全国一斉考試

【平成30年度】検察事務官等全国一斉考試の問題・解答・解説

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憲法・検察庁法

第1問

国民の権利及び義務に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 最高裁判所は,憲法14条以下に列挙された人権以外の新しい人権については,いかなるものであっても,憲法13条に基づき保護される旨の判断を示すには至っていない。

解答・解説

(×) 憲法13条の幸福追求権を根拠として主張される新しい人権は多く,その代表的なものとして,プライバシー権,環境権などが挙げられるところ,最高裁判所も,憲法13条に言及した上で,いわゆる肖像権を認めたとされている。すなわち,判例(最判昭44.12.24刑集23・12・1625)は,犯罪捜査のための写真撮影といわゆる肖像権との関係について,「憲法13条は(中略),国民の私生活上の自由が,警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として,少なくとも,警察官が,正当な理由もないのに,個人の容ぼう等を撮影することは,憲法13条の趣旨に反し,許されない」と判示した(研修教材・五訂憲法74,75ページ,研修774号73~80ページ,808号71~75ページ)。

⑵ 憲法14条1項後段に列挙された「人種,信条,性別,社会的身分又は門地」以外を理由とする場合であっても,合理性を欠く差別的取扱いは憲法上許されない。

解答・解説

() 憲法14条1項後段は,差別の原因となると思われるものとして,人種など5つの事項を列挙しているが,法の下の平等を定める同項前段により,合理性を欠く理由による差別は禁止される。人種など5つの事項は例示列挙と解すべきであり,それらに該当しない場合でも,不合理な差別的取扱いは全て禁止される。判例(最判昭39.5.27民集18・4・676)も,「憲法14条1項(中略)は,国民に対し,法の下の平等を保障したものであり,右各法条に列挙された事由は例示的なものであって,必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当である(中略)右各法条は,(中略)差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきである」と判示した(研修教材・五訂憲法80~84ページ,研修772号52,53ページ,810号62ページ)。

⑶ 憲法31条は,刑事に関する手続を法律で定めることやその内容が適正であることを保障しているが,刑事に関する実体法を法律で定めることやその内容が適正であることまで保障しているものではない。

解答・解説

(×) 憲法31条は,条文上,単に刑事手続の法定だけを保障しているようにも思われるが,立法経緯に照らすと,実体法が手続法により適用される過程の全体を「手続」と表現し,その全体の「適正」を保障しているものと考えられ具体的には,①手続の法定(刑事手続法定主義),②手続の適正,③実体法の法定(罪刑法定主義),④実体法の適正を保障しているものと解されている。例えば,判例(いわゆる徳島市公安条例事件,最判昭50.9.10刑集29・8・489)は,同条例の規定が犯罪構成要件として明確であるかが問題となったことに関し,同条例の文言が明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない旨判示しており,憲法31条が実体法の適正をも要求していると解しているものと考えられる(研修教材・五訂憲法130~132ページ,研修814号42ページ)。

⑷ 憲法25条1項は,生活水準の確保向上を国に対して求めることについて,国民に具体的な請求権を与えたものではない。

解答・解説

() 憲法25条1項の法的性格に関する代表的な見解としては,プログラム規定説,抽象的権利説,具体的権利説があるが,判例(いわゆる食糧管理法違反事件,最判昭23.9.29刑集2・10・1235等)は,同条項について,「積極主義の政治として,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国家の責務として宣言したものである。それは,主として社会的立法の制定及びその実施によるべきであるが,かかる生活水準の確保向上もまた国家の任務の一つとせられたのである。すなわち,国家は,国民一般に対して概括的にかかる責務を負担しこれを国政上の任務としたのであるけれども,個々の国民に対して具体的,現実的にかかる義務を有するのではない。言い換えれば,この規定により直接に個々の国民は,国家に対して具体的,現実的にかかる権利を有するものではない。」と判示しており,憲法25条1項の具体的権利性を否定している(研修教材・五訂憲法160~165ページ,研修782号71~76ページ)。

⑸ 憲法は,国民の義務として,教育を受ける義務,勤労の義務,納税の義務を定めている。

解答・解説

(×) 憲法が規定する国民の義務は,勤労の義務(憲法27条1項),納税の義務(憲法30条)のほか,子女に教育を受けさせる義務(憲法26条2項)であり,教育を受ける義務ではない(研修教材・五訂憲法189ページ)。

第2問

精神的自由に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 民主主義を否定する思想のみならず,非合法的手段により政権を奪取しようとする思想であっても,それが内心にとどまる限り,公共の福祉による制約を受けることはない。

解答・解説

() 基本的人権は,公共の福祉による制約を受けることがあるが,思想及び良心は,内心における問題であり,他人の権利,自由と衝突することは考えらないことから,それが内心にとどまる限り,公共の福祉による制約を受けることはない(研修教材・五訂憲法95ページ)。

⑵ 憲法20条3項が定める政教分離原則は,明治維新以降国家と宗教とが密接に結びつき,種々の弊害が生じたことなどに鑑み,国が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものである。

解答・解説

(×) 判例(いわゆる津市地鎮祭事件,最判昭52.7.13民集31・4・533)は,「憲法は,明治維新以降国家と神道とが密接に結びつき(中略)種々の弊害を生じたことにかんがみ,新たに信教の自由を無条件に保障することとし,更にその保障を一層確実なものとするため,政教分離規定を設けるに至ったのである。(中略)憲法は,政教分離規定を設けるにあたり,国家と宗教との完全な分離を理想とし,国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたもの,と解すべきである。」とつつ,「しかしながら(中略)政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れず(中略)政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いが(中略)相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。」と判示した(研修教材・五訂憲法98,101~107,研修784号55~68ページ)。

⑶ 新聞等の報道は事実の伝達を基本としているから,報道の自由は,憲法21条の精神に照らして十分尊重に値するが,同条の保障の下にはない。

解答・解説

(×) 判例(いわゆる北海タイムス事件,最判昭33.2.17刑集12・2・253)は,「およそ,新聞が真実を報道することは,憲法21条の認める表現の自由に属」すると判示し,判例(いわゆる博多駅フィルム事件,最判昭44.11.26刑集23・11・1490) も,「事実の報道の自由は,表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにある」と判示しており,報道の自由は,表現の自由に属し,その保障の下にある。なお,取材の自由について,判例(前掲最判昭44.11.26刑集23・11・1490)は,「憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値いするものといわなければならない。」と判示した(研修教材・五訂憲法112~114ページ,研修824号71,72ページ)。

⑷ 裁判所が仮処分により出版物の発売を事前に差し止めることは,「検閲」(憲法21条2項前段)に該当するが,厳格かつ明確な要件の下において例外的に許容される。

解答・解説

(×) 判例(いわゆる北方ジャーナル事件,最判昭61.6.11民集40・4・872)は,「憲法21条2項前段は,検閲の絶対的禁止を規定したものである」,「憲法21条2項前段にいう検閲とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査したうえ,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものを指すと解すべき」とした上で,「仮処分による事前差止めは,表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり,(中略)「検閲」には当たらない」と判示し,さらに,「裁判所の行う出版物の頒布等の事前差止めは,いわゆる事前抑制として憲法21条1項に違反しないか,について検討する。」とした上で,「表現行為に対する事前抑制は,表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし,厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる」,「出版物の頒布等の事前差止めは,このような事前抑制に該当する」と判示した(研修教材・五訂憲法121,122ページ,研修820号57~64ページ)。

⑸ 憲法23条の学問の自由には,学問的研究の自由は含まれるが,その研究結果の発表の自由は,憲法21条1項で保障されており,憲法23条の学問の自由には含まれない。

解答・解説

(×) 判例(いわゆるポポロ劇団事件,最判昭38.5.22刑集17・4・370)は,「学問の自由は,学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含む」と判示した。学問は,真理探究それ自体に向けられた論理的体系的知識にかかわるものであるところ,学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由は,それぞれ,思想良心の自由,表現の自由に対していわば特別法的性格を有するといえる(研修教材・五訂憲法127ページ)。

第3問

衆議院と参議院に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 法律案について,衆議院で可決し,参議院でこれと異なった議決をした場合には,両議院の協議会を開かなければならない。

解答・解説

(×) 法律案の議決を巡って衆議院,参議院の意見が対立した場合には協議会を開くかどうかは,衆議院の判断にゆだねられている。憲法59条3項,国会法84条(研修教材・五訂憲法199ページ)。

