全国一斉考試

【平成28年度】検察事務官等全国一斉考試の問題・解答・解説

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憲法・検察庁法

第1問

憲法上の基本的人権に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 憲法93条2項は,我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないので,我が国に在留する外国人に対し,法律をもって,地方公共団体の長,その議会の議員等に対する選挙権を付与することは,憲法上認められる余地はない。

解答・解説

(×) 判例は,憲法93条2項は,我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものではないとした上で,「我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に密接な関係を持つに至ったと認められるものについて,その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるベく,法律をもって,地方公共団体の長,その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは,憲法上禁止されているものではない。」としている(最判平7.2.28民集49・2・639,研修教材・五訂憲法62ページ)。

⑵ 我が国に在留する外国人には,我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないと解されるものを除き,政治活動の自由が憲法上保障される。

解答・解説

() 判例(最判昭53.10.4民集32・7・1223,研修教材・五訂憲法60~62ページ)。

⑶ 社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについて,国は,特別の条約の存しない限り,当該外国人の属する国との外交関係,変動する国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら,その政治的判断によりこれを決定することができるのであり,限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり,自国民を在留外国人より優先的に扱うことも,憲法上許される。

解答・解説

() 判例(最判平元.3.2判時1363・68,研修教材・五訂憲法63,64ページ)。

⑷ 嫡出でない子の法定相続分を嫡出である子の法定相続分の2分の1とする法律の規定は,法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する。

解答・解説

() 判例(最大決平25.9.4民集67・6・1320,研修810号61~66ページ)。

⑸ 憲法25条1項は,国家が社会福祉の理念に基づいて,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものであり,同項に裁判規範性は認められない。

解答・解説

(×) 判例は,憲法25条について,具体的な立法措置等が著しく合理性を欠き,明らかに裁量の範囲を超えた場合や裁量権を濫用した場合には,当該立法措置等が裁判所の司法審査に服する余地を認めており,同条の裁判規範性は認めている(最大判昭42.5.24民集21・5・1043,最大判昭57.7.7民集36・7・1235,研修教材・五訂憲法160~163ページ,研修782号71~76ページ)。

第2問

精神的自由に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 思想・良心の自由は,それが自己の内心にとどまる限り,公共の福祉による制約を受けない。

解答・解説

() 思想及び良心の自由は,その性質上,他の権利・自由・利益と衝突することは考えられないから,絶対的であって,「公共の福祉」による制約も許されない。ただ,その思想が,言論・出版その他何らかの外部的行動として現れた場合に,その外部的行為が初めて制限に服することがあるものと解されている(研修教材・五訂憲法95ページ)。

⑵ 憲法20条3項で禁止される「宗教的活動」とは,国及びその機関の活動で宗教との関わり合いを持つ全ての行為を指すものではなく,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいう。

解答・解説

() 判例(最大判昭52.7.13民集31・4・533,研修教材・五訂憲法102~104ページ)。

⑶ 報道機関の報道の自由は,憲法21条により保障されるので,報道のための取材の自由も同条により保障される。

解答・解説

(×) 判例は,「報道機関の報道は,民主主義社会において国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し,国民の知る権利に奉仕するものである。したがって…事実の報道の自由は,表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにある」と判示しているが,報道のための取材の自由については,「憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値いするものといわなければならない」と判示しているにとどまり,憲法21条により保障される旨は判示していない(最大判昭44.11.26刑集23・11・1490,研修教材・五訂憲法113,114ページ)。

⑷ 憲法21条2項で禁止される「検閲」とは,行政権が主体となって行うものをいうので,裁判所の仮処分による出版の事前差止めは,これに当たらない。

解答・解説

() 憲法21条2項にいう検閲とは,行政権が主体となって,思想等の内容を事前に審査し,不適当と認めるときは,その発表を禁止することをいうので,裁判所による事前差止めはこれに当たらない(研修教材・五訂憲法122ページ,最大判昭61.6.11民集40・4・872)。

⑸ 公立の中学校において現実に子供の教育の任に当たる教師は,学問の自由を保障する憲法23条により,教授の自由を有し,公権力による支配,介入を受けないで自由に子供の教育内容を決定することができる。

解答・解説

(×) 判例は,「普通教育においては,子ども側に学校や教師を選択する余地が乏しく,教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があること等に思いをいたすときは,普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは,とうてい許されないところといわなければならない」と判示している(最大判昭51.5.21刑集30・5・615,研修教材・五訂憲法127,128ページ)。

第3問

内閣に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 国務大臣は,心身の故障のために職務を行うことができない場合を除いては,内閣総理大臣により罷免されることはない。

解答・解説

(×) 憲法68条2項(「内閣総理大臣は,任意に国務大臣を罷免することができる。」)。

⑵ 内閣総理大臣は,衆議院議員の中から国会の議決で,これを指名しなければならない。

解答・解説

(×) 憲法67条1項(「内閣総理大臣は,『国会議員』の中から国会の議決で,これを指名する。」)。

⑶ 衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは,当該選挙が衆議院の解散ではなく衆議院議員の任期満了を原因として行われたものであっても,内閣は,総辞職をしなければならない。

解答・解説

() 憲法70条。同条は,「…又は,衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは,内閣は,総辞職をしなければならない。」と規定しており,選挙の原因による区別はしていない。

⑷ 内閣は,衆議院で不信任の決議案を可決し,又は信任の決議案を否決したときは,30日以内に衆議院が解散されない限り,総辞職をしなければならない。

解答・解説

(×) 憲法69条(内閣は,衆議院で不信任の決議案を可決し,又は信任の決議案を否決したときは,『10日以内』に衆議院が解散されない限り,総辞職をしなければならない。」)。

⑸ 総辞職した内閣は,新たに内閣総理大臣が天皇により任命されるまで引き続きその職務を行う。

解答・解説

() 憲法71条,6条1項。

第4問

司法に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 全て司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属するのであって,行政機関は,終審として裁判を行うことができない。

解答・解説

() 憲法76条1項,2項,裁判所法3条2項。研修教材・五訂憲法249ページ。

⑵ 現行制度上,最高裁判所には,具体的な争訟事件が提起されないのに,将来を予想して,憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し,抽象的な判断を下す権限はない。

解答・解説

() 現行制度上,最高裁判所には,事件と関係なく抽象的に憲法その他の法令の解釈に関する争いを判定する権限はないとするのが判例である(研修教材・五訂憲法240ページ。いわゆる警察予備隊違憲訴訟事件,最大判昭27.10.8民集6・9・783)。

⑶ 弾劾裁判所は,最高裁判所の指名した者の名簿に基づき内閣により任命された者によって組織される。

解答・解説

(×) 弾劾裁判所は,国会の両議院の議員で組織される(憲法64条1項)。最高裁判所の指名した者の名簿に基づいて内閣により任命されるのは,下級裁判所の裁判官である(憲法80条1項)。

