証拠品担当事務官は,証拠品を郵送その他の方法により送付して還付するのを相当と認める場合には,受還付人に対し,送付による還付の希望の有無を照会するが,この照会は,必ず書面で行う必要がある。

解答・解説

(×) 送付による還付の希望の有無の照会は,必ずしも書面による必要はなく,電話等適宜な方法により行う(証拠品事務規程50条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説99ページ,研修871号48ページ)。

⑶ 押収物の還付公告を検察庁の掲示場に掲示する方法により行う場合,14日間掲示し,その期間内に還付の請求がないときは,押収物は国庫に帰属する。

解答・解説

(×) 検察庁の掲示場に掲示する方法により還付公告を行う場合,掲示場における14日間の掲示の末日の翌日を初日として起算し,6か月の還付請求期間内に還付の請求がないときに,その物の所有権は国庫に帰属する(刑事訴訟法499条,押収物還付等公告令2条,証拠品事務規程52条1項,研修教材・八訂証拠品事務解説103~112ページ,研修871号51,52ページ)。

⑷ 還付公告の手続を経て押収物が国庫に帰属した後,その処分前に還付の請求があっても,還付する必要はない。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・八訂証拠品事務解説111ページ,研修871号53ページ)。

⑸ 換価代金の還付については,還付命令の記載された領置票を受領した歳入歳出外現金出納官吏において手続をする。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程14条,48条,研修教材・八訂証拠品事務解説96ページ,研修871号49,50ページ)。

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