⑵ 予算について,参議院で衆議院と異なった議決をした場合には,両議院の協議会を開かなければならない。

解答・解説

() 憲法60条2項,研修教材・五訂憲法199ページ。

⑶ 衆議院の解散については,衆議院による自律的解散も明文上認められている。

解答・解説

(×) 憲法上,解散権は内閣に属すると解されており(憲法7条3号,69条参照),衆議院の自律的解散を認める明文の規定はない(研修教材・五訂憲法218ページ)。

⑷ 内閣が法律案を国会に提出する場合,憲法上,参議院に提出するよりも先に衆議院に提出しなければならない。

解答・解説

(×) 憲法60条1項には,「予算は,さきに衆議院に提出しなければならない。」と規定されているが,法律についてはそのような規定がない。したがって,法律案が衆議院よりも先に参議院に提出されたとしても,憲法には反しない(研修教材・五訂憲法198ページ参照)。

⑸ 衆議院で内閣不信任の決議案が可決された場合と,参議院で同様の決議案が可決された場合とで,双方の効果に差はない。

解答・解説

(×) 憲法69条には衆議院で内閣不信任決議案が可決された場合の効果について規定されているが,参議院についてはそのような効果についての規定がなく,衆議院のみが法的効果を伴う内閣不信任決議権を有するとされている(研修教材・五訂憲法198ページ)。

第4問

司法権に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決して対審を非公開とした事件であっても,その判決は公開の法廷で行われなければならない。

解答・解説

() 裁判の対審(刑事訴訟手続における公判手続,民事訴訟手続における口頭弁論をいう。)及び判決は,公開の法廷で行うのが原則である。裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には,対審は公開しないで行うことができる。しかし,判決は,常に公開の法廷で行わなければならない。なお,政治犯罪,出版に関する犯罪又は憲法の保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は,必ず公開しなければならない点に注意(憲法82条,裁判所法70条,研修教材・五訂憲法271ページ)。

⑵ 憲法は,すべての司法権が最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属すると規定しているので,両議院の議員の資格争訟の裁判権も最高裁判所及び下級裁判所に属する。

解答・解説

(×) すべて司法権を裁判所に帰属させる原則の憲法上の例外として,両議院の行う議員の資格争訟の裁判(憲法55条)と罷免の訴追を受けた裁判官を裁判する弾劾裁判所の裁判(憲法64条)が規定されている(研修教材・五訂憲法240ページ)。

⑶ 法令が最高裁判所によって違憲と判断された場合,その判断により,当該事件に関して法令の適用が否定されるのみならず法令自体の効力まで否定される。

解答・解説

(×) 法令が最高裁判所によって違憲と判断された場合であっても,その判断は,具体的な事件の解決を目的としてなされたものである。したがって,違憲と判断された法令は,当該事件に対して適用が否定されるにとどまり,その法令自体の効力まで否定されるものではないと解されている(個別的効力説)。最高裁判所裁判事務処理規則14条には,法令が違憲の判決を受けたときは,裁判所は,その要旨を官報に公告するほか,裁判書の正本を内閣に送付し,特に法律を違憲であるとしたときは,その正本を国会にも送付する旨が定められている。これらは,違憲判決の事後措置を,立法府等に委ねる趣旨であり,これらの手続も,個別的効力説に立つことを前提としているといえる(研修教材・五訂憲法269ページ)。

⑷ 自律的な法規範をもつ団体内の法律的な紛争の中には,必ずしも裁判で解決するのを適当とせず,司法審査の対象とならないものもある。

解答・解説

() 団体の内部的事項については,一般市民秩序と直接の関係があると認められる特段の事情がない限り,司法審査の対象とならないとされている(いわゆる部分社会の法理)。判例は,市町村議会議員に対する出席停止の懲罰議決の効力が争われた事案につき,「自律的な法規範をもつ社会ないし団体に在っては,当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ,必ずしも,裁判にまつを適当としないものがある」「本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当すると解するのを相当とする」と判示している(最判昭35.10.19民集14・12・2633)。ただし,議員の除名処分の如きは,議員の身分の喪失に関する重大事項で,単なる内部規律の問題に止まらないことから,司法審査が及ぶとされていることに注意(研修教材・五訂憲法244ページ)。

⑸ ある者が宗教法人の代表役員の地位にあることが争われている訴訟において,その者が代表役員の地位にあることを判断するためには,その者の宗教活動上の地位の存否を判断する必要があり,そのためには宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することが必要不可欠である場合には,その訴えは,司法審査の対象とならないものもある。

解答・解説

() 宗教団体の代表役員等の地位をめぐる紛争につき,その者の地位の存否を審理,判断するにつき,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することが必要不可欠ならば,その訴えは裁判所法3条の「法律上の争訟」にはあたらず,司法審査の対象とはならない(最判平5.9.7民集47・7・4667,研修教材・五訂憲法248ページ)。

第5問

検察庁法に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 各検察庁の長以外の検察官の検察事務に関する権限は,各検察庁の長である検察官の権限を分掌したものである。

解答・解説

(×) 検察庁法1条1項の「検察官の行う事務」には,検察事務と検察行政事務の両者が含まれるが,検察事務については,個々の検察官が自ら国家意思を決定表示する権限を有する(独任制官庁)のに対し,検察行政事務については,その庁の長の権限に由来するもので,各検察庁の長以外の検察官の検察行政事務についての権限は,一般行政官庁と同様に,長である検察官の権限を分掌したものである(研修教材・六訂検察庁法26,47,49,50ページ)。

⑵ 検察官は,検事総長,検事長,検事正,検事及び副検事の5種類とされている。

解答・解説

(×) 検察官は,検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事とされている(検察庁法3条)。

⑶ 刑事について公訴を行う権限を規定した検察庁法4条に,捜査権も当然に規定されていると解される。

解答・解説

() そのとおり。犯罪の捜査は,検察庁法4条の「公訴を行」うことの必然的な前提であるので,「公訴を行」う権限の中に捜査権は当然予定されていると解される(研修教材・六訂検察庁法13ページ)。

⑷ 地方検察庁の検事は,区検察庁検察官事務取扱の発令を受けていなくても,簡易裁判所のみの事物管轄に属する事件を捜査することができる。

解答・解説

() 検察庁法6条1項は,検察官の捜査についての事物管轄の制限を解除したもので,地方検察庁の検事も,簡易裁判所の事物管轄に属する事件の捜査をすることができる(研修教材・六訂検察庁法38,39ページ)。

⑸ 検察庁法12条に規定されている事務引取権及び事務移転権は,検察官同一体の原則の法律的根拠の一つと言うことができる。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂検察庁法28ページ)。

民法(総則・債権)

第6問

意思表示に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても有効である。意思表示の相手方が表意者の真意を知らないことに過失があった場合も,その意思表示は有効である。

解答・解説

(×) 民法93条。心裡留保とは,表意者が表示行為に対応する効果意思のないことを知りながらする,相手方と通謀のない意思表示である。心裡留保は,表意者の内心と表示行為が一致しないことから,無効とされるべきところであるが,取引の安全を図る必要がある一方,表意者を保護する必要がないことから,表示どおり有効とするのを原則とした。ただ,相手方が表意者の真意を知り又は知ることができた場合には意思表示は無効とされている(研修教材・七訂民法I(総則)92ページ)。

⑵ Aは,Bに対し,自己所有の建物を売却するつもりがないのに,「自分の家を買ったことにしてくれ。」と頼み,Bがこれを了解して,AB間でA所有に係る建物について仮装の売買契約を締結した。AB間のこの売買契約は無効である。

解答・解説

() 民法94条。虚偽表示とは,相手方と通じて行った真意でない意思表示である。真意でない意思表示という点では心裡留保(民法93条)と共通するが,相手方と通じて行った点で異なっている。心裡留保の場合,相手方の取引の安全を図る必要があるが,虚偽表示の場合,相手方の取引の安全を図る必要はなく,無効である(研修教材・七訂民法I(総則)92,94ページ)。

⑶ 錯誤による意思表示の無効は,表意者自身において主張する意思がないときであっとても,相手方や第三者においてこれを主張することができる。

解答・解説

(×) 民法95条。錯誤を無効としたのは,表意者を保護するためであるから,相手方や第三者が表意者の意思に反して無効を主張することはできない(最判昭40.9.10民集19・1512,研修教材・七訂民法I(総則)106ページ)。