⑷ 最高裁判所は,最高裁判所が定めた規則が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有しない。

解答・解説

(×) 憲法81条は,「一切の法律,命令,規則又は処分」が違憲審査権の対象となると規定しており,最高裁判所の規則についても違憲審査権の対象となる(研修教材・五訂憲法266ページ)。

⑸ 天皇には,刑事裁判権は及ばないが,民事裁判権は及ぶ。

解答・解説

(×) 判例は,「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ,天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。」としている(最判平元.11.20民集43・10・1160)。なお,天皇は,皇室典範21条が,摂政が在任中訴追されない旨規定していることから,当然に在位中訴追されず,刑事裁判権は及ばないと解されており,前段は正しい。研修教材・五訂憲法243,244ページ。

第5問

検察庁法に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察事務官は,検察庁のいずれの部局・課に所属しているかにかかわらず,検察官の指揮を受けて捜査を行う権限を有する。

解答・解説

() そのとおり。研修教材・六訂検察庁法84ページ(なお,検察庁法27条3項,検察庁事務章程10条9項も参照。)。

⑵ 検察庁法上,検察権の独立を担保する制度としては,法務大臣の検察事務に対する指揮監督権の制限,検察官の独任官庁制及び検察官の身分保障の3つが規定されている。

解答・解説

() そのとおり。研修教材・六訂検察庁法19ページ。

⑶ 大阪地方検察庁のA検察官は,出張先の東京都内で偶然面前で発生した傷害事件について,その場で加害者を取り調べることができる。

解答・解説

(×) 研修教材・六訂検察庁法39,40ページ。検察権の行使は,検察庁法5条により,検察官の属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域と管轄事項による制限を受けるところ,同法6条は,検察官の犯罪捜査権につき事物管轄の制限を解いたものであって,管轄区域の制限については同条によっても解除されない。他方,刑事訴訟法195条は,「捜査のため必要があるとき」は,管轄区域外で職務を行うことを認めている。同条の「捜査のため必要があるとき」とは,本来当該検察官が捜査することができる事件がある場合に,当該捜査の必要上管轄区域外で捜査活動をすることを認めた趣旨と解されている。本問では,傷害事件は,A検察官が属する大阪地方検察庁の管轄区域内における事件の認知がなく,有効に当該事件の捜査に着手した事件でないから,当該事件について,大阪地方検察庁のA検察官が管轄区域外で加害者を取り調べることは許されない。

⑷ 検察庁法1条1項にいう「検察官の行う事務」は,検察事務と検察行政事務に分けられるところ,検務事務は,検察行政事務に属する。

解答・解説

(×) 事件,証拠品,令状,執行,徴収,犯歴,記録,統計等のいわゆる検務事務は,検察事務の一部であって検察行政事務ではない。研修教材・六訂検察庁法47,48ページ。

⑸ 検察官事務取扱検察事務官は,その所属する区検察庁の管内で発生した殺人事件について,当該区検察庁において,当該区検察庁検察官事務取扱検察事務官の資格で,被疑者の弁解を録取し,勾留の請求を行うことができる。

解答・解説

() そのとおり。研修教材・六訂検察庁法85,86ページ。

民法(総則・債権)

第6問

条件に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,Bとの間で,「Bが試験に合格したら,A所有の自動車をBに贈与する」との契約をした。Bが,その時点で当該試験に不合格であることが既に確定していた場合,当該契約は無効である。

解答・解説

() 停止条件が不成就であることが法律行為の当時既に確定している場合,当該法律行為は無効である(民法131条2項)。

⑵ Aは,Bとの間で,「Bが試験に合格したら,A所有の自動車をBに贈与する」との契約をした。ところが,試験当日,AはBの受験を妨害しようとして,自宅にBを監禁したことから,Bは当該試験を受験できずに合格することができなかった。この場合,BはAに対し,当該自動車の引渡しを請求することができる。

解答・解説

() そのとおり(民法130条)。

⑶ Aは,Bとの間で,「Bが試験に合格したら,A所有の自動車をBに贈与する」との契約をした。当該契約は,契約をした時からその効力を生ずる。

解答・解説

(×) 停止条件付法律行為は,条件成就の時からその効力を生ずる(民法127条1項)。条件成就の効力は原則として遡及しないが,当事者の意思によって遡及させることができる(同条3項,研修教材・七訂民法I(総則)156ページ)。

⑷ Aは,BがC殺害を計画していることを知り,Bとの間で,「Cを殺害しなかったら1000万円をBに贈与する」との契約をした。当該契約は有効である。

解答・解説

(×) 不法な行為をしないことを条件とする法律行為は,無効である(民法132条後段)。

⑸ Aは,Bとの間で,「Aの気が向いたら,AはBに100万円を贈与する」との契約をした。当該契約は無効である。

解答・解説

() 停止条件付法律行為は,その条件が単に債務者の意思のみに係るときは無効である(民法134条)。

第7問

時効に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ AはBに対し,100万円の貸金債権を有していたが,当該貸金債権の消滅時効が完成した。その後,Bが,時効完成の事実を知らないまま,Aに対し,当該100万円の債務を承認した。この場合,Bは,その後も当該貸金債権の消滅時効を援用することができる。

解答・解説

(×) 債務につき消滅時効が完成した後に,債務者が債務の承認をした以上,時効完成の事実を知らなかったときでも,以後その完成した消滅時効の援用をすることは信義則上許されない(最大判昭41.4.20民集20・4・702,研修教材・七訂民法I(総則)171ページ)。

⑵ AはBに対し,100万円の貸金債権を有していたが,消滅時効完成の3か月前に,当該貸金の返済を催促した。AはBに対し,その5か月後に,前記同様に当該貸金の返済を催促した。さらに,Aは,その4か月後に,当該貸金の返済を求めて訴えを提起した。この場合,Bは,当該貸金債権の消滅時効を援用することができる。

解答・解説

() 催告(民法153条)は,その後6月以内に,裁判上の請求等,同条所定の他の強力な手段をとらない限り,時効中断の効力を生じない。単に催告を繰り返しただけでは時効は中断されないので(大判大8.6.30民録25・1200),1回目の催告から9か月を経過した時点で訴えを提起しても,その時点では既に当該債権の消滅時効が完成している。

⑶ Aが,Bに対する債権を被保全債権として,BのCに対する贈与契約を詐害行為として取り消そうとする場合.CはAのBに対する債権の消滅によって間接的に利益を受ける者にすぎないので,AのBに対する債権の消滅時効を援用することができない。

解答・解説

(×) 大審院時代の判例(大判昭3.11.8民集7・980)は,詐害行為の受益者については,詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅時効の援用権を否定していたが,最判平10.6.22民集52・4・1195が前記大判を変更し,詐害行為の受益者についても時効の援用権を認めた(研修教材・七訂民法I(総則)169ページ,研修815号61ページ)。

