全国一斉考試

【令和3年度】検察事務官等全国一斉考試の問題・解答・解説

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憲法・検察庁法

第1問

基本的人権に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 公務員にも一般の勤労者と同様に労働基本権が保障されるので、 公務員の労働基本権を少しでも制限すれば、憲法に違反する。

解答・解説

(×) 労働基本権といえども絶対的なものではなく、国民全体の共同利益の見地からの制約を免れない。公務員も、自己の労務を提供することにより生活の資を得ている点において一般の勤労者と異なるところはなく、労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶが、その地位の特殊性と職務の公共性を根拠として、必要やむを得ない限度の制限を受ける(最判昭48.4. 25刑集27・4・547、研修教材・五訂憲法58、173~177ページ、研修882号80~82ページ)。

⑵ 在留資格を得て日本に在留する外国人には、 日本国民が享有する全ての人権が日本国民と同程度に保障される。

解答・解説

(×) 外国人は、その権利の性質の許す限り、 日本国憲法の保障する基本的人権の享有主体となり得ると解されている。例えば、国政への参政権等は保障されない(研修教材・五訂憲法60~62ページ、研修846号40~42ページ、研修882号77~79ページ)。

⑶ 警察官が、個人の容ぼう・姿態を撮影することは、その目的が犯罪の証拠保全にあれば、いかなる方法であっても、憲法には違反しない。

解答・解説

(×) 憲法13条により保障される個人の私生活上の自由の一つとして、みだりにその容ぼう等を撮影されない自由(肖像権)がある。警察官による個人の容ぼう等の撮影は、現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法で行われるときは、憲法13条に違反しない(最判昭441224刑集23・12・1625、研修教材・五訂憲法74、75ページ、研修848号70、71ページ)。

⑷ 市区町村長が、弁護士会からの弁護士法23条の2に基づく特定個人の前科及び犯罪経歴に係る照会に対し、その犯罪の種類、軽重を問わず、漫然と照会に応じて前科及び犯罪経歴の全てを回答することは、許されない。

解答・解説

() そのとおり。最判昭5614民集35・3・620は、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」とした上、「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等の全てを報告することは、公権力の違法な行使にあたる」としている。この判旨は、前科等をみだりに公開されない自由を、憲法13条を根拠とするプライバシー権の一つとして認める趣旨であると解されよう(研修教材・五訂憲法76、77ページ)

⑸ 憲法14条が定める法の下の平等とは、絶対的平等ではなく、年齢、性別、能力、財産等の違いによる合理的な取扱いの差異を容認する相対的平等である。

解答・解説

() そのとおり。憲法14条の平等原理は、 どのような場合にも全て絶対無差別の平等に取り扱うことを意味するものではなく、本質的に等しいものは平等に、差異のあるものはそれに適応した取扱いの区別を認めて、同一条件の下では同等に取り扱うことを意味するものである(最判昭6027民集39・2・247、研修教材・五訂憲法81ページ)。

第2問

精神的自由権に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 思想及び良心の自由に反することを理由として納税の義務を拒否することは、許される。

解答・解説

(×) 思想及び良心の自由は、絶対的であって、「公共の福祉」による制約も許されないが、国民の義務は一般的に国民に等しく課されているものであり、その思想や良心に関わるものではないから、思想及び良心の自由を制約するものではない。したがって、このような拒否をすることは許されない(研修教材・五訂憲法96ページ)。

⑵ カメラマンが取材活動として公判廷の状況を写真撮影する場合、これに裁判所の許可を要するとしても、憲法には違反しない。

解答・解説

() たとえ公判廷の状況を一般に報道するための取材活動であっても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害するようなものは、もとより許されない。刑事訴訟規則215条は写真撮影の許可等を裁判所の裁量に委ね、その許可に従わない限りこれらの行為をすることができないことを明らかにしたのであって、同規則は憲法に違反するものではない(最決昭3317刑集12・2・253、研修教材・五訂憲法113ページ、研修854号63ページ)。

⑶ 検察事務官が報道機関の取材ビデオテープを差し押さえることは、それが検察官の請求によって発付された裁判官の差押許可状に基づくものであっても、取材の自由を制約するものであり、許されることはない。

解答・解説

(×) 報道のための取材の自由は憲法21条に照らし十分尊重すべきであるが、何らの制約をも受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合にはある程度の制約を受けることがある。検察官の請求によって発付された差押許可状に基づき報道機関の取材テープ等を差し押さえることも、公正な刑事裁判を実現するための不可欠の前提である適正迅速な捜査のためであり、そのために取材の自由がある程度の制約を受けることがあることもやむを得ない(最決平元30刑集43・1・19、研修教材・五訂憲法114ページ)。

⑷ 通信の秘密は、絶対的に保障されるものであり、これを制約することは許されない。

解答・解説

(×) 通信の秘密(憲法21条2項後段)も絶対的なものではなく、一定の要件の下では、これを制約することも憲法上許される。例えば、犯罪捜査のために郵便物を一定の要件の下に押収することは認められている(刑事訴訟法100条、222条1項)し、被収容者については、通信の自由に制限を加え(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条ないし130条等)、信書の検査をすることも認められている(同法127条等)(最決平111216刑集53・9・1327、研修教材・五訂憲法125ページ)。