⑷ Aは,Bの詐欺によりAが所有する土地をBに売却した。その後,Bがその土地をCに売却した。CがBによる詐欺について知らなかった場合,Aは,AB間の売買契約を詐欺を理由に取り消すことができない。

解答・解説

(×) 民法96条。詐欺による意思表示は,相手方からの詐欺による場合には常に取り消すことができる。相手方が目的物を第三者に譲渡した場合であっても同様であり,ただ,表意者は,取消しの効果を第三者に対抗できないだけである。Aは,Bに対しては詐欺取消しの効果を主張できるが,Cに対しては詐欺取消しの効果を主張できず,したがって,Cに対して土地の返還を請求することができない(研修教材・七訂民法I(総則)110ページ)。

⑸ Aは,Bの強迫によりAが所有する土地をBに売却し,AからBへの所有権移転登記手続が行われた。その後,Bがその土地をCに売却し,BからCへの所有権移転登記手続が行われた。さらに,その後,AがAB間の売買契約を強迫を理由に取り消した。この場合,Aは,Cに対してその土地の所有者であることを主張できる。

解答・解説

() 取消しの効果は遡及効であり(民法121条),法律行為が取り消されると,法律行為から発生した法律効果が,初めから発生しなかったものとして扱われる。したがって,BC間の売買契約の後にAがAB間の売買契約を強迫を理由として取り消した場合,Aは,Cから不動産の返還を求めることができる。この結論は,CがAB間の事情につき善意の場合でも同様である(詐欺取消しに関する民法96条3項の反対解釈)。なお,AがAB間の売買契約を取り消す意思表示をした後にBC間の売買契約がなされた場合には,AC間は対抗問題になると解されている(研修教材・七訂民法I(総則)114,150ページ)。

第7問

時効に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 金銭債権の債務者は,金銭債権の消滅時効が完成してその消滅時効を援用した場合,元本の支払義務を免れるが,消滅時効完成前に発生した利息の支払義務を免れることができない。

解答・解説

(×) 民法144条には,「時効の効力は,その起算日にさかのぼる。」と規定されており,時効の制度は,その期間中継続した事実状態をそのまま保護することを目的としたものであり,金銭債務を免れた者は利息支払義務についても免れる(研修教材・七訂民法I(総則)166ページ)。

⑵ 消滅時効を援用し得る者は,権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。

解答・解説

() 時効の援用権者は「当事者」とされており(民法145条),判例は,消滅時効につき,「民法145条の規定によって消滅時効を援用しうる者は,権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される」と判示している(最判昭48.12.14民集27・11・1586,最判平11.10.21民集53・7・1190等。研修教材・七訂民法I(総則)168ページ)。なお,平成29年の民法改正により,民法145条には消滅時効の援用権者につき「保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む」と明記された。

⑶ Aは,他人であるB所有の土地につき善意・無過失で占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然と8年間占有し続けた後に死亡した。Aの相続人であるCは,Aの死亡後直ちにその土地の占有を開始し,所有の意思をもって,平穏かつ公然と,現在に至るまで3年間占有し続けたが,Cの占有開始の時にその土地がB所有だと知っていた。この場合,Cは現時点ではその土地を時効取得することはできない。

解答・解説

(×) 10年間の取得時効について定めた民法162条2項には,「その占有の開始の時に,善意であり,かつ,過失がなかったときは」と規定されている。判例は,「民法162条2項の規定は,時効期間を通じて占有主体に変更がなく同一人により継続された占有が主張される場合について適用されるだけではなく,占有主体に変更があって承継された2個以上の占有が併せて主張される場合についてもまた適用される」と判示している(最判昭53.3.6民集32・2・135,研修教材・七訂民法I(総則)177ページ)。

⑷ 停止条件付債権の消滅時効は,条件成就の時が起算点となる。

解答・解説

() 消滅時効期間の起算点は,権利を行使することができる時である(民法166条1項)。停止条件付債権は,条件が成就した時からその効力を生ずる(民法127条1項)ので,条件成就の時が消滅時効期間の起算点となる(研修教材・七訂民法I(総則)180ページ)。

⑸ 金銭債権の債務者は,その消滅時効完成前であっても,時効完成により受ける利益を放棄することができる。

解答・解説

(×) 時効の利益を受けることを潔しとしない者を尊重し,時効が完成した後に時効の利益を放棄することが認められている(時効の利益の放棄については債務者において時効完成の事実を知ってこれをなしたことを要し,時効完成後に債務の承認をしたからといって直ちに時効の完成を知ってしたものと推定することはできないが,いったん債務の承認をした以上,相手方において債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,たとえ時効完成の事実を知らなくても,あとから,時効の援用をするのは信義則に反し許されない。最判昭41.4.20民集20・4・702)。しかし,時効完成前に時効の利益を放棄することは許されない(民法146条)。時効は公益的制度であること,債権者が債務者の弱みにつけ込んで強制的に放棄を約束させるのを防ぐ必要があることなどを理由としている(研修教材・七訂民法I(総則)171ページ)。

第8問

保証債務に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ AのBに対する債務についてCを保証人とする保証契約は,A,B及びCの三者で,書面(電磁的記録による場合を含む。)によりしなければ,その効力を生じない。

解答・解説

(×) 保証契約は,債権者と保証人との間で書面ないし電磁的記録をもって行われる保証契約によって成立する。主たる債務者Aは,保証契約の当事者ではない(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)90ページ,研修831号47ページ)。

⑵ AのBに対する債務について保証人Cがいる。当該債務は,Aの行為能力の制限によって取り消すことができる債務である。Cが保証契約の時点でその取消原因を知っていたときは,その債務の取消しの場合において,Cが同一内容の独立の債務を負担したものと推定される。

解答・解説

() 行為能力の制限を理由に主たる債務が取り消された場合,保証債務も消滅するが,保証人が保証契約の当時その取消原因を知っていたときは,主たる債務が取り消された場合において保証人が同一内容の独立の債務を負担したものと推定される(民法449条)。主債務者が行為無能力者であることを知りながら保証人になるということは,主たる債務が取消しにより消滅したとしても債権者に損害を被らせないという趣旨であると解するのが当事者の合理的意思に合致するからである(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)89ページ,研修831号47ページ)。

⑶ AのBに対する債務について,Aが保証人を立てる義務を負っている場合であって,Bから保証人の指名がないときは,保証人となる者は,行為能力者であり,かつ,弁済をする資力を有する者でなければならない。

解答・解説

() 保証人の資格には制限がないが,債務者に法律上又は契約上保証人を立てる義務のあるときは,保証人は,行為能力者であること,弁済をする資力を有することの二つの要件を具備する必要がある。ただし,債権者が保証人を指名した場合にはこの限りではない(民法450条1項,3項)。

⑷ AのBに対する債務について,保証人CはAと連帯して債務を負担している。BがCに対して債務の履行を請求した場合,Cは,Bに対し,まずAに催告をすべき旨を請求することができる。

解答・解説

(×) 連帯保証人であるCには,催告の抗弁権はない(民法454条)。

⑸ AのBに対する債務について保証人Cがいる場合,BのAに対する履行の請求によりAのBに対する債務の消滅時効が中断しても,Cに対しては中断の効力は生じない。

解答・解説

(×) 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対してもその効力を生ずる(民法457条1項)。

第9問

民法上の契約に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 贈与は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方がこれを受諾してその財産の引渡しを受けることによって,その効力を生ずる。

解答・解説

(×) 贈与は,当事者の一方が財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって成立する無償・片務・諾成契約である(民法549条。研修教材七訂民法Ⅲ(債権)148~152,167ページ)。

⑵ 消費貸借は,当事者の一方が,種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。

解答・解説

() そのとおり。消費貸借は,無償(利息付きの場合は有償)・片務・要物契約である(民法587条。研修教材・七訂民法Ⅲ(債権)148~152,182ページ)。なお,平成29年の民法(債権関係)の改正(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号))により,要物契約としての消費貸借(改正後の民法587条)に加えて,書面ですることが必要とされる諾成的消費貸借の規定が新設された(改正後の民法587条の2)。

⑶ 賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。

解答・解説

() そのとおり。賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって成立する有償・双務・諾成契約である(民法601条,研修教材・七訂民法Ⅲ(債権)148~152,185,186ページ)。