⑷ AはBに対し,元本100万円,利息年率2パーセントの貸金債権を有していたが,当該貸金債権の消滅時効が完成した。この場合,Bは,当該貸金債権の消滅時効を援用すれば,Aに対し,元本100万円を支払う必要はないが,消滅時効完成前に発生した利息については,これを支払わなければならない。

解答・解説

(×) 時効の効力は,その起算日にさかのぼる(民法144条)。したがって,元本が遡及的に消滅することから,時効期間中に発生していた利息も遡及的になかったことになるので,時効期間中に生じた利息の支払義務も免れることになる(研修教材・七訂民法I(総則)166ページ)。

⑸ 不動産の買主Aが,売主Bから当該不動産の引渡しを受けて,所有の意思をもって平穏に,かつ,公然と占有を開始し,20年間その占有を継続したときは,AはBに対し,時効による当該不動産の所有権取得を主張することができる。

解答・解説

() そのとおり(最判昭42.7.21民集21・6・1643)。

第8問

相殺に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ AはBに対し,弁済期を平成29年1月31日とする100万円の貸金債権を有しており,BはAに対し,弁済期を同年3月20日とする100万円の売買代金債権を有していた。この場合,Aは,同年2月21日の時点では,前記貸金債権をもって,前記売買代金債権と相殺することができない。

解答・解説

(×) 民法505条1項は,相殺の要件として,「双方の債務が弁済期にあること」を要すると規定している。しかし,受働債権については期限の利益(民法136条2項)を放棄することができるから,結局,自働債権の弁済期が到来していれば,相殺は可能ということになる(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)139ページ)。本問では,平成29年2月21日時点では,自働債権の弁済期(平成29年1月31日)は既に到来しているので,Aが相殺を行うことは可能である。

⑵ AはBに対し,宝石を100万円で売却し,代金支払及び引渡期限が到来した。また,BはAに対し,100万円の貸金債権を有していた。この場合,Aは,当該宝石の弁済の提供をしなくても,当該宝石の売買代金債権をもって,前記貸金債権と相殺することができる。

解答・解説

(×) 自働債権に相手方の抗弁権が付着している場合には,相殺できない(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)141ページ)。Aは,売買の目的物である宝石について,弁済期が到来しても未だBに履行の提供をしておらず,売買代金債権にはBの同時履行の抗弁権(民法533条)が付着しているので,Aは売買代金債権を自働債権として相殺することはできない。

⑶ Aが運転する自動車と,Bが運転する自動車が,AB双方の過失により,交差点で衝突事故を起こし,双方の自動車が破損した。この場合,Aは,Bに対するAの自動車の修理代金相当額の損害賠償債権をもって,BがAに対して有するBの自動車の修理代金相当額の損害賠償債権と相殺することができない。

解答・解説

() 民法509条は,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を禁止しているところ,双方の過失に基づく同一交通事故による物的損害の賠償債権相互間でも相殺は許されないのかが問題となる。判例(最判昭49.6.28民集28・5・666)は,この場合でも相殺は許されないとしている。

⑷ AはBに対し,100万円の貸金債権を有しており,BはAに対し,法律で差押えが禁止された100万円の休業補償債権を有していた。この場合,Aは,前記貸金債権をもって,前記休業補償債権と相殺することができない。

解答・解説

() 差押禁止債権を受働債権とする相殺は認められない(民法510条)。

⑸ Aは,平成28年2月1日に,Bに対する100万円の貸金債権(弁済期は平成29年2月10日)を取得した。Bは,平成28年4月10日に,Aに対する売買代金債権(弁済期は平成28年12月10日)を取得した。Cは,平成29年1月31日に,前記売買代金債権を差し押さえた。この場合,Aは,同年2月21日の時点で,前記貸金債権をもって,前記売買代金債権と相殺することができない。

解答・解説

(×) 民法511条。判例(最大判昭45.6.24民集24・6・587)は,「債権が差し押さえられた場合において,第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは,その債権が差押後に取得されたものでないかぎり,右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず,両者が相殺適状に達しさえすれば,第三債務者は,差押後においても,右反対債権を自働債権として,被差押債権と相殺することができる。」としている(いわゆる無制限説)。AのBに対する貸金債権は,BのAに対する売買代金債権をCが差し押さえるよりも前に取得されているから,Aが相殺を行うことは可能である。

第9問

同時履行の抗弁に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,Bとの間で,A所有の土地をBに売却する旨の売買契約を締結し,所有権移転登記と代金の支払が完了したが,当該売買契約は,BがAを欺いて締結させたものであったので,Aは,詐欺を理由として当該売買契約を取り消した。この場合,Aの代金返還とBの所有権移転登記抹消登記手続とは,同時履行の関係に立つ。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)155ページ,最判昭47.9.7民集26・7・1327)。

⑵ Aは,Bとの間で,B所有の中古の機械を購入する旨の売買契約を締結し,当該機械の引渡しを受けるとともに代金を支払った。しかし,当該機械には隠れた瑕疵があり,かつ,そのために売買契約をした目的を達することができなかったため,Aは,当該売買契約を解除した。この場合,Aの機械返還とBの代金返還とは,同時履行の関係に立つ。

解答・解説

() そのとおり(民法570条,566条1項,571条,533条)。

⑶ Aは,Bから現金100万円を借り受け,その際,A所有の高級腕時計を譲渡担保としてBに交付した。この場合,Aの100万円の債務の弁済とBの高級腕時計の返還とは,同時履行の関係に立つ。

解答・解説

(×) 債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは,前者が後者に対して先履行の関係にあり,同時履行の関係に立つものではない(最判平6.9.8判時1511・71)。

⑷ Aは,BからB所有の建物を賃借し,その際,Bに敷金として現金20万円を交付した。AB間の賃貸借契約終了後に,BはAに建物の明渡しを求め,AはBに敷金全額の返還請求権を有していたので,その返還を求めた。この場合,Aの建物明渡しとBの敷金返還とは,同時履行の関係に立つ。

解答・解説

(×) 敷金返還と賃借目的物の明渡しは同時履行の関係に立たない(研修教材・七訂民法Ⅲ債権法)201ページ,最判昭48.2.2民集27・1・80,最判昭49.9.2民集28・6・1153)。

⑸ Aは,BからB所有の建物を賃借しBの同意を得て建物に造作を付加した。AB間の賃貸借契約終了後に,BはAに建物の明渡しを求め,AはBに造作の買取りを求めた。この場合,Aの建物明渡しとBの造作代金支払とは,同時履行の関係に立つ。

解答・解説

(×) 造作買取請求権は,造作に関して生じた債権で,建物に関して生じた債権ではないから,同時履行の関係に立たない(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)200ページ,最判昭29.7.22民集8・7・1425)。

第10問

各種の契約に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,Bとの間で,A所有の建物をBに贈与する旨の書面によらない贈与契約を締結した。その後,当該建物につきAからBへの所有権移転登記がなされたが,引渡しが未了であった。この場合,Aは,当該贈与契約を撤回することができる。