⑸ ある集会のために公の施設を利用させることによって、他の人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険があるときには、その施設の管理者が、その危険を回避し、防止するために、必要かつ合理的な範囲内でその集会の開催を制限しても、憲法には違反しない。

解答・解説

() そのとおり。憲法21条1項により集会の自由が保障されるが、集会は集団による活動を前提とするものであるから、ある程度の規制を受けることは免れず、設問のようなときには、その危険を回避し、防止するために、集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受ける(最判平77民集49・3・687、研修教材・五訂憲法107~110ページ)。

第3問

各種の法形式に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 法律案は、憲法に特別の定めのある場合を除いては 両議院で可決したときに法律となる。

解答・解説

() そのとおり(憲法59条1項、研修教材・五訂憲法196、220ページ)。

⑵ 衆議院は、議院規則を制定することができるが、参議院は、議院規則を制定することができない。

解答・解説

(×) 両議院は、それぞれその会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができるとされており(憲法58条2項)、衆議院も参議院も議院規則制定権を有する(研修教材・五訂憲法222、223ページ)。

⑶ 政令の制定は、内閣の職務である。

解答・解説

() そのとおり(憲法73条6号、研修教材・五訂憲法235ページ、研修868号70ページ)。

⑷ 条例で罰則を定めることは、国会中心立法の原則に反し、許されない。

解答・解説

(×) 条例は、国会中心立法の原則の例外として憲法が予定しており(憲法94条、研修教材・五訂憲法196ページ)、 条例で罰則を定めることも許される(地方自治法14条3項、研修教材・五訂憲法288ページ)。

⑸ 最高裁判所が定めた規則は、裁判所による違憲審査の対象とならない。

解答・解説

(×) 違憲審査の対象を、憲法は、「一切の法律、命令、規則又は処分」としており(憲法81条)、 最高裁判所が定めた規則も違憲審査の対象となる(研修教材・五訂憲法266ページ、研修874号50ページ)。

第4問

財政に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 予算を作成して国会に提出することは、内閣の職務である。

解答・解説

() そのとおり(憲法73条5号、86条、研修教材・五訂憲法235、277ページ)。

⑵ 予算について、衆議院で可決され、参議院でこれと異なった議決がされた場合は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したとき、衆議院の議決が国会の議決となる。

解答・解説

(×) 予算について、衆議院で可決され、参議院でこれと異なった議決がされた場合は、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、衆議院の議決が国会の議決となる(憲法60条2項)。出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときに衆議院の議決が国会の議決となるのは、法律案の場合である(憲法59条2項)。すなわち、予算の議決については、法律案の場合よりも衆議院の優越の程度が高い(研修教材・五訂憲法198ページ)。

⑶ 国費を支出する場合だけでなく、国が債務を負担する場合にも、国会の議決に基づくことを必要とする。

解答・解説

() そのとおり(憲法85条、研修教材・五訂憲法276、277ページ)。

⑷ 予備費は、内閣の責任でこれを支出することができるので、事後に国会の承諾を得る必要はない。

解答・解説

(×) 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができるが(憲法87条1項)、内閣は、全て予備費の支出については、事後に国会の承諾を得なければならない(同条2項、研修教材・五訂憲法279ページ)。

⑸ 国の収入支出の決算は、全て毎年財務大臣がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

解答・解説

(×) 問題中「財務大臣」とあるのは誤りで、正しくは「会計検査院」である(憲法90条1項)。

第5問

検察庁法に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官は、主任検察官として配点された事件の目撃者を他の検察庁の管轄区域内で取り調べる必要があるときには、自己が所属する検察庁の管轄区域に限らず、他の検察庁の管轄区域内でも、その取調べをすることができる。 

解答・解説

() そのとおり(検察庁法5条(同条の「他の法令」とは、刑事訴訟法195条等が該当する)、研修教材・七訂検察庁法38~42ページ)。

⑵ 検察官には身分保障があるので、検察官適格審査会の議決を経なければ、その意に反して官を失うことはない。

解答・解説

(×) 国家公務員法上の懲戒処分の規定は、国家公務員である検察官についても、そのまま適用があり、懲戒処分となった場合は免職になる場合があり得る(検察庁法25条ただし書、研修教材・七訂検察庁法77 ~79ページ)。

⑶ 法務大臣は、検察庁法4条及び6条に規定される検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができるので、検察官に対して個々の具体的事件についての報告を求めることもできる。

解答・解説

() そのとおり。法務大臣は、検察官を一般に指揮監督することができ、個々の具体的事件についての報告を求めることは、検察官を一般に指揮監督できることに含まれる(検察庁法14条、研修教材・七訂検察庁法22~24ページ)。