⑷委任は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。

解答・解説

(×) 委任は,当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって成立する無償・片務(報酬の特約(民法648条)があれば有償・双務)・諾成契約である(民法643条。研修教材・七訂民法Ⅲ(債権)148~152,208ページ)。問題文の記述は,請負(民法632条)に関するものである。

⑸ 寄託は,当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。

解答・解説

() そのとおり。寄託は,他人の物を保管するという特殊の労務を目的とする無償・片務(報酬の特約あるときは有償・双務)・要物契約である(民法657条,研修教材・七訂民法Ⅲ(債権)148~152,209ページ)。なお,平成29年の民法(債権法)の改正により,寄託は諾成契約に改められた(改正後の民法657条)。

第10問

不法行為に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 未成年者が他人に損害を与えた場合,当該未成年者が不法行為に基づく損害賠償責任を負うときであっても,その監督義務者も損害賠償責任を負うことがある。

解答・解説

() 民法714条1項は,712条の規定により未成年者が不法行為責任を負わない場合において,当該未成年者の監督義務者が責任を負う旨規定しているところ,未成年者に責任能力があればその未成年者自身が民法709条の不法行為責任を負うので,監督義務者に民法714条1項の責任は発生しない。しかし,このように未成年者が責任能力を有しており,714条1項の責任は発生しない場合であっても,監督義務者の義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めることができるときは,監督義務者につき民法709条の不法行為が成立することとなる(最判昭49.3.22民集28・2・347,研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)245~248ページ)。

⑵ 被用者が,使用者の事業の執行につき第三者に損害を与えた場合,使用者は,被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意をしていたときは,損害賠償責任を負わない。

解答・解説

() そのとおり。民法715条1項。

⑶ 請負人がその仕事を行うにつき第三者に損害を与えた場合,請負人に支払能力があるときは,注文者が損害賠償責任を負うことはない。

解答・解説

(×) 請負人がその仕事について第三者に加えた損害について,注文者は,注文又は指図について過失があったときは損害賠償責任を負う(民法716条)。請負人の支払能力は無関係である。

⑷ 不法行為により死亡した被害者の慰謝料請求権は,被害者が生前に請求の意思を表明していなければ,相続人に相続されることはない。

解答・解説

(×) 他人の不法行為によって財産以外の損害を被った者は,損害の発生と同時に慰謝料請求権を取得し,この請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がない限り,これを行使することができ,同人が生前に請求の意思を表明しなくても当然に相続される(最判昭和42.11.1民集21・9・2249,研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)235,236ページ)。

⑸ 不法行為により死亡した被害者に配偶者及び子があるときは,その被害者の父母は慰謝料請求をすることができない。

解答・解説

(×) 不法行為により死亡した被害者の近親者は,慰謝料の請求をすることができる(民法709条,710条,711条)。この慰謝料請求権は被害者の近親者の固有の権利であって相続とは関係ないので,被害者に妻子がいても父母は請求することができる(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)235~237ページ)。

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刑法

第11問

不真正不作為犯に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 不真正不作為犯は,犯罪が既遂となった場合にのみ処罰される。

解答・解説

(×) 不真正不作為犯は,作為犯の形式で定められている構成要件を不作為によって実現することが認められるか(実行行為性が認められるか)という議論であり,当該構成要件に未遂犯処罰規定があれば(例えば殺人未遂),未遂犯が成立し,処罰されることはあり得る(研修教材・六訂刑法総論89ページ)。

⑵ 不真正不作為犯が成立するためには,行為者に単なる道徳的な義務があるだけでは足りず,結果の発生を防止すべき行為をする法的な義務があることが必要である。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論82ページ,研修737号106ページ)。

⑶ 不真正不作為犯が成立するためには,行為者において,作為義務を履行して結果の発生を防止することが可能かつ容易であることが必要である。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論86,87ページ,研修737号107,108ページ)。

⑷ 不真正不作為犯が成立するためには,主観的要件として,犯罪事実の認識・認容に加えて,既発の危険を利用する意思が必要である。

解答・解説

(×) 放火の事案で,既発の火力を利用する意思がなくても,焼損の認容があれば放火罪が成立するとした判例がある(最判昭33.9.9刑集12・13・2882,研修教材・六訂刑法総論87,88ページ,研修737号107,108ページ)。

⑸ 不真正不作為犯が成立するためには,不作為と結果との間の因果関係が必要であるが,これは,作為義務を履行したならば結果が発生しなかった可能性が幾らかでもあるという程度の関係があれば足りる。

解答・解説

(×) 作為義務を履行した場合における結果発生防止の可能性の程度に関しては,作為義務を尽くしていれば結果発生防止が合理的疑いを超える程度(十中八九)確実である必要があるとされている(最判平元.12.15刑集43・13・879,研修教材・六訂刑法総論88,89ページ)。

第12問

錯誤に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aが,Bに向けて殺意を持ってけん銃を発射したところ,その弾丸は,Bの肩を貫通してBに傷害を負わせた上,偶然近くを散歩しており,Aがその存在を認識していなかったCの腹部にも命中し,Cにも傷害を負わせた。この場合,Aには,B及びCに対する各殺人未遂罪が成立し,両者は観念的競合となる。

解答・解説

() 判例は,法定的符合説を採用し,かつ,予定外の併発結果についても故意犯の成立を認めており,設問同様の事案で,B及びCに対する殺意を認めている(最判昭53.7.28刑集32・5・1068,研修教材・六訂刑法総論193,194ページ)。

⑵ Aは,営利の目的で,麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して密輸入した。麻薬輸入罪と覚せい剤輸入罪の法定刑は同一である。この場合,Aには,麻薬輸入罪が成立する。

解答・解説

() 設問同様の事案で,判例は,「その目的物が覚せい剤か麻薬かの差異があるだけで,その余の犯罪構成要件要素は同一であり,その法定刑も全く同一であるところ,麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると,この場合,両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているとみるのが相当であるから,麻薬を覚せい剤と誤認した錯誤は,生じた結果である麻薬輸入の罪について故意を阻却するものではない」として,麻薬輸入罪の成立を認めている(最決昭54.3.27刑集33・2・140,研修教材・六訂刑法総論199,200ページ)。

⑶ Aは,真実はBが承諾していないのに,承諾しているものと誤信し,Bにわいせつな行為をした。この時,Bは11歳であり,Aは,そのことを知っていた。この場合,Aには,強制わいせつ罪は成立しない。

解答・解説

(×) 13歳未満の者に対する強制わいせつ罪(刑法176条後段)においては,被害者の承諾は犯罪の成立上何ら意味を持たないため,Aの誤信は犯罪の成否に影響しない。そして,Aは,Bが13歳未満であることを知っているのであるから,強制わいせつ罪の故意に欠けるところはない。したがって,Aには強制わいせつ罪が成立する。なお,AがBの承諾があれば犯罪が成立しないと誤信していたとしても,それは法の不知にすぎず,故意は阻却されない(研修教材・六訂刑法総論151ページ,204~211ページ)。

⑷ Aが,Bを殺そうとしてその首を絞めたところ,Bは身動きしなくなった。そこで,Aが,Bは死亡したと誤信し,犯跡隠ぺいのため,Bを海岸に運んで砂の上に放置したところ,Bは砂を吸い込んで窒息死した。この場合,Aには,殺人罪が成立する。

解答・解説

() 因果関係の錯誤の事案であるが,判例は,設問同様の事案で,因果関係及び故意の存在を認め,殺人罪の成立を肯定している(大判大12.4.30形集2・378,研修743号101~106ページ)。

⑸ Aは,Bとの間で,Cに対する暴行・傷害を共謀し,実行した。その際,興奮したBは,にわかにCに殺意を抱き,Cを殺害した。この場合,殺意のなかったAについては,殺人罪の共同正犯が成立するが,傷害致死罪の法定刑の範囲内で処罰される。

解答・解説

(×) 設問は,共同正犯における錯誤を問う問題であるが,殺意がなかったAについては,殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するとするのが判例である(最判昭54.4.13刑集33・3・179,研修教材・六訂刑法総論301,302ページ)。

第13問

住居を侵す罪に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ かつて人が住居として使用していた家屋に窃盗目的で立ち入る行為については,行為当時,当該家屋を住居として使用する者がいなかったとしても,住居侵入罪が成立する。