解答・解説

(×) 書面によらない贈与は,履行が終わった部分は撤回することができないところ(民法550条),不動産の贈与において,所有権移転登記が経由されたときは,引渡しの有無を問わず,履行が終わったものとされる(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)168ページ,最判昭40.3.26民集19・2・526)。

⑵ Aは,Bとの間で,A所有の土地をBに売却する旨の売買契約を締結し,その際,Bから手付を受領した。Aが手付の倍額を償還して当該売買契約を解除するためには,Bに対して,口頭により手付の倍額を償還する旨を告げて受領を催告すれば足りる。

解答・解説

(×) 売主が手付の倍額を償還して契約の解除をするためには,単に口頭により手付の倍額を償還する旨を告げてその受領を催告するだけでは足りず,買主に現実の提供をすることが必要である(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)172ページ,最判平6.3.22民集48・3・859)。

⑶ Aは,Bに対し,返還時期を3か月後と定めて,A所有の絵画を無償で寄託した。この場合,Aは,Bに対して,いつでも当該絵画の返還を請求することができる。

解答・解説

() そのとおり(民法662条)。

⑷ Aは,Bとの間で,Bが建物を建築してAが報酬を支払う旨の請負契約を締結した。完成後の建物に瑕疵があり,そのために請負契約をした目的を達することができないときでも,Aは,当該請負契約を解除することができない。

解答・解説

() そのとおり(民法635条但書)。

⑸ Aは,Bに対し,A所有の建物を賃貸していたが,第三者の放火によって同建物の一部が滅失した。この場合,Bの賃料支払債務は,Bの減額請求がなくても,滅失した部分の割合に応じて減額される。

解答・解説

(×) 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができ(研修教材・七訂民法Ⅲ(債権法)195ページ,民法611条),その請求によって滅失した割合に応じて賃料支払義務が減額される。

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刑法

第11問

間接正犯に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものにはXの欄に印を付けなさい。

⑴ 母親であるAは,強盗を計画し,刑事未成年(12歳)の息子Bに指示命令して強盗を実行させた。この場合,Aには,強盗罪の間接正犯が成立することはあっても,共同正犯又は教唆犯が成立することはない。

解答・解説

(×) 判例には,刑事未成年者を利用して犯罪を実行した事案につき,共同正犯が成立するとしたものがある(最決平13.10.25刑集55・6・519(同決定は,母親であるAが,12歳の息子Bに対し,覆面をしてエアーガンを突き付けて脅迫するなどの方法により被害者から金品を強取するよう指示命令した上,覆面やエアーガンを渡し,その結果,BがAから指示された方法により被害者を脅迫したほか,自己の判断により被害者をトイレに閉じ込めるなどして同人から現金を強取し,これを全部Aに渡したという事案において,本件当時Bには是非弁別の能力があり,Aの指示命令はBの意思を抑圧するに足りる程度のものではなく,Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意した上,臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなどが明らかであり,これらの事情に照らすと,Aにつき本件強盗の間接正犯が成立するものとは認められないとし,Aが,生活費欲しさから本件強盗を計画し,Bに対し犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなどして本件強盗の実行を指示命令した上,Bが奪ってきた金品を全て自ら領得したことなどからすると,本件強盗の教唆犯ではなく共同正犯が成立するものと認められるとしている。)。研修教材・六訂刑法総論259,260ページ)。

⑵ Aは,Bを殺害する目的で,致死量の毒物を混入した菓子入りの小包を郵送し,当該小包がBに配達されたが,Bはその菓子を食べなかった。この場合,Aが事情を知らない郵便局職員Cに当該小包を手渡して配送を依頼した時点で,Aに殺人未遂罪の間接正犯が成立する。

解答・解説

(×) 判例(大判大7.11.16刑録24・1352)は,設問同様の事案で,Bが受領した時点で,飲食し得べき状態に置かれたとして,実行の着手が認められるとしている(研修教材・六訂刑法総論264ページ)。

⑶ 行使の目的があるAは,印刷工Bに対し,映画の小道具に使う旨のうそを言ってその旨誤信させて偽札を造らせた。この場合,Aには,通貨偽造罪の共同正犯又は教唆犯が成立することはあっても,同罪の間接正犯が成立することはない。

解答・解説

(×) Bには故意はあるが,行使の目的がないから,Bの行為は構成要件に該当しない。したがってBには通貨偽造罪は成立しない。このように,故意はあるが目的を欠く者を利用する場合にも,間接正犯が成立する(研修教材・六訂刑法総論260,261ページ)。

⑷ 公務員でないAは,事情を知らない公務員Bに虚偽の事実を伝え,Bを利用して,当該虚偽の事実を内容とする公文書を作成させた。この場合,Aには,公正証書原本等不実記載罪が成立することはあっても,虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立することはない。

解答・解説

() 公正証書原本等不実記載罪は,虚偽公文書作成罪の間接正犯を規定したもので,それが特別に規定されているということは,それ以外に非公務員が公務員を利用するという形での虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しないと解されている(最判昭和27.12.25刑集6・12・1387,研修教材・六訂刑法総論263ページ)。

⑸ 偽証罪については,間接正犯が成立することはない。

解答・解説

() 偽証罪は,実質的自手犯(構成要件上,行為の主体と行為とが密接に関連付けられていて,ある一定の者がその行為を行う場合のみが犯罪として禁止されており,それ以外の者が行っても犯罪とならないもの)とされている(研修教材・六訂刑法総論263ページ)。

第12問

未遂犯に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,Bのズボンの尻ポケットから現金100万円の札束がのぞいているのに目を付け,これをすり取ろうとしてその背後から近付いて手を差し伸べ,そのポケットの外側に手を触れたが,Bに気付かれたので,何も取らずに逃走した。この場合,Aには,窃盗未遂罪が成立する。

解答・解説

() そのとおり(最決昭29.5.6刑集8・5・634。研修教材・六訂刑法総論235ページ)。

⑵ Aは,火災保険金をだまし取ろうと考え,B保険会社の火災保険に加入している自宅建物に放火して全焼させたが,その直後に改心し,B保険会社に対しては,火災発生の事実を含め,一切の連絡をしなかった。この場合,Aには,詐欺罪の中止未遂が認められる。

解答・解説

(×) Aは,保険会社に対し,火災発生の事実の連絡すら一切していないのであるから,詐欺罪の実行の着手は認められない。中止未遂は,実行の着手があった後でなければ問題とならないのであるから(研修教材・六訂刑法総論238ページ),詐欺罪について中止未遂となる余地はない。