⑷ 検察官事務取扱検察事務官は、その所属する区検察庁の検察官の権限と同一の権限を有する。

解答・解説

() そのとおり。検察事務のみならず、検察行政事務についても検察官としての権限を有する(検察庁法附則36条、研修教材・七訂検察庁法87、88ページ)。

⑸ 事務引取移転権によっても区検察庁検察官事務取扱検察事務官に地方検察庁検察官の事務を取り扱わせることはできない。

解答・解説

() そのとおり(検察庁法12条、同法附則36条、研修教材・七訂検察庁法87、88ページ)。

民法(総則・物権)

第6問

17歳の未婚のAが締結した契約に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。ただし、適用される法律は、令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。 

⑴ Aは、法定代理人Bの同意を得ないで、Cから高級腕時計を購入する契約を締結した。この場合、Aは、Bの同意を得なければ、契約を取り消すことはできない。

解答・解説

(×) 取消権者は、未成年者本人又はその法定代理人である(民法120条1項)。未成年者本人は、法定代理人の同意を得ずとも取消しの意思表示をすることができる(研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)23ページ)。

⑵ Aは、自ら偽造した法定代理人Bの同意書を用いて、Cに対してBの同意を得たと偽り、これを信じたCとの間で、Cから高級腕時計を購入する契約を締結した。 この場合、Aの法定代理人Bは、契約を取り消すことはできない。

解答・解説

() そのとおり。制限行為能力者が詐術を用いたときは、その行為を取り消すことはできず(民法21条)、制限行為能力者が当該行為について法定代理人の同意を得たと偽った場合もこれに含まれる。この場合、制限行為能力者本人だけでなく、その法定代理人も取り消すことはできない (民法21条、研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)42~45ページ、研修843号58ページ)。

⑶ Aは、法定代理人Bの同意を得ないで、Cから高級腕時計を購入する契約を締結した。Aは、その後、Cとの契約を取り消すことができることを知ったが、やはり高級腕時計が欲しかったので、この契約を追認したいと考えた。この場合、Aは、A自身が17歳である間に、Cとの契約を追認することができる。

解答・解説

(×) 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない(民法124条1項)。したがって、本人が未成年者である間は、本人は追認をすることはできない(研修843号57、58ページ)。

⑷ Aは、自らの負担を伴わなければ、法定代理人Bの同意を得ずに、Cから高級腕時計の贈与を受けることができる。

解答・解説

() そのとおり。単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、法定代理人の同意を得なくてもすることができる(民法5条1項ただし書)。負担を伴わない贈与を受ける契約などがこれに当たる(研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)24ページ、研修843号59ページ)。

⑸ Aが法定代理人Bに無断でCとの間で締結した高級腕時計の売買契約について、Aが未成年者であることを知ったCは、Bに対し、2週間以内に契約を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をした。Bがその期間内に確答を発しなかった場合、Bは契約を追認したものとみなされる。 

解答・解説

(×) 催告は1か月以上の期間を定めたものであることが必要である(民法20条2項、同条1項、研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)43ページ、研修843号57ページ)。

第7問

時効に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。ただし、適用される法律は、令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。 

⑴ Aは、Bに金を貸した後、その弁済期が到来し、直ちにそのことを知ったが、 それから4年8か月が経過した時点でBに対して返済の請求(催告)をした。しかし、その後もBからの返済がなかったので、催告をしてから5か月後に2回目の催告をした。この場合、AのBに対する貸金債権の消滅時効は、2回目の催告をした時点から6か月間は完成しない。

解答・解説

(×) 催告により時効の完成が猶予されている間になされた再度の催告には、時効の完成猶予の効力はない(民法150条2項、研修教材・民法Ⅰ(総則)202ページ)。Aが最初に返済を求めた時から6か月が経過した時点で、AのBに対する貸金債権は時効消滅する(研修877号66、67ページ)。

⑵ Aは、Bから100万円を借り、Bと約束した返済期限が到来してもこれを返済せず、そのまま5年が経過した。この場合、Aは、時効を援用しても、Bに対し、 貸金債権が時効消滅するまでの間の利息については支払う義務を負う。

解答・解説

(×) 時効の遡及効(民法144条)は、時効期間中の果実(民法88条)にも及ぶので、Aは利息についても支払義務を免れる(研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)193ページ、研修877号64ページ)。

⑶ Aは、Bと婚姻し、Bの妻として22年にわたりBから扶養を受けていたが、その後、Bと離婚した。この場合、Aは、Bから扶養を受ける権利を時効取得しているので、Bは、引き続きAを扶養する義務を負う。

解答・解説

(×) 一定の身分を前提とする権利は、取得時効の客体とはなり得ない。扶養を受ける権利もこれに該当する(研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)210ページ)。

⑷ Aは、甲土地を自分の土地であると信じて20年にわたって平穏かつ公然と占有し続けた。この場合、Aが占有を開始した時点で甲土地に他人名義の登記がなされていたとしても、Aは、甲土地の所有権を時効取得することができる。 