解答・解説

(×) 住居侵入罪が成立するためには,現に住居として日常生活に使用されていることが必要である。空き家の場合は,邸宅侵入罪が成立する場合がある(研修教材・三訂刑法各論(その1)103~105ページ)。

⑵ 借家人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後も退去せずに引き続き生活し,不法占拠状態となった家屋に窃盗目的で立ち入る行為については,住居侵入罪が成立する。

解答・解説

() 住居を適法に占有している者でなくても住居に立入りを認めるか否かの自由が認められる場合は,住居侵入罪が成立する。借家人が賃貸借契約修了後も引き続いて家屋に居住している場合に,家主が無断でこれに侵入した行為について,住居侵入罪が成立するとした裁判例(東高判昭27.12.23判特37・141等)がある(研修教材・三訂刑法各論(その1)104ページ)。

⑶ 工場の建物に侵入して窃盗をする目的で,門塀によって囲まれている工場の敷地内に警備員の目を盗んで立ち入ったが,工場の建物に入る前に発見されて敷地外に追い出された場合,建造物侵入罪は成立しない。

解答・解説

(×) 建造物に付随する囲繞地は,建造物に含まれる。囲繞地といえるためには,その土地が建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより,建物の付属地として建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる(最判昭51.3.4刑集30・2・79等,研修教材・三訂刑法各論(その1)104,105ページ,研修831号53~58ページ)。

⑷ 建造物の管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても,当該建造物の性質,使用目的,管理状況,管理権者の態度,立入りの目的などからみて,現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは,建造物侵入罪が成立する。

解答・解説

() 建造物の管理者があらかじめ立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても,当該建造物の性質,使用目的,管理状況,管理権者の態度,立入り目的などからみて,現に行われた立入り行為を管理者が容認していないと合理的に判断される場合は,他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上,刑法130条の罪の成立を免れないというべきである(最判昭58.4.8刑集37・3・215,研修教材・三訂刑法各論(その1)106~109ページ,研修831号53~58ページ)。

⑸ 建造物の所有者が出入口に施錠をして鍵を保管していれば,人を配置して現実に監視していなくても,刑法130条にいう「人の看守する・・・建造物」といえる。

解答・解説

() 「人の看守する」(刑法130条前段)とは,他人が事実上管理・支配していることをいう。看守の方法は,守衛・警備等の監視人を置くことに限られない(研修教材・三訂刑法各論(その1)106ページ)。

第14問

詐欺罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,代金を支払わずに衣料品店で販売している洋服を手に入れようと考え,衣料品店の店長Bに対し,「試着をしたい。」とうそを言い,洋服をBから受け取って店内の試着室で着た後,Bが見ていない隙に当該洋服を着たまま店から逃走した。この場合,Aには,Bに対する詐欺罪が成立する。

解答・解説

(×) 詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには,欺く行為によって,相手方が錯誤に陥り,この錯誤によって財産的処分行為(財物の交付)がなされ,その結果として占有が移転することが必要であり,詐欺罪における欺く行為は財産的処分行為に向けられたものでなくてはならず,たとえ欺く手段を用いて財物を取得したとしても,それが相手方の錯誤に基づく処分行為としてなされたものでなければ,その行為は詐欺罪を構成しない(研修教材・三訂刑法各論(その1)212,213ページ,研修837号43~47ページ)。本問では,Aは,Bに対し,「試着をしたい。」とうそを言っているが,これはBから一時的に洋服を借りるための口実にすぎず,Bは,試着室内で試着させるため一時的に洋服を渡すことを了承しただけで,店側の洋服に対する占有は残っている。したがって,Aのうそは,Bの財産的処分行為に向けられたものではなく,かつ,Bの財産的処分行為もないことから,詐欺罪は成立しない。Aには窃盗罪が成立する。

⑵ Aは,B名義の電子マネーカードが道路に落ちているのを見つけて拾った後,Cが管理する自動販売機内の缶ジュースを飲むため,当該カードを自動販売機の代金決済用の端末にかざして代金決済をし,自動販売機内の缶ジュースを手に入れた。この場合,Aには,Cに対する詐欺罪が成立する。

解答・解説

(×) 詐欺罪が成立するためには,人を欺くことが必要である(研修教材・三訂刑法各論(その1)208ページ,研修837号43~45ページ)。本問の場合,人を欺く行為はなく,詐欺罪は成立しない。Aには窃盗罪が成立する。

⑶ Aは,Bに対し,祈祷をすれば必ずBの病気が治るとうそを言い,その旨誤信したBから祈祷料名目で現金を支払わせようとしたが,Bに手持ちの資金がなかったことから,Aが経営する薬局からBが漢方薬を購入したように仮装して,その購入代金につきBと信販会社Cとの間で立替払契約を締結させ,これに基づき,CからA名義の預金口座に漢方薬購入代金として現金を振り込ませることで祈祷料の支払を受けた。この場合,Aには,Bに対する詐欺罪が成立する。

解答・解説

() 判例(最決平15.12.9刑集57・11・1088)は,本問と同様の事案につき,被欺偶者(本問ではB)に対する1項詐欺罪の成立を認めており,信販業者に対する別個の詐欺罪を構成するか否かは,同罪の成否を左右するものではないとした(研修教材・三訂刑法各論(その1)216ページ)。

⑷ Aは,電磁的記録部分を偽造したキャッシュカードを使用して現金を手に入れようと考え,当該カードを使用してBが管理する現金自動預払機から現金を引き出した。この場合,Aには,電子計算機使用詐欺罪が成立する。

解答・解説

(×) 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)は,財物以外の財産上の利益を不法に得,又は他人に不法に得させた場合に成立する犯罪である(研修教材・三訂刑法各論(その1)224~226ページ)。本問の場合は,財物である現金を得ているので,同罪は成立しない。Aには窃盗罪が成立する。

⑸ Aは,盗んだクレジットカードの名義人Bを装い,インターネットを使用した取引の決済に用いることができる電子マネーの利用権を取得しようと考え,スマートフォンを利用し,Bの氏名やカード番号等の情報をインターネットを介してクレジットカード会社が使用する電子計算機に送信してB本人が電子マネーの利用権の購入を申し込んだとする虚偽の情報を与え,同電子計算機に接続されたハードディスクにその購入に関する不実の電磁的記録を作らせてその電子マネーの利用権を取得した。この場合,Aには,電子計算機使用詐欺罪が成立する。

解答・解説

() 判例(最決平18.2.14刑集60・2・165)は,本問と同様の事案につき,電子計算機使用詐欺罪の成立を認めており(研修教材・三訂刑法各論(その1)224~226ページ),Aには電子計算機使用詐欺罪が成立する。

第15問

経済的秩序に対する罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 大学への入学を希望している者から依頼され,その者になりすまして大学の入学試験を受け,依頼人の名前で答案用紙を作成して提出した場合,有印私文書偽造罪及び偽造有印私文書行使罪が成立する。

解答・解説

() 判例(最決平6.11.29刑集48・7・453)は,本問と同様の事案において,有印私文書偽造・同行使罪の成立を認めている。大学の入学選抜試験の答案は刑法159条1項の「事実証明に関する文書」に当たり,文書の性質上,名義人自身の手によって作成されることが要求される文書であるからと解されている(研修教材・三訂刑法各論(その2)76~78,99ページ)。

⑵ 宝くじの当せん金を得る目的で,当せん番号確定後,当せんしなかった宝くじ券の番号を当せん番号に改ざんした場合,有価証券変造罪が成立する。

解答・解説

(×) 宝くじは,証券と引き替えに当せん金品の支払がなされるものであるため,有価証券にあたる。権限なく,有価証券に変更を加えて本質的部分に変動を生じさせた場合は,「変造」ではなく,「偽造」であるが,当せん確定後,当せんしなかった宝くじの番号を当せん番号に改ざんする行為は,廃紙に帰した宝くじ券を利用して発行名義を冒用して有価証券を新しく作成するものであり,有価証券の偽造に当たる(福岡高判昭26.8.9高集4・8・975,研修教材・三訂刑法各論(その2)108,111,112ページ)。

⑶ 自動車の運転免許を有しない者が,自動車を運転中に警察官から運転免許証の提示を求められたときに提示するつもりで,偽造した運転免許証を携帯して自動車の運転を開始した場合,偽造公文書行使罪が成立する。