⑶ 強盗の予備をしたが自己の意思により強盗の実行に着手しなかった場合には,中止未遂の規定が準用され,その刑が減軽され又は免除される。

解答・解説

(×) 予備罪には中止未遂の観念を容れる余地がないとするのが判例である(最判昭29.1.20刑集8・1・41)。これに対して,予備罪にも中止未遂の規定の準用を認めるべきであるとする立場は,予備罪の中止未遂を認めなければ,強盗の予備をしたが実行の着手に至らなかった場合には2年以下の懲役となるが(刑法237条),強盗の実行開始後に中止した場合にはかえって刑の免除をも受けられることとなり(刑法43条ただし書),刑の権衡を失するおそれがあると主張する(研修教材・六訂刑法総論238ページ)。

⑷ Aは,Bを殺害しようと考え,Bの心臓を包丁で深く突き刺したが,その後,自己の行為を心から後悔し,119番通報をするとともに,懸命な止血措置を行うなど,真摯にBの死亡を防止する行為を行った。この場合,たとえBがAに刺されたことなにより失血死したとしても,Aには殺人罪の中止未遂が認められる。

解答・解説

(×) 刑法43条本文が「これを遂げなかった」と明確に規定している以上,既遂の場合には中止未遂とはならないと考えられている(研修教材・六訂刑法総論245ページ)。

⑸ Aは,Bを殺害しようと考え,Bに毒を飲ませたが,苦しんでいるBを見て改心し必死にBを介抱した。Bは一命を取り留めたが,これはAの介抱とは関係なく,当該毒が致死量に僅かに達していなかったためであった。この場合,Aに殺人罪の中止未遂は認められない。

解答・解説

() 中止行為と結果不発生との間に因果関係がなかった場合には,中止未遂とはならず,一般の障害未遂にしかならないとするのが判例である(大判昭4.9.17刑集8・446。研修教材・六訂刑法総論245ページ)。

第13問

逃走の罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 逮捕状によって拘置所に留置されたAは,拘置所職員の隙を見て塀を乗り越えて拘置所から逃走した。Aに単純逃走罪が成立する。

解答・解説

(×) 逮捕状による留置中は,「裁判の執行により拘禁された」(刑法97条)に当たらない(研修教材・改訂刑法各論(その2)184ページ)。

⑵ 確定判決によって甲刑務所に収容されたAは,乙刑務所への護送中,護送車両のドアが開いた瞬間を見計らって当該車両から逃走した。Aに単純逃走罪が成立する。

解答・解説

() 護送車両により護送中でも,「裁判の執行により拘禁された」(刑法97条)に当たる(研修教材・改訂刑法各論(その2)184ページ)。

⑶ 勾留状によって拘置所に勾留されたAは,知人のBから差し入れられた居室の合い鍵を用いてその扉を開け,拘置所職員の隙を見て塀を乗り越えて拘置所から逃走した。Aに加重逃走罪が成立する。

解答・解説

(×) 合い鍵を用いて居室の扉を開けたことは,「拘禁場…を損壊し」(刑法98条)に当たらない(研修教材・改訂刑法各論(その2)186ページ)。

⑷ 勾留状によって拘置所に勾留されたAの知人Bは,Aを逃走させる目的で,居室の合い鍵をAに差し入れ,Aは当該合い鍵を受領したが,拘置所から逃走しなかった。Bに逃走援助罪が成立する。

解答・解説

() 居室の合い鍵を差し入れたことは,「器具を提供し」(刑法100条1項)に当たり,その時点で既遂である(研修教材・改訂刑法各論(その2)188ページ)。その後Aが逃走しなかったことは影響しない。

⑸ 勾留状によって拘置所に勾留されたAを看守するBは,Aを逃走させる目的で,居室の合い鍵をAに交付し,Aは当該合い鍵を受領したが,拘置所から逃走しなかった。Bに看守者逃走援助未遂罪が成立する。

解答・解説

() 居室の合い鍵を交付したことは,「逃走させ」(刑法101条)る行為だが,Aが逃走しなかったので,「逃走させた」(同条)に当たらない(研修教材・改訂刑法各論(その2)189ページ)。

第14問

文書偽造の罪に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 開業医Aは,Bに依頼され,Bが保険会社に提出するための虚偽の病名を記載した診断書を作成した。Aに虚偽診断書作成罪が成立する。

解答・解説

(×) 保険会社に提出するためであるから,「公務所に提出すべき」(刑法160条)に当たらない。

⑵ Aは,Bに100万円を貸したが,BがAに借用書を渡さなかったので,Bが返済しなかった場合に裁判の証拠として使おうと考え,Bに無断で,借用書用紙に「Aから100万円を借りました。B」と記載し,「B」と刻した印鑑で押印して,借用書を作成した。Aに有印私文書偽造罪が成立する。

解答・解説

() 他人の名義を冒用すれば,文書の内容が真実であっても,「偽造」(刑法159条1項)に当たる(研修教材・改訂刑法各論(その2)61ページ)。

⑶ Aは,Bの代理人に成り済ましてBの所有する土地を売却しようと考え,Bに無断で,売買契約書用紙の売主欄に「B代理人A」と記載し,「A」と刻した印鑑で 押印して,売買契約書を作成した。Aに有印私文書偽造罪が成立する。

解答・解説

() 名義人は代理人のAではなく本人のBなので,「偽造」(刑法159条1項)に当たる(最決昭45.9.4刑集24・10・1319,研修教材・改訂刑法各論(その2)72,73ページ)。

⑷ Aは,Bに成り済ましてBの所有する土地を売却しようと考え,Bに無断で,売買契約書用紙の売主欄に「B」と記載して,売買契約書を作成したが,「B」と刻した印鑑での押印はしなかった。Aに無印私文書偽造罪が成立する。

解答・解説

(×) 売主として「B」と記載すれば,「B」と刻した印鑑で押印しなくても,「他人の…署名を使用して」(刑法159条1項)に当たる(研修教材・改訂刑法各論(その2)84,98ページ)。

⑸ Aは,B公立高校を中途退学したCから「父親に見せて安心させたいので,B公立高校の卒業証書を作ってほしい。」と頼まれ,Cの父親に見せる目的で,B公立高校校長D作成名義の卒業証書をDに無断で作成した。Aに有印公文書偽造罪が成立する。

解答・解説

() Cの父親を安心させるために卒業証書を見せることは,「行使」(刑法155条1項)に当たる(最決昭42.3.30刑集21・2・447,研修教材・改訂刑法各論(その2)94ページ)。

第15問

親族間の犯罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,同居する内縁の妻Bが所有し占有するネックレスを窃取した。Aには窃盗罪が成立するが,その刑は免除される。

解答・解説

(×) 内縁の配偶者について,刑法244条1項の適用又は類推適用はない(最決平18.8.30形集60・6・479,研修教材・改訂刑法各論(その1)196ページ)。

⑵ Aは,別居する母Bを恐喝してB所有の現金を交付させた。Aには恐喝罪が成立するが,その刑は免除される。

解答・解説

() そのとおり(刑法251条,244条1項)。

⑶ Aは,同居する姉Bに暴行を加えてB所有の現金を強取した。Aには強盗罪が成立するが,その刑は免除される。

解答・解説

(×) 強盗罪について,親族間の犯罪に関する特例はない。

⑷ Aは,同居する父BがC株式会社から借り受けた同会社所有の車両を,その事情を知りながら,Bから預かり保管中,同会社に無断で売却して横領した。Aには横領罪が成立するが,その刑は免除される。