解答・解説

() そのとおり。所有権の時効取得の効果は、 原始取得であり、他人の登記名義のある不動産も、占有の継続だけで時効取得できる(研修教材・八訂民法Ⅰ(総則)208ページ)。

⑸ AはBに対して貸金債権を有していたが、当該貸金債権の消滅時効が完成した。その後、Bが、消滅時効完成の事実を知らないまま、Aに対し、当該債務の一部を弁済した。この場合、Bは、その後は、一部弁済をした時から更に時効期間が経過しない限り、当該貸金債権の消滅時効を援用することができない。

解答・解説

() そのとおり。判例は、債権の消滅時効が完成した後に債務者が債務の承認(その権利の存在を認める行為であり、一部弁済等がこれに当たる。)をした場合は、相手方において債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、たとえ時効完成の事実を知らずに承認をしたとしても、信義則に照らし、その後においては、債務者に時効の援用を認めないとしている(最判昭4120民集20・4・702、研修教材・八訂民法Ⅰ(総則) 198、203ページ、研修877号65~67ページ)。 なお、前記判例は、債務の承認時点で既に完成していた消滅時効の援用を否定するものにとどまり、債務の承認時点から更に民法所定の時効期間が経過したときは、再び消滅時効により債務は消滅する(最判昭4521民集24・5・393)。

第8問

占有回収の訴えに関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。ただし、適用される法律は、令和2年4月1日に施行された民法 (「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。 

⑴ Xは、Aがその自宅に飾っていたA所有の絵画を詐取し、自己が営む画廊に飾っている。この場合、Aは、当該絵画を占有しているXに対し、占有回収の訴えを提起することができる。

解答・解説

(×) 民法200条1項は、占有回収の訴えを提起できる場合について、「占有者がその占有を奪われたとき」と規定している。「占有を奪われた」の意味については、占有者がその意思に基づかずにその所持を奪われることが必要であるとされ、詐取された場合は、「占有を奪われた」には該当しない(大判大111127民集1・692、研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)64、65ページ)。よって、Aが占有回収の訴えを提起できるとしている点で誤りである。

⑵ Xは、Aがその自宅に飾っていたA所有の絵画を盗んだ。その半年後、Aはその絵画を盗まれたことに気付いた。この場合、Aは、当該絵画を盗まれた時から1年以内でなければ当該絵画を占有しているXに対し占有回収の訴えを提起することができない。

解答・解説

() 民法201条3項は、占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。」と規定しており、同訴えの提起は、侵奪の時から1年以内にしなければならない(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)65ページ)。

⑶ Xは、Aがその自宅に飾っていたA所有の絵画を盗み、X方に飾っていたが、当該窃盗の半年後に死亡した。Xの生前からXと同居し、Xを相続したBは、当該絵画はXが購入したものであると信じて、これを引き続き自宅に飾っている。この場合、Aは、Bに対し、占有回収の訴えを提起することができる。

解答・解説

() 民法200条1項は、占有者がその占有を奪われた場合に、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求できることを定め、同条2項は、占有回収の訴えは、侵奪者の特定承継人との関係では、特定承継人が侵奪の事実を知っていたときのみ提起できると規定している。 すなわち、同条の文言上、占有回収の訴えを提起できる相手方は、侵奪者とその包括承継人(相続人等)と悪意の特定承継人に限られることになる。Bは、侵奪者Xの包括承継人(相続人)であるから、侵奪についての善意悪意を問うことなく、Aは、Bに対し、占有回収の訴えを提起することができる(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)64、65ページ)。

⑷ Xは、Aがその自宅に飾っていたA所有の絵画を盗み、当該絵画を当該窃盗の事実を知っているBに売却して引き渡した。この場合、Aは、当該絵画を占有しているBに対し、占有回収の訴えを提起することができる。

解答・解説

() 前記⑶のとおり、占有回収の訴えは、侵奪者の特定承継人との関係では、特定承継人が侵奪の事実を知っていたときのみ提起できる。Bは、絵画を侵奪したXの特定承継人であり、侵奪の事実を知っていたのであるから、AはBに対し、占有回収の訴えを提起することができる。

⑸ Xは、Aがその自宅に飾っていたA所有の絵画を盗み、自己が営む画廊に飾っている。Aは、当該絵画を取り戻すため、Xに対し、占有回収の訴えを提起することもできるし、所有権に基づく返還請求の訴えを提起することもできる。

解答・解説

() 民法202条1項は、「占有の訴えは本訴の訴えを妨げず、また、本訴の訴えは占有の訴えを妨げない。」と規定している。 よって、 Aは、Xに対し、所有権に基づく返還請求の訴え(本権の訴え)を提起することもできるし、占有回収の訴えを提起することもできる(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)65ページ)。

第9問

不動産物権変動と登記に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。ただし、適用される法律は、令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」による改正後の民法)とする。

⑴ Aの父Bは、その所有する甲土地をCに売却したが、その旨の登記をする前に死亡した。Cは、登記をしていない以上、Bの相続人Aに対し、甲土地の所有権の取得を主張することができない。