解答・解説

(×) 判例(最判昭44.6.18刑集23・7・950)は,本問と同様の事案において,「偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用が具体的に侵害されることを防止しようとするものであるところ,同罪にいう行使にあたるためには,文書を真正に成立したものとして他人に交付,提示等をして,その閲覧に供し,その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態に置くことを要する」として,自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には,未だこれを他人の閲覧に供してその内容を認識し得る状態に置いたものというには足りず,偽造公文書行使罪にあたらないとしている。

⑷ 流通に置く意図はなく,あくまで自己に資力があることを証明するために,偽造した手形を取引相手に示した場合,偽造有価証券行使罪が成立する。

解答・解説

() 偽造有価証券行使罪(刑法163条)は,偽造に係る有価証券を真正なものとして,その情を知らない者に対して使用することであり,必ずしも流通に置く必要はなく,例えば,いわゆる見せ手形として使用する場合なども行使といえる(研修教材・三訂刑法各論(その2)114,115ページ)。

⑸ 電磁的記録部分を偽造したクレジットカードを人の事務処理を誤らせる目的で他人に譲り渡した場合,相手方が当該カードが偽造されたものであることを知っているか否かにかかわらず,不正電磁的記録カード譲渡し罪が成立する。

解答・解説

() 電磁的記録部分を偽造したクレジットカードを譲り渡す行為は,偽造有価証券行使罪(刑法163条)ではなく,不正電磁的記録カード譲渡し罪(刑法163条の2第3項)が成立するが,同罪は,相手方が当該カードが偽造されたものであることを知っているか否かを問わず成立する(研修教材・三訂刑法各論(その2)115~121ページ)。

刑事訴訟法

第16問

強制捜査に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 司法巡査は,通常逮捕に係る逮捕状を請求し,発付された逮捕状により被疑者を逮捕することができる。

解答・解説

(×) 逮捕状の請求権者は,検察官及び司法警察員(警察官たる司法警察員については,国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限られる。)であり(刑事訴訟法199条2項),司法巡査は含まれないが,逮捕状により被疑者を逮捕することができる者は,検察官,検察事務官又は司法警察職員であり(同条1項),司法巡査は含まれる(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)111,114ページ)。なお,司法警察職員とは,司法警察員及び司法巡査をいう(刑事訴訟法39条3項)。

⑵ 甲被疑事実で逮捕され,甲被疑事実及び乙被疑事実の二つの事実で送致された被疑者について,乙被疑事実のみで勾留を請求することはできず,甲被疑事実に乙被疑事実を加えた二つの事実で勾留を請求することもできない。

解答・解説

(×) 逮捕前置主義は,逮捕状発付の段階と勾留状発付の段階とで裁判官の二重の審査により司法的抑制を加えようとするものであるから,甲被疑事実で逮捕された被疑者について,これとは別の乙被疑事実のみで勾留を請求することは許されないが,2つの事実で勾留を請求することは,逮捕前置主義の趣旨に反せず,かえって被疑者に有利となるので許容される(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)136,137ページ,研修738号67~70ページ)。

⑶ 捜査機関は,捜索差押許可状の執行に着手する前に,処分を受ける者にこれを呈示しなければならないので,捜索場所に入室し,その後にこれを呈示することが許されることはない。

解答・解説

(×) 捜査機関は,捜索差押許可状の執行に着手する前に,処分を受ける者にこれを呈示しなければならないが(刑事訴訟法222条1項,110条),判例(最判平14.10.4刑集56・8・507)は,覚せい剤取締法違反事件に関し,捜索差押許可状執行の動きを察知されれば,差押対象物件が破棄隠匿されるおそれがあったため,ホテルの支配人からマスターキーを借り受けた上,来意を告げることなく,施錠された客室のドアをマスターキーで開けて室内に入り,その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示して捜索差押えを実施した事案について,「捜索差押許可状の呈示は,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから,令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきであるが,前記事情の下においては,警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは,法意にもとるものではなく,捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって,適法というべきである。」と判示した(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)168,174,175ページ)。

⑷ 逮捕に伴う令状によらない捜索差押えは,逮捕に着手した後でなければ許されることはない。

解答・解説

(×) 令状によらずに捜索差押えをすることができるのは,被疑者を「逮捕する場合」(刑事訴訟法220条1項)であるところ,判例(最判昭36.6.7刑集15・6・915)は,「『逮捕する場合において』(中略)の意義であるが,(中略)単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり,(中略)逮捕との時間的接着を必要とするけれども,逮捕着手時の前後関係は,これを問わないものと解すべき」,「緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ,被疑者がたまたま他出不在であっても,帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索,差押がなされ,且つ,これと時間的に接着して逮捕がなされる限り,その捜索,差押は,なお,緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。」と判示した(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)187~189ページ,研修816号68ページ,788号53,54ページ)。

⑸ 司法警察員は,暴行事件の被疑者(住居不定,無職の者)について,罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があり,直ちに逮捕しなければ被疑者が逃亡してしまう場合であっても,これを緊急逮捕することはできない。

解答・解説

() 緊急逮捕をすることができるのは,法定刑が,「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」に限られるから(刑事訴訟法210条1項),法定刑が「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」である暴行罪(刑法208条)の被疑者を緊急逮捕することはできない(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)120,121ページ,研修804号68,69ページ)。

第17問

事件処理に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 刑事訴訟法は,検察官にのみ公訴権が属する起訴独占主義を採用しているが,これには例外がある。

解答・解説

() 例外として,指定弁護士が検察審査会の起訴議決に係る事件について公訴を提起する場合(検察審査会法41条の10第1項)や,付審判決定があったときに公訴の提起が擬制される場合(刑事訴訟法267条)がある(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)194ページ)。

⑵ 略式命令の請求は,公訴の提起と同時に,書面でこれをしなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法462条1項)。検察官が行う終局処分は,起訴と不起訴とに分けられるところ,略式命令請求は,公訴の提起(起訴)と同時に書面でするものであり,実務上も,略式命令を請求する際には,起訴状が用いられ,その冒頭に,「下記被告事件につき公訴を提起し,略式命令を請求する。」と記載される(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)197,198,208ページ)。

⑶ 起訴するには,必ず起訴状を裁判所に提出しなければならず,軽微で単純明白な事件であっても,口頭による起訴は認められない。

解答・解説

() 刑事訴訟法256条1項は,「公訴の提起は,起訴状を提出してこれをしなければならない。」と規定しており,口頭による起訴は認められない。なお,訴因変更等についても,書面を差し出して行う必要があるが,例外的に口頭によることが許される場合がある(刑事訴訟規則209条1項,7項)(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)200,201ページ)。

⑷ 検察官は,事件につき公訴を提起しない処分をした場合において,被疑者の請求があるときは,速やかにその旨をこれに告げなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法259条)。なお,告訴人等に対する不起訴処分等の通知は,処分をしたとき速やかに行われなければならず(刑事訴訟法260条),告訴人等からの通知の請求の有無にかかわらない(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)221,222ページ)。

⑸ 両罰規定により事業主である法人を起訴し,その行為者を不起訴とする場合,当該法人については簡易裁判所にしか起訴することができない。

解答・解説

() 法人処罰に係る両罰規定の法定刑は罰金又は科料とされているところ,罰金以下の刑に当たる罪に係る事件につき専属管轄を有するのは簡易裁判所であるから(裁判所法33条1項2号),行為者が共に起訴されて関連事件(刑事訴訟法9条1項2号)の管轄(刑事訴訟法3条1項)が生じる場合は別として,事業主である法人については,簡易裁判所にしか起訴することができない(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)200ページ)。

第18問

訴因に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。。

⑴ 起訴状記載の訴因の特定が不十分であり,それが補正・追完を許さない程度のものであるときは,裁判所は,判決で公訴を棄却しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法338条4号,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)150ページ)。

⑵ AがB方に侵入しB所有のオートバイを窃取したという事案で,検察官が,AによるB方でのオートバイの窃盗事実のみを起訴している場合において,Aがオートバイを盗むためにB方に立ち入った点につき住居侵入事実での処罰も求めるときは,訴因の追加の手続をとることはできず,住居侵入事実につき,追起訴手続をとらなければならない。

解答・解説

(×) 住居侵入罪と窃盗罪は牽連犯(刑法59条1項後段)であり科刑上一罪とされていることから,公訴事実の単一性が認められ,訴因の追加の手続をとることができる(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)155,156ページ,研修828号78ページ)。