解答・解説

(×) 横領罪について,刑法255条により準用される同法244条は,犯人と財物の所有者との間に法所定の関係が存在する場合に,適用される(大判昭6.11.17刑集10・604,研修教材・改訂刑法各論(その1)261ページ)。なお,盗罪について,刑法244条は,犯人と財物の占有者との間及び犯人と財物の所有者との間の双方に法所定の関係が存在する場合に,適用される(最決平6.7.19刑集48・5・190,研修教材・改訂刑法各論(その1)196,197ページ)。

⑸ Aは,同居する弟BがC株式会社から窃取した同会社所有の車両を,その事情を知りながら,Bから無償で譲り受けた。Aには盗品等無償譲受け罪が成立するが,その刑は免除される。

解答・解説

() 刑法257条1項は,犯人と本犯者との間に法所定の関係が存在する場合に,適用される(最決昭38.11.8刑集17・11・2357,研修教材・改訂刑法各論(その1)290ページ)。

刑事訴訟法

第16問

令状によらない捜索・差押え・検証に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 令状によらない捜索・差押えは,通常逮捕及び現行犯逮捕の場合にはすることができるが,緊急逮捕の場合にはすることができない。

解答・解説

(×) 緊急逮捕の場合にも許される(刑事訴訟法220条1項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)185,186ページ)。

⑵ 私人が被疑者を現行犯逮捕した場合には,当該私人は,当該逮捕の現場において,令状によらない捜索・差押えをすることができない。

解答・解説

() 刑事訴訟法220条1項は,逮捕の現場において令状によらない捜索・差押えをすることができる主体を,検察官,検察事務官又は司法警察職員に限定している(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)185,186ページ)。

⑶ 被疑者を逮捕するため,刑事訴訟法220条の規定により,令状によらないで人の住居内に入って被疑者の捜索をする場合,急速を要するときは,同法114条2項に定める者の立会いを必要としない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法222条2項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)186ページ)。

⑷ 刑事訴訟法220条1項にいう「逮捕する場合」とは,単なる時点よりも幅のある概念であり,逮捕と捜索等との時間的接着を必要とするものの,逮捕と捜索等との前後関係を問わない。

解答・解説

() そのとおり(最判昭36.6.7刑集15・6・915,研修教材・七訂刑事訴訟法”I(捜査)187,188ページ)。

⑸ 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し,身長若しくは体重を測定し,又は写真を撮影するには,被疑者を裸にしない場合であっても,令状によることを要する。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法218条3項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)189,190ページ。

第17問

被疑者の弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者(以下本問において「弁護人等」という。)に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 身体の拘束を受けている被疑者は,弁護人等と立会人なくして接見することができ,裁判官は,これらの者との接見を禁止することはできない。

解答・解説

() そのとおり。身柄を拘束された被疑者と弁護人等との接見を禁止することはできない(刑事訴訟法39条1項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)155ページ。なお,憲法34条前段も参照。)。

⑵ 検察官のみならず,検察事務官及び司法警察職員も,捜査のため必要があるときは,公訴の提起前に限り,身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見に関し,その日時,場所及び時間を指定することができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法39条3項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)155ページ)。

⑶ 弁護人等が,身体の拘束を受けている被疑者との接見を申し出た場合,検察官は,間近い時に当該被疑者の取調べを実施する確実な予定があり,弁護人等の必要とする接見を認めたのではそれが予定どおり開始できなくなるおそれがあるにとどまるときは,接見の日時,場所及び時間を指定することはできない。

解答・解説

(×) 研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)158ページ。最判平3.5.10民集45・5・919は,本問のようなおそれがある場合も「捜査の中断による支障が顕著な場合」に含まれると判示している(なお,最判昭53.7.10民集32・5・820も参照。)。

⑷ 被疑者の祖父は,独立して被疑者の弁護人を選任することはできない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法30条2項,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)29ページ。被疑者の配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹は,独立して弁護人を選任することができる。直系の親族とは,6親等内の直系血族をいい,祖父は2親等の直系血族であるから,独立して弁護人選任権を有する。なお,民法725~729条も参照。

⑸ 身体の拘束を受けている被疑者について,検察官が,捜査のため必要があるとして弁護人等との接見の日時,場所及び時間を指定することができるのは,裁判官が,弁護人等以外の者との接見禁止決定をしている場合に限られる。

解答・解説

(×) 研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)155~159ページ。刑事訴訟法39条3項による弁護人等との接見等の指定と,同法207条1項,81条による弁護人等以外の者との接見等の禁止とは,全く別の制度である。

第18問

公判手続の基本原則に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 公開主義とは,裁判所の審判の傍聴を一般国民に許す主義であり,公判前整理手続の傍聴を一般国民に許さなくても,公開主義には反しない。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)3,4,73,74ページ)。なお,最決平25.3.18刑集67・3・325は,公判前整理手続のような公判準備の手続が憲法82条にいう「裁判の対審及び判決」に当たらないことは,最高裁判例の趣旨に徴して明らかである旨判示している。

⑵ 刑事訴訟法は,公判手続における主導的な役割を当事者である検察官と被告人に果たさせる当事者主義を採用しているので,裁判所が職権で証拠調べをすることはできない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法は,職権による証拠調べを規定している(刑事訴訟法298条2項,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)5,6ページ)。

⑶ 刑事訴訟法は,裁判所が公判廷で直接に取り調べた証拠に基づいて裁判をしなければならないという直接主義を採用しているので,開廷後,裁判官が交代した場合には,判決の宣告のみをするときであっても,公判手続を更新しなければならない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法315条(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)9ページ)。

⑷ 刑事訴訟においては迅速な裁判の要請があるので,審理の著しい遅延の結果,迅速な裁判を受ける被告人の権利が害せられたと認められるときには,その審理を打ち切るという非常救済手段が取られることがある。

解答・解説

() 判例(最大判昭47.12.20刑集26・10・631,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)10ページ)。

⑸ 刑事訴訟法は,予断排除の原則を採用しているので,起訴状の公訴事実に被告人の前科の存在を記載することは一切許されない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法256条の趣旨から,起訴状に被告人の前科を記載することは,予断事項の記載として違法とされる場合があるが,常習累犯窃盗など前科の存在が公訴事実の構成要件となっている場合のほか,前科の存在を手段として恐喝した場合など,前科の存在が公訴事実の内容となっている場合には許容される(最大判昭27.3.5刑集6・3・351,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)13ページ)。

第19問

証拠調べ手続に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官の冒頭陳述に対して,弁護人は,証拠調べに関する異議は申し立てることができない。