解答・解説

(×) 民法177条の「第三者」の意義を問う問題である。同条に規定する登記をしなければ対抗できない「第三者」とは、当該物権変動の当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者をいう(大判明411215民録14・1276)。Aは、売主Bの包括承継人(相続人)であるから、「第三者」には当たらない。よって、Cは登記なくしてAに甲土地の所有権を取得を主張できる(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)35、37ページ)。

⑵ Aは、BからB所有の甲建物を買い受けたが、その旨の登記が未了である。Aは、Cが甲建物を不法に占拠していることを知ったが、BからAへの所有権移転登記がない以上、Cに対し、所有権に基づく甲建物の明渡しを請求することができない。

解答・解説

(×) 民法177条の「第三者」の意義を問う問題である。同条の登記をしなければ 対抗できない「第三者」とは前記⑴のとおりであるところ、Cは、不法占拠者であり、登記の欠缺を主張する正当の利益がない。 判例(最判昭251219民集4・12・660)は、「不法占有者は民法第177条にいう『第三者』に該当せず、これに対しては登記がなくても所有権を対抗し得る。」 と判示している(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)37、38ページ)。

⑶ Aは、その所有する甲土地をBに売却したが、その旨の登記が未了である。その後、Aは、甲土地についてCのために地上権を設定したが、地上権設定登記は未了である。この場合、Bは、みかんの木を植えて甲土地を占有するCに対し、所有権に基づき甲土地の明渡しを請求できない。

解答・解説

() 民法177条の「物権の得喪」及び「第三者」の意義を問う問題である。同条 は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(中略)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているところ、地上権の設定も「物権の得喪」に当たる。買主Bは、地上権者Cと対抗関係に立ち、登記なくして、甲土地の所有権取得をCに対抗できないから、Cに対し所有権に基づく甲土地の明渡しを請求できない(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)23、36ページ)。

⑷ Aがその所有する甲土地をBに売却した後、CがBを害する目的で甲土地をAから買い受け、所有権移転登記を了した。その後、Cは、上記事情を知らないDに対し、甲土地を売却し、所有権移転登記を了した。この場合、Bは、Dに対し、甲土地の所有権の取得を主張することができない。

解答・解説

() 民法177条の「第三者」の範囲について問う問題である。同条の登記をしなければ対抗できない「第三者」は善意悪意を問わないのが原則である。これは、第三者の善意悪意を問わず、登記により画一的に解決し登記により画一的に解決し、取引の安全を図る必要があるからである。 しかし、悪意といっても、それは自由競争社会において社会通念上相当と認められる範囲で行われた取引の限度で容認されるというものであって、単なる悪意にとどまらず、信義則に反するなどの不当・悪質な悪意者は、もはや保護すべきではない。判例は、この ような者について、いわゆる「背信的悪意者」として、同条の「第三者」から排除すると解している(最判昭432民集22・8・1571等)。もっとも、背信的悪意者からの善意の転得者については、背信的悪意者は、信義則上未登記権利者に対する登記欠缺の主張が否定されているだけで完全な無権利者ではないから、転得者も物権を承継取得でき、転得者自身が背信的悪意者と評価されない限り、登記の欠缺を主張することができる(最判平81029民集50・9・2506)。Cは背信的悪意者であるが、Cからの転得者Dは背信的悪意者とは評価されないから、Dは、Bの登記の欠缺を主張することができ、逆に言うと、Bは、登記を了したDに対し、甲土地の所有権の取得を主張することができない(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)36~40ページ)。

⑸ Aは、その所有する甲土地をBに売却し、その旨の登記をしたが、Bの売買代金未払いを理由に同売買契約を解除した。その後、BがCに甲土地を売却し、その旨の登記を了した場合、Aは、Cに対し、解除による甲土地の所有権の復帰を主張することができない。

解答・解説

() 不動産売買契約解除後の解除権者たる売主と第三取得者との優劣関係について問う問題である。判例(最判昭351129民集14・13・2869)は、「不動産を目的とする売買契約に基き買主のため所有権移転登記があった後、右売買契約が解除せられ、不動産の所有者が買主(原文ママ、引用者注:売主の誤記と思料)に復帰した場合でも、売主は、その所有権取得の登記を了しなければ、右契約解除後において買主から不動産を取得した第三者に対し、所有権の復帰を以って対抗し得ない」としている。判例の結論に賛同する学説は、解除権行使に伴う遡及効(民法545条1項)は、一種の法的擬制であり、解除の効果としてあたかも買主(B)から解除権者(売主A)への復帰的物権変動が観念でき、買主(B)から解除権者(A)への復帰的物権変動と、買主(B)から第三取得者(C)への物権変動は民法177条の対抗関係類似の関係に立つとして、登記の優劣により決せられるとする(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)25、26ページ)。Cが登記を了している以上、Aは、Cに対し、解除による甲土地の所有権の復帰を主張することができない。

第10問

抵当権に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。ただし、適用される法律は、令和2年4月1日に施行された民法(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」 による改正後の民法)とする。 