⑶ 強盗の訴因で起訴された事件について,審理の結果,裁判所は,外形的事実は訴因のとおりであるが,反抗抑圧の程度の認定に難があり,恐喝の事実を認定することができるにすぎないとの心証を得た。この場合,訴因変更手続がとられなければ,判決において,裁判所が恐喝の事実を認定することはできない。

解答・解説

(×) 訴因事実よりも縮小された事実を認定する場合には,被告人の防御に実質的な不利益を生ずることはないから,訴因の変更を要しない(最判昭26.6.15刑集5・7・1277。研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)164,165ページ)。

⑷ 裁判所が訴因変更命令を発しても,検察官がこれに応じて訴因変更手続をとらない限り,訴因変更の効力は生じない。

解答・解説

() そのとおり(最大判昭40.4.28刑集19・3・270。研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)169ページ)。

⑸ 検察官が訴因の追加・撤回・変更を請求する場合は,その旨を記載した書面を提出し,それを公判期日において朗読するのが原則であるが,被告人が在廷する公判廷においては,裁判所の許可を受け,口頭でこれをすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則209条1項,4項,7項。研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)169ページ)。

第19問

公判手続に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 被告人が法人であり,その代表者が出頭できない場合,その代理人が出頭すれば,裁判所は,開廷することができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法283条,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)88ページ)。

⑵ 公判前整理手続に付された事件を審理する場合には,弁護人がなければ,裁判所は,開廷することができない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法316条の29,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)89,90ページ)。

⑶ 証拠調べの請求は,検察官の冒頭陳述が終わった後であれば,弁論終結までの間,いつでもすることができ,その間であれば,公判期日外においてもすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法298条,刑事訴訟規則188条,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)99ページ)。

⑷ 検察官及び弁護人の双方が尋問の請求をし,裁判所が証拠調べの決定をした証人がある場合には,当該証人の尋問が終了するまでは,被告人質問を実施することができない。

解答・解説

(×) 被告人質問の時期については制限がない(法311条2,3項。研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)128ページ)。

⑸ 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は,権利保釈の規定は適用されない。

解答・解説

() そのとおり(法344条,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)189ページ)。

第20問

証拠に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 適法に収集された証拠であっても,要証事実との関連性がなければ,証拠能力は認められない。

解答・解説

() 要証事実と関連性がない証拠は証拠能力がない(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)23ページ)。証拠能力は,①自然的関連性があり,②法律的関連性があり,③証拠禁止に当たらないときに,認められる。自然的関連性とは,証明しようとする事実に対する必要最小限度の証明力があることをいう。自然的関連性については,刑事訴訟法に明文の規定はないが,事実を推認させるのに必要な最小限度の証明力もない証拠を取り調べることは無駄であるので,自然的関連性のない証拠は,証明力がなく,排除すべきだとされている(研修830号90ページ)。

⑵ 自白を内容とする被告人の供述調書は,自白が任意にされ,かつ,特に信用すべき情況の下にされた場合に限り,証拠能力が認められる。

解答・解説

(×) 「自白」とは,自己の犯罪事実の全部又は主要部分を肯定する被告人自身の供述であると定義することができる。自白に関しては,任意性を欠く疑いのある自白は証拠とすることができないという原則(自白法則)と,自白には補強証拠を必要とするという原則(補強法則)の2つの重要な原則がある(研修教材・八訂刑事訴訟法II(証拠法)64,67ページ)。自白に証拠能力が認められるためには,任意になされたことが必要であるが,これに加えて「特に信用すべき状況の下になされた場合」といった要件が必要とされるわけではない(刑事訴訟法322条1項,319条1項。研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)67,177,178ページ)。

⑶ 暴行被告事件において,証人Aの「被害者は走りながら自ら転倒した」との公判供述を弾劾するため,Aと同じ場面を目撃したBの「被告人が,逃げる被害者を背後から両手で突いて転倒させた」旨の供述を録取した検察官調書を,刑事訴訟法328条により証拠とすることができる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法328条の証拠は,証明力を争う対象となる法廷供述者自身の法廷外における自己矛盾の供述に限られる(最判平18.11.7刑集60・9・561,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)201~203ページ,研修836号66~68ページ)。

⑷ 被告人が公訴事実を認めている無免許運転事件において,無免許であることの立証は,運転行為そのものの立証とは異なるので,被告人の「無免許である」旨の自白があれば足りる。

解答・解説

(×) 無免許運転の場合の無免許の事実については,自白以外に補強証拠が必要である(最判昭42.12.21刑集21・10・1476,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)117ページ,研修834号83~88ページ)。

⑸ 火災原因の調査・鑑定を業とする民間会社の社員であり,長年にわたって火災原因の調査,鑑定に携わってきた者が,県消防学校からの依頼を受けて燃焼実験を行った結果を記載した書面は,刑事訴訟法321条3項の書面に準じるものとして証拠能力が認められる。

解答・解説

(×) 私人が作成した鑑定書等の取扱いに関し,最高裁は,火災原因の調査・鑑定を業とする民間会社の社員が,県消防学校からの依頼を受けて燃焼実験を行った結果を記載した書面について刑事訴訟法321条4項が準用されると判示した(最決平20.8.27刑集62・7・2702,研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)169~171ページ,研修838号67~72ページ)。

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執行事務

第21問

裁判の把握に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 執行担当事務官が検察総合情報管理システム(以下本問において「検察システム」という。)により管理することとなる裁判結果は,公訴の提起があった事件(略式手続又は交通事件即決裁判手続によるものを除く。)についてなされた判決の宣告又は決定による終局裁判の全てについてである。

解答・解説

() そのとおり(執行事務規程3条後段,十訂特別研修資料2号・執行事務解説59~61ページ,研修840号47,48ページ)。

⑵ 執行担当事務官は,公判担当事務官から判決の宣告又は決定による終局裁判の結果について通知を受け,検察システムにより当該終局裁判の結果の内容を管理する場合,必要に応じて,その終局裁判の結果の内容について裁判所に照会する。

解答・解説

(×) 執行担当事務官は,必ず裁判所に照会の上,当該終局裁判の結果の内容を確認する(執行事務規程3条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説59,60ページ,研修840号49ページ)。

⑶ 裁判所から送付を受けた裁判書の謄本又は抄本の内容の正確性については,公判担本当検察官及び公判担当事務官が,検察システムにより管理されている終局裁判の結果と対照して確認するため,執行担当事務官は,当該裁判書の内容の正確性について確認する必要はない。

解答・解説

(×) 執行担当事務官が,検察システムにより管理されている裁判の結果の内容と対照し,その記載内容に相違がないかどうかを確認しなければならない(執行事務規程4条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説61ページ,研修840号52,53ページ)。

⑷ 執行担当事務官は,検察官が上訴の放棄若しくは取下げの申立てをしたとき又は被告人が上訴の放棄若しくは取下げの申立てをした旨の通知があったときは,検察システムによりその内容を管理しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(執行事務規程5条1項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説62,63ページ,研修840号53ページ)。

⑸ 第一審の実刑判決に対して高等裁判所に控訴の申立てがあり,その後控訴の取下げがあって,その裁判が確定したときは,必ず当該高等裁判所に対応する高等検察庁の執行担当事務官が,控訴の取下げがあった旨及び第一審の裁判の主文の要旨を検察システムにより管理しなければならない。

解答・解説

(×) 訴訟記録が上訴裁判所に送付された後に上訴の取下げにより下級の裁判所の裁判が確定した場合と,訴訟記録がまだ上訴裁判所に送付されておらず下級の裁判所にあるうちにその上訴が取り下げられて下級の裁判所の裁判が確定した場合とで,対応が異なる。前者の場合,上訴裁判所に対応する検察庁の執行担当事務官は,上訴の取下げがあった旨及び下級の裁判所の裁判の主文の要旨を検察システムにより管理することとなるが,後者の場合,上訴裁判所に対応する検察庁の執行担当事務官は,上訴の取下げがあった旨等を検察システムにより管理する必要はなく,下級の裁判所に対応する検察庁の執行担当事務官がこれらを管理する(刑事訴訟法472条2項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説62,63ページ,研修840号53,54ページ)。