解答・解説

(×) 検察官の冒頭陳述は,証拠調べの前に行われるものではなく,証拠調べの始めに行われるものであり(刑事訴訟法296条本文),証拠調べの手続の1つであるから,証拠調べに関する異議(刑事訴訟法309条1項)を申し立てることができる(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)96ページ)。

⑵ 裁判所は,証拠調べに関する異議の申立てが不適法である場合には,決定でこれを棄却しなければならない。

解答・解説

(×) 証拠調べに対する異議の申立てが不適法である場合には,裁判所は,決定で異議を「却下」しなければならない(刑事訴訟法309条3項,刑事訴訟規則205条の4)

⑶ 検察官は,証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときでも,裁判長の許可を受けなければ,物を証人に示して尋問することができない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法規則199条の11,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)114ページ)。

⑷ 刑事訴訟法321条1項2号後段の規定により証拠とすることができる書面については,検察官は,必ずその取調べを請求しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法300条,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)105,106ページ)。

⑸ 証人を尋問する場合において,裁判所は,証人の年齢,心身の状態その他の事情を考慮し,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは,証人の証言中,その不安又は緊張を緩和するのに適当な者を証人に付き添わせなければならない。

解答・解説

(×) 裁判所は,証人を尋問する場合において,証人の年齢,心身の状態その他の事情を考慮し,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,その不安や緊張を和らげるため,法廷において,証人の証言中,適当な者を証人に付き添わせることができるとされているにとどまる(刑事訴訟法157条の2第1項)。

第20問

証拠に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 再犯加重の要件となる前科は,刑事訴訟法335条1項にいう「罪となるべき事実」ではないから,これを認定するには厳格な証明を要しない。

解答・解説

(×) 再犯加重の要件となる前科は,処断刑の範囲を定めるものであるから,厳格な証明を要すると解される(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)53ページ,最決昭33.2.26刑集12・2・316)。

⑵ 刑事訴訟法292条の2第1項による意見の陳述及び同法316条の38第1項による意見の陳述は,いずれも犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法292条の2第9項,同法316条の38第4項,研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅲ(公判)147ページ)。

⑶ 前科に係る判決書謄本は,これを被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合には,自然的関連性があることに加え,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものでなければ,証拠とすることができない。

解答・解説

() 最判平24.9.7刑集66・9・907は,「前科証拠は,(中略)自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,(中略)前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る 犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるものというべきである。」と判示している(最決平25.2.20刑集67・2・1も同旨)。

⑷ A及びBに対する恐喝被疑事件の捜査の過程で作成されたAの自白を内容とする検察官調書は,当該恐喝事件に係るBの公判において,刑事訴訟法322条1項の要件を充たせば,証拠とすることができる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法321条1項2号の要件を充たす必要がある(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)162ページ)。

⑸ 裁判所から鑑定を命じられた鑑定人が当該鑑定の経過及び結果を記載した書面は,検察官及び被告人が証拠とすることに同意しなくても,当該鑑定人の証人尋問を経ることなく証拠とすることができる。

解答・解説

(×) 検察官及び被告人が鑑定書を証拠とすることに同意しない場合は,鑑定人が公判期日において証人として尋問を受け,鑑定書が真正に作成されたものであることを供述したときに証拠とすることができる(刑事訴訟法321条41項)。

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証拠品事務

第21問

証拠品の受入れに関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 他の検察庁の検察官から,被疑事件記録と共に証拠品の送致があったときは,送致を受けた検察官の属する検察庁の証拠品担当事務官は,事件記録・証拠品受領書(甲)又は事件記録・証拠品受領書(乙)を作成し,送致した検察官に送付する。

解答・解説

(×) 平成25年の一部改正前の証拠品事務規程では,事件記録・証拠品受領書(甲)又は事件記録・証拠品受領書(乙)を作成することとされていたが,改正後の証拠品事務規程では,これらの作成・送付手続は廃止され,証拠品を受領した旨を検察総合情報管理システムにより速やかに通知することとされた(証拠品事務規程4条,研修816号40,41ページ)。

⑵ 証拠品担当事務官は,証拠品を受領したときは,領置票に品名,数量その他必要事項を記入し,検察官の押印を受ける。

解答・解説

(×) 証拠品担当事務官が領置票を作成したときは,所属課長等の押印を受けることとされているが,検察官の押印を受ける必要はない(証拠品事務規程5条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説19ページ,研修816号47ページ)。

⑶ 証拠品担当事務官は,証拠品が,貴重品,破損しやすい物,取扱い上危険な物及び覚せい剤,麻薬その他これに類する物であるときは,その旨を証拠品袋等に朱書して表示する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程8条2項,研修816号50ページ)。

⑷ 証拠品担当事務官は,換価代金を受け入れたときは,これを封筒に入れ,金額,種類及び数量を表示し,所属課長又は検務監理官,統括検務官若しくは検務専門官(以下「所属課長等」という。)の立会いの上で,その金額,種類及び数量を封筒の表示と対照し,立ち会った所属課長等と共に封筒に封印する。

解答・解説

(×) 事例は立会封金の処理方法であり,換価代金を受け入れたときは,保管金提出・受入通知書に必要事項を記入して検察官の押印を受け,これを換価代金及び領置票と共に歳入歳出外現金出納官吏に送付する(証拠品事務規程9条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説22ページ,研修816号50,51ページ)。

⑸ 証拠品担当事務官は,同一被疑者に対する追送致に係る余罪事件の証拠品を受領した場合には,既に本送致に係る事件の証拠品について領置票が作成されているときでも,新たな領置票により受入手続を行う。

解答・解説

() そのとおり。領置番号は事件記録単位で進行することになっているので,この場合は新たな領置票を作成する(証拠品事務規程6条,研修816号51ペシージ)。

第22問

証拠品の保管に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官は,保管委託された証拠品については,原則として証拠品担当事務官をして保管委託証拠品に関する照会書によりその保管状況を確認させれば足りるが,特に必要と認めるときは,証拠品担当事務官をして直接保管場所において保管状況を確認させなければならない。

解答・解説

(×) かつては記載どおりの取扱いであったが,昭和51年に証拠品事務規程が改正され,原則と例外が逆転し,直接保管場所において保管状況を確認させることが原則となった(証拠品事務規程72条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説133ページ,研修818号57,58ページ)。

⑵ 証拠品担当事務官は,証拠品として受け入れた覚せい剤を保管する場合には,金庫その他堅ろうな容器又はこれに代わる施錠できる設備に収納して保管する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程16条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説30ページ,研修818号51ページ)。

⑶ 検察官が証拠品を他の者に有償で保管委託した場合には,検察官の保管責任は軽減され,自己の財産に対するのと同一の注意義務を負うにとどまる。

解答・解説

(×) 証拠品を保管委託しても押収の効力そのものには変わりはなく,委託者の保管責任も変わらず,引き続き善良なる管理者の注意義務を負う(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説132ページ,研修818号56,57ページ)。