⑴ Aは、自己の所有する甲土地にBのために抵当権を設定した。抵当権設定当時、甲土地上にはA所有の乙建物が建っていた。この場合、抵当権の効力は乙建物にも及ぶ。

解答・解説

(×) 民法370条本文は、抵当権は、「抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ」と規定しており、土地について抵当権が設定されてもその効力は土地上の建物には及ばない。

⑵ Aは、自己の所有する甲家屋にBのために抵当権を設定した。Aは、抵当権設定後、甲家屋1階部分を拡張して子供部屋を増築した。この場合、抵当権の効力は増築後の甲家屋全体に及ぶ。

解答・解説

() 抵当権の効力の及ぶ範囲は、抵当不動産に付加して一体となっている物(以下「付加一体物」という。)である(民法370条本文)。「付加一体物」には、「その不動産に従として付合した物」(民法242条本文、以下「付合物」という。)が含まれ、付合の時期いかんを問わず、付合物には抵当権の効力が及ぶ。そして、「その不動産に従として付合した」(付合物)とは、それまで独立に所有権の対象となっていた物が不動産と結合してしまって独立性を失い、もはや、別々に引き離して元の状態に服することが取引通念上不可能又は社会経済上著しく不利益であると認められる場合をいう(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)75ページ)。増築部分である子供部屋は甲家屋に付合している。また、甲家屋の所有者Aが増築したもので、Aが増築部分の所有権を取得しており、民法242条ただし書の適用はない。よって、Bの抵当権の効力は、増築後の甲家屋全体に及ぶ(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)147、148ページ)。

⑶ Aは、自己の所有する甲家屋にBのために抵当権を設定した。Aの抵当権設定前から、Cは、Aから甲家屋を賃借し、自らの費用で購入した取り外し可能なエアコンを甲家屋内に設置していた。この場合、抵当権の効力はCのエアコンにも及ぶ。

解答・解説

(×) 民法242条本文の「その不動産に従として付合した」(付合物)とは、前記⑵のとおりであるところ、エアコンは、同条の 「付合物」には該当しない。また、抵当権設定当時の従物には民法87条2項により抵当権の効力が及ぶが(最判昭和4428民集23・3・699、研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権148ページ)、そもそも本間では、A所有の甲家屋にC所有のエアコンを取り付けており、両者の所有者が同一ではないため、エアコンは甲家屋の「従物」ではない。よって、Cのエアコンには抵当権の効力は及ばない。

⑷ Aは、Cから賃借している甲土地上に建物を所有している。Aは、乙建物にBの ために抵当権を設定した。この場合、抵当権の効力は甲土地の賃借権にも及ぶ。

解答・解説

() 従物に準じて「従たる権利」にも抵当権の効力は及ぶ。敷地の利用権(借地権)は抵当不動産である建物の「従たる権利」であるから、敷地の利用権(借地権)にも抵当権の効力が及ぶとするのが判例(最判昭404民集19・4・811)である(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)149ページ)。

⑸ Aは、Cに賃貸しているA所有の建物にBのために抵当権を設定した。抵当権の効力は、その被担保債権が債務不履行となっているかどうかにかかわらず、AのCに対する賃料債権に及ぶ。

解答・解説

(×) 抵当不動産の建物からの賃料は民法88条2項の規定する「法定果実」である。民法371条は、「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。」と規定し、天然果実・法定果実に抵当権の効力が及ぶとしているが、果実に抵当権の効力が及ぶのは、債務不履行後の果実である。よって、「債務不履行となっているかどうかにかかわらず」との点は誤りである(研修教材・八訂民法Ⅱ(物権・担保物権)149、150ページ)。

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刑法

第11問

不作為犯に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 不退去罪は、真正不作為犯である。

解答・解説

() 真正不作為犯とは、構成要件自体が不作為の形式で規定されている犯罪をいい、不退去罪(刑法130条後段)はこれに当たる (研修教材・七訂刑法総論77ページ)。

⑵ 不真正不作為犯が成立するためには、行為者に道徳的な義務があれば足り、 結果の発生を防止すべき行為をする法的な義務があることは必要でない。

解答・解説

(×) 不真正不作為犯が成立するためには、法律上の義務である法的作為義務があることが必要であり、これに単なる道徳的義務は含まない(研修教材・七訂刑法総論80ページ、研修843号65ページ)。

⑶ 不真正不作為犯が成立するためには、不作為と結果との間に因果関係が必要である。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・七訂刑法総論86ページ)。

⑷ 不真正不作為犯が成立するためには、行為者において作為義務を履行して結果の発生を防止することができた場合であることが必要である。

解答・解説

() そのとおり。不真正不作為犯が成立するためには、行為者において作為義務を履行して結果の発生を防止することができた場合であること(作為の可能性)が必要である(研修教材・七訂刑法総論84ページ、研修843号65ページ)。