第22問

裁判の確定に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 上訴の申立ては,裁判の告知の当日からすることができるが,上訴の提起期間の計算に当たっては,刑事訴訟法55条1項の規定により初日は算入されないので,裁判の告知があった日の翌日を初日として起算する。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法358条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説3ページ,研修842号43,44ページ)。

⑵ 検察官又は被告人側のいずれか一方が,上訴を放棄した場合又は上訴の申立てをしたが所定の上訴の提起期間内にこの上訴を取り下げた場合において,他方が上訴の放棄も上訴の申立てもしないまま所定の上訴の提起期間を経過したときは,その上訴の提起期間の経過とともに裁判は確定する。

解答・解説

() そのとおり(十訂特別研修資料2号・執行事務解説3~5ページ,研修842号44~50ページ)。

⑶ 検察官,被告人の双方が上訴を放棄することにより裁判は確定するが,双方の放棄この日が異なるときは,後からした放棄の日の翌日が裁判の確定日となる。

解答・解説

(×) 後からした放棄の日が裁判の確定日となる(十訂特別研修資料2号・執行事務解説4,5ページ,研修842号46~48ページ)。

⑷ 上訴の提起期間の経過後に被告人が上訴を取り下げた場合には,検察官の上訴がなされていない限り,その裁判は被告人の上訴の取下げのあった日の翌日に確定する。

解答・解説

(×) 被告人の上訴の取下げのあった日に確定する(刑事訴訟法361条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説5ページ,研修842号45~50ページ)。

⑸ 最高裁判所の判決に対して判決の訂正を申し立てた場合において,訂正の判決があったときは,その訂正判決の日が裁判の確定日となる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法418条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説5,6ページ,研修842号50ページ)。

第23問

裁判の執行等に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ A事件では勾留されておらず,別のB事件で勾留中の被告人に対して,A事件について懲役刑(実刑)の言渡しがあり,その裁判が確定した。後日,B事件で勾留中の被告人について,A事件の裁判の執行指揮をした。この場合,執行指揮をした日が刑の起算日となる。

解答・解説

() そのとおり(刑法23条2項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説40~42ページ,研修844号66ページ)。

⑵ 刑の執行指揮をするために収容状を執行した場合において,収容状を執行した日と刑事施設に収容した日が異なるときは,執行指揮書の「刑の起算日」欄には,収容状を執行した日を記載する。

解答・解説

() そのとおり(執行事務規程21条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説40~42,91~93ページ,研修844号69,70ページ)。

⑶ 自由刑の執行指揮は,勾留中の被告人の勾留期間と上訴申立期間が同時に満了する場合でも,判決確定前にこれをすることはできない。

解答・解説

(×) 上訴申立期間と勾留期間とが同時に満了する場合には,いわゆる「条件付執行指揮」,すなわち,判決確定前に,判決確定の上執行すべき旨を明らかにして執行の指揮をする(執行事務規程17条2項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説77,78ページ,研修844号67ページ)。

⑷ 有期刑の執行中に無期刑の執行を指揮する場合において,刑法51条1項ただし書の適用があるときは,無期刑の執行を指揮するとともに,有期刑については,刑執行取止指揮書によりその執行を取りやめる旨を指揮するが,その後取りやめの原因となった無期刑が恩赦により有期刑に減刑されたときは,取りやめられた有期刑を再び執行する。

解答・解説

(×) 将来取りやめの原因となった無期刑が恩赦により有期刑に減刑されても,取りやめられた有期刑が再び執行されることはない(刑法51条1項ただし書,執行事務規程16条2号ただし書,十訂特別研修資料2号・執行事務解説75ページ,研修844号70,71ページ)。

⑸ 軽重のある2個以上の自由刑の執行を同時に指揮するときは,重い刑から先に執行するよう指揮するのが原則であるが,そのうちの1個の刑についてのみ勾留状が発せられて勾留中であった場合は,通常,当該勾留中の刑から先に執行するよう指揮することとなる。

解答・解説

() そのとおり(刑法23条1項,執行事務規程16条1号,十訂特別研修資料2号・執行事務解説74,40~42ページ,研修844号70ページ)。

第24問

未決勾留日数の本刑通算(算入)に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 無期刑には,未決勾留日数を通算(算入)することはできない。

解答・解説

(×) 無期の自由刑には未決勾留日数を通算(算入)することができる(十訂特別研修資料2号・執行事務解説26,27ページ,研修845号51,52ページ)。

⑵ 第一審裁判所において裁定算入の対象となる未決勾留日数は,勾留状の執行の日から判決言渡しの日までのうち実際に拘禁された日数である。

解答・解説

(×) 勾留状の執行の日から判決言渡しの日の前日までの間に実際に拘禁された日数である(刑法21条,刑事訴訟法495条1項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説30,31ページ,研修845号53ページ)。

⑶ 裁定算入又は法定通算の対象となる未決勾留日数には,鑑定留置中の日数及び少年法17条1項2号の措置がとられた場合における少年鑑別所に収容中の日数も含まれる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法167条6項,少年法53条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説25,26ページ,研修845号50,51ページ)。

⑷ 第一審裁判所の判決で刑の全部の執行猶予の言渡しがあり,刑事訴訟法345条の規定により勾留状が失効して釈放された場合における判決言渡しの日は,上訴の提起期間中勾留されたものと認められないので,法定通算しない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法495条,345条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説33~35ページ,研修845号57ページ)。

⑸ 上訴申立て後の未決勾留日数は,検察官が上訴を申し立てたときは,全部これを本刑に通算することとされているが,検察官以外の者が上訴を申し立てた場合において,その上訴審において原判決が破棄されたときには,これを本刑に通算しない。

解答・解説

(×) 検察官以外の者が上訴を申し立てた場合において,その上訴審において原判決が破棄されたときは,上訴申立て後の未決勾留日数の全部の日数を本刑に通算する(刑事訴訟法495条2項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説35,36ページ,研修845号58ページ)。

第25問

刑の執行猶予の取消し等に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 刑の執行猶予の言渡しを取り消すべき場合には,検察官は,刑の執行猶予の言渡しの裁判をした裁判所に対して取消請求をしなければならない。

解答・解説

(×) 刑の執行猶予の言渡しを取り消す場合には,検察官は,刑の言渡しを受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所,家庭裁判所又は簡易裁判所に対してその請求をしなければならない(刑事訴訟法349条1項,十訂特別研修資料2号・執行事務解説125ページ,研修847号59ページ)。

⑵ 刑の執行猶予の言渡しを受けて保護観察に付されている者について,その保護観察中の遵守事項違反により,検察官が刑の執行猶予の言渡しの取消しを請求する場合には,保護観察所の長からの申出に基づくことを要する。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法349条2項,更生保護法79条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説123ページ,研修847号57ページ)。

⑶ 刑の執行猶予の言渡しの取消決定に対する即時抗告棄却決定が告知された後,特別抗告の提起期間内に執行猶予期間が経過した場合は,執行猶予の言渡しが取り消された刑を執行することはできない。

解答・解説

(×) 即時抗告の申立てが棄却された場合には,刑の執行猶予の言渡しを取り消した決定は,これに対する即時抗告の申立てを棄却した決定の告知により執行力を生ずるものであるから,特別抗告の申立ての有無にかかわらず,執行猶予の言渡しが取り消された刑を執行することができる(刑事訴訟法471条,433条,434条,424条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説135,136ページ,研修847号61ページ)。

⑷ 刑の執行猶予の言渡しが取り消され,その刑の執行指揮をする場合は,執行指揮書の「確定の日」欄には,取消決定の裁判が確定した日を記載する。

解答・解説

(×) 執行猶予の言渡しをした裁判(原裁判)が確定した日を記載する(執行事務規程45条,十訂特別研修資料2号・執行事務解説136,81~85ページ,研修847号70,71ページ)。

⑸ 一部の執行を猶予された刑(以下「一部執行猶予刑」という。)のうち執行が猶予されなかった部分の期間の最終日の翌日以後に,刑の一部の執行猶予の言渡しが取り消された場合に,一部執行猶予刑のうち執行が猶予された部分(以下「猶予部分」という。)の期間の執行指揮を行うときは,その執行指揮書の「執行すべき刑名刑期」欄に刑名及び猶予部分の期間を記載し,「(一部執行猶予刑の猶予部分)」と付記する。

解答・解説

() そのとおり(十訂特別研修資料2号・執行事務解説85,86ページ,研修844号74,75ページ)。

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