⑷ 証拠品として押収された現金については,歳入歳出外現金出納官吏が出納保管を取り扱う。

解答・解説

(×) 押収された現金は,押収物たる通貨として立会封金扱いをする。歳入歳出外現金出納官吏が出納事務を取り扱うのは換価代金である(証拠品事務規程8条,9条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説12ページ,研修818号50ページ)。

⑸ 証拠品担当事務官は,検察官から中止処分に付された事件の証拠品を保管すべき旨の指示を受けたときは,領置票の命令要旨欄に「中止につき保管する」旨及び時効完成年月日を記入して検察官の押印を受ける。

解答・解説

(×) 命令要旨欄ではなく,備考欄に記入する。その理由は,将来事件を再起し,終局的に処分する場合に,命令要旨欄に記入して処分することとなるためである(証拠品事務規程59条2項,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説116ページ,研修818号59,60ページ)。

第23問

証拠品の処分に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 所有権放棄や還付公告期間の満了によりその所有権が国庫に帰属した証拠品の処分については,没収物の処分に関する規定が準用される。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程45条,53条,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説85,86,111ページ,研修820号49ページ)。

⑵ 没収物が外国通貨であるときは,通貨として歳入編入の処分をする。

解答・解説

(×) 外国通貨については,通常の没収物の手続に従い,売却可能な通貨は売却し,売却できない通貨は廃棄する(研修820号53ページ)。

⑶ 没収物である実包の処理を業者に依頼した場合は,当該実包を当該業者に引き継いだ段階で,没収領置票を処分済みとする。

解答・解説

(×) 没収物の処分については,検察官は執行機関であって執行指揮機関ではないため,実包を引き継いだだけでは没収領置票を処分済みとすることはできず,廃棄処分を終了した旨の回答を得て初めて没収領置票を処分済みとして処分することができる(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説53ページ,研修820号52ページ)。

⑷ 検察官は,仮出しした立会封金を開封した後証拠品担当事務官に返還するときは,封筒に開封した旨を記入して押印し,又は立会封金開封証明書を作成して添付する。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程23条1項,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説41,42ページ,研修820号45ページ)。

⑸ 証拠品担当事務官は,没収された電磁的記録に係る記録媒体に記録された電磁的記録を消去したときは,消去等調書を作成して検察官に提出し,これを事件記録に編てつする。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程41条の2第1項,第2項,研修820号54ページ)。

第24問

特定物の引継ぎ等に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 没収物が収入印紙及び郵便切手類であるときは,廃棄する。

解答・解説

() そのとおり。収入印紙及び郵便切手類は,以前は最寄りの郵便局に引き継ぐこととされていたが,平成16年に証拠品事務規程が改正され,廃棄することとなった(証拠品事務規程別表第2,2,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説60ページ,研修821号59ページ)。

⑵ 刑事参考品として法務省刑事局総務課へ引継ぎを相当とする没収物には,殺傷に使用された特殊な凶器類のように証拠品自体に顕著な特異性があるもののほか,人道上社会の耳目をひいた事件の証拠品のように事件に顕著な特異性があるものもある。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務解説56,57ページ,研修821号55,56ページ)。

⑶ 没収物が猟銃であるときは,警視庁又は道府県警察本部を通じて警察庁に引き継ぐ。

解答・解説

(×) 事例は拳銃の引継ぎ方法であり,銃砲刀剣類所持等取締法2条に規定する銃砲(拳銃を除く。)及び刀剣類は,廃棄するが,同法4条1項1号に掲げる用途に適する猟銃又は空気銃については,都道府県公安委員会に引き継ぐことができる(証拠品事務規程別表第2,7,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説62,63ページ,研修821号59,60ページ)。

⑷ 没収物が麻薬であるときは,原則として廃棄するが,厚生労働大臣から引継ぎの依頼があったものについては,同大臣に引き継ぐことができる。

解答・解説

(×) 事例は覚せい剤及び覚せい剤原料のときの引継ぎ方法であり,麻薬の場合は,厚生労働大臣に引き継ぐ必要がある(証拠品事務規程別表第2,4,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説57,58ページ,研修821号56,57ページ)。

⑸ 証拠品事務規程別表第2の「没収物」欄に掲げる物については,同「処分」欄に定める処分以外の処分は,同規程上することができないが,法務大臣に対して特別処分の上申をしてその認可を得れば,することができる。

解答・解説

() 別表第2に掲げる物については,検察官の自由な裁量による処分が許されていないため,別表に定める処分以外の処分を相当と認めるときは,規程の例外的処分として,法務大臣に対して特別処分の上申をしてその認可を得た上で行う必要がある(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説68,69ページ,研修821号62ページ)。

第25問

押収物の還付又は還付公告に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 被押収者である古物商が,無職の男が盗んで持ち込んだ腕時計を,盗品であることを過失なく知らずに買い受けた場合においては,当該腕時計は,盗難のときから2年以内であれば被害者に還付する。

解答・解説

() そのとおり。民法193条により,盗難のときから2年以内であれば被害者の無償回復請求権があるので,被害者還付となる(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説92ページ,研修823号58,59ページ)。

⑵ 遺失物として警察署長が保管中の腕時計が窃盗の被害品であったため,これを当該警察署長から窃盗事件の証拠品として押収した場合には,当該腕時計は,被害者が所有することが明らかであっても,警察署長に還付する。

解答・解説

() そのとおり。遺失物法は特別法で民法に優先し,この場合は警察署長に対して還付の手続をする(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説95ページ,研修823号60ページ)。

⑶ 証拠品担当事務官は,宅配便事業者に依頼して証拠品を送付還付した場合において,受還付人に還付請書の提出を督促しても受還付人がこれに応じないときは,受還付人に送付されたことが確認できる書類をもって,還付請書に代えることができる。

解答・解説

() そのとおり(証拠品事務規程50条5項,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説100ページ,研修823号63ページ)。

⑷ 検察官が証拠品の還付を嘱託する場合には,他の検察庁の検察官に対しては,受還付人が所有権を放棄したときは相当の処分をされたい旨を明らかにした上,嘱託することができるが,司法警察員や刑事施設の長に対しては,このような嘱託をすることができない。

解答・解説

() そのとおり。条件付きの相当処分の嘱託は他の検察庁の検察官に対しては行うことができるが,司法警察員や刑事施設の長に対しては行うことができない(証拠品事務規程51条2,3項,八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説101ページ,研修823号64, 65ページ)。

⑸ 押収物である窃盗事件の被害品について,還付公告の公告期間が満了した後に当該事件の被害者から還付の請求があった場合には,当該被害品の処分前であれば,検察官は当該被害者に還付しなければならない。

解答・解説

(×) 公告期間の満了によって押収物が国庫に帰属した以上は,その後,処分前に受還付人が判明し,同人から還付の請求があっても,還付する必要はない(八訂特別研修資料第1号・証拠品事務解説111ページ,研修823号67,68ページ)。

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