⑸ 不真正不作為犯において、未遂犯が成立する場合がある。

解答・解説

() 不真正不作為犯について、作為義務を履行しなかったが結果が発生しなかった場合のように、不真正不作為犯の未遂犯が成立する場合がある(研修教材・七訂刑法総論86ページ、大塚仁ほか編「大コンメンタール刑法第2巻」第3版71ページ)。

第12問

故意に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは、Bを殺してやろうと考え、歩いてきた男をBだと思って包丁で刺し殺した。しかし、その男は実際にはCであった。この場合、Aには、Cに対する殺人罪が成立する。

解答・解説

() 設問の場合、認識した事実と現実に発生した事実との不一致が同一構成要件の範囲内であるので、故意を阻却せず、Cに対する殺人罪が成立する(研修教材・七訂刑法総論181~183ページ)。

⑵ Aは、Bが12歳であることを知っていたが、Bの承諾があれば犯罪に当たらないと思い、Bの承諾を得た上でBにわいせつな行為をした。この場合、Aには、Bに対する強制わいせつ罪が成立する。

解答・解説

() 13歳未満の者に対する強制わいせつ罪(刑法176条後段)の被害者の承諾は犯罪成立上は何ら意味はなく、12歳であることを知っていたのであるから、13歳未満の者に対する強制わいせつ罪が成立する。 AがBの承諾があれば犯罪が成立しないと誤信していたとしても、故意を阻却しない(研修教材・七訂刑法総論198、206、207ページ、研修教材・三訂刑法各論(その1)85ページ)。

⑶ Aが、Bに向けて殺意をもって拳銃を発射したところ、Bは乳児Cを抱いており、その弾丸はBの身体を貫通した後、Cの身体も貫通し、BとCは死亡した。AはBがCを抱いていることを知らなかった。この場合、Aには、BとCに対する殺人罪が成立する。

解答・解説

() 法定的符合説を採り、殺人の故意について、「人数を問わずおよそ人を殺す意思」と解すれば、B、C両名に対する殺人罪が成立することになる。判例(大判8.8.30刑集12・1445) は、犯人が叔母を殺害する故意の下、日本刀で同人を突き刺して殺害した際、同時に同人が抱いていた認識外の幼児も刺殺した事案において、両名に対する殺人罪の成立を認めている(研修教材・七訂刑法総論186、187ページ)。

⑷ Aは、Bを溺死させようと思い、Bを橋の上から川に突き落としたが、Bは橋の欄干に頭部を強打し、頭部からの出血が原因で死亡した。この場合、Aには、Bに対する殺人罪は成立しない。

解答・解説

(×) 設問の場合、法定的符合説によれば、行為者が認識していた因果関係の経路(溺死)が相当因果関係の範囲内にあり、かつ、現実に発生した因果関係の経路(頭部打撲による失血死)が相当因果関係の範囲内にあると認められれば、同一構成要件内の錯誤であるから故意を阻却せず、殺人罪が成立する(研修教材・七訂刑法総論188、189ページ)。

⑸ Aは、Bが住んでいる家屋だと思い、その家屋に放火し、焼損させたところ、 実際はその家屋には誰も住んでおらず、かつ、誰も現在しなかった。この場合、 Aには、現住建造物等放火未遂罪が成立する。

解答・解説

(×) 設問の場合、重い罪を犯す意思で同質の軽い罪を実現したときに当たり、軽い罪の故意犯が成立するから、非現住建造物等放火罪(刑法109条)の既遂が成立する(研修教材・七訂刑法総論193頁)。

第13問

住居を侵す罪に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは、実父Bと一緒に暮らしていた住居から家出をした半年後、共犯者3名と一緒に、強盗目的で、深夜、Bが就寝中の当該住居に立ち入った。この場合、Aには、この住居への立入りについて、住居侵入罪が成立する。

解答・解説

() 判例は、当時家出をしていた被告人が、共犯者3名と共謀の上、強盗目的で自己の実父方に侵入したという行為につき、住居侵入罪の成立を認めている(最判昭23.11.25刑集2・12・1649、研修教材・三訂刑法各論(その1)105ページ、研修867号68、69ページ)。

⑵ Aは、高校の校舎内で窃盗をする目的で、深夜、門と塀で囲まれている同校の敷地内に、塀を乗り越えて無断で立ち入ったが、校舎内への侵入口を探している間に、駆けつけた警備員に捕まった。この場合、Aには、建造物侵入罪は成立しない。

解答・解説

(×) 判例によれば、建造物に付属する囲繞地は、建造物に含まれるから(最判昭25.9.27刑集4・9・1783)校舎を囲う塀を乗り越えて敷地内に無断で立ち入った時点で建造物侵入罪が成立する。なお、囲繞地について、判例は「その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、 建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる」(最判昭51.3.4刑集 30・2・79)としている(研修教材・三訂刑法各論(その1)104、105ページ、研修867号69ページ)。

⑶ Aは、現金自動預払機利用客のキャッシュカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が複数台設置されている銀行支店出張所内に通常の利用客のふりをして立ち入り、そのうちの1台に盗撮用ビデオカメラを設置した。この場合、Aには、同出張所内への立入りについて、建造物侵入罪が成立する。

解答・解説

() 判例は、本間と同様の事案において、 「立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立する」としている(最決平19.7.2刑集61・5・379、研修教材・三訂刑法各論(その1)108ページ、研修867号71ページ)。

⑷ Aは、BとCが宴会をするために一時的に借り受けて使用している旅館の客室に無断で立ち入った。Aには、当該客室をB・Cの住居とする住居侵入罪が成立することはない。

解答・解説

(×) 判例は、「住居」について、人の起臥寝食に用いる場所をいうとし、通説は、その住居としての使用は、一時的なものでもかまわず、旅館やホテルなどの客室も、起臥寝食に使用されるものである限り、 その利用が短時間であっても、その滞在客にとっては住居となり得ると解している。裁判例も、私人が現行犯人逮捕のためと称して旅館兼料理店の一室に立ち入った事案において、「住居 とは、一戸の建物のみを指すのではなく、旅館料理屋の一室といえどもこれを借り受けて使用したり、又は宿泊したり飲食している間は、そのお客の居住する住居と認むべき」(一部現代語に修正)と判示し、当該事案につき、同店奥座敷で宴席を設けていた人物の住居と認めている(名古屋高判昭26.3.3高 刑集4・2・148、研修教材・三訂刑法各論(その1)103ページ。なお、研修867号67ページ参照)。

⑸ Aは、一晩寝泊まりしようと考え、留守中の第三者B方に無断で立ち入った。 その後、Aは、帰宅したBに発見され、再三にわたって立ち去るよう要求されたが、そのままBの要求を無視して居座った。この場合、Aには、不退去罪が成立する。

解答・解説

(×) 不退去罪は、当初は適法に、又は住居侵入の故意なく他人の住居等に立ち入った者が、住居者等から退去を要求されたのに退去しない場合に成立する。したがって、当初から故意をもって不法に侵入し、 その後要求されても退去しない場合は、侵入した時点で住居侵入罪が成立するにとどまり、不退去罪は成立しない。判例も、「建造物侵入罪は故なく建造物に侵入した場合に成立し退去するまで継続する犯罪であるから、同罪の成立する以上退去しない場合においても不退去罪は成立しない」としている(最決昭31.8.22刑集10・8・1237、研修教材・三訂刑法各論(その1)110、111ページ)

第14問

詐欺及び恐喝の罪に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは、店舗で物品を購入した際、 同店のレジカウンターにおいて、店員Bが釣銭として1万円札1枚を渡そうとしてきたとき、Bが千円札であると勘違いして1万円札を渡そうとしていることに気付いたが、何も言わずにBからその1万円札を受け取って立ち去った。この場合、Aには、詐欺罪が成立する。

解答・解説

() 人を欺く行為は、作為によるもののほか、真実を告知すべき法律上の義務を負う者が故意にこの義務を怠って告知せず、相手方が既に錯誤に陥っている状態を継続させ、又はこれを利用する場合のように、不作為によっても行われ得る(大判大6.11.29刑録23・1449)。不作為による場合は、法律上真実を告知すべき義務がなければならないが、その義務は法令の規定による場合に限らず、慣習上、条理上、契約上認められるものであっても構わない(大判昭8.5.4刑集12・538)。本間のようないわゆる釣銭詐欺のように、相手方が錯誤によって余分な釣銭を出したのを知りながら、その旨を告げないで受け取るのは不作為による欺く行為とされる(研修教材・三訂刑法各論(その1)210ページ、研修873号45~48ページ、837号47、48ページ)。

⑵ Aは、面識がない店主Bが1人で営む居酒屋に初めて入って飲食した。Aは、 代金を支払えるだけの所持金を持っており、注文した時点では代金を支払うつもりがあったが、飲食後、代金を支払うのが惜しくなり、Bが目を離した隙に、何も言わず、代金も支払わないまま店から逃走した。この場合、Aには、詐欺罪が成立する。

解答・解説

(×) 飲食後に代金支払の意思がなくなり、飲食した者が飲食物を提供した店主等の隙を見て逃走したような場合は、店主等の財産的処分行為に向けられた欺く行為があったとはいえないから、詐欺罪は成立しない(研修教材・三訂刑法各論(その1)218、219ページ、研修873号45、48ページ)。

⑶ Aは、火災保険金をだまし取るつもりで、自己所有の家屋を目的物とする火災保険契約を締結し、その後、失火を装って家屋に放火したが、火災保険金の支払請求手続をする前に逮捕された。この場合、Aには、火災保険金に対する詐欺未遂罪は成立しない。

解答・解説

() 本間においては、Aが保険会社に保険金の支払を請求した時点で初めて詐欺の実行に着手したといえ、家屋に放火しただけでは、詐欺の実行の着手は認められない。判例も、本間と同様の事案について、 「被告人が被保険物に火を放ち独立して燃焼作用を継続し得べき状態に至らしめたる事実なるも、いまだ判示保険株式会社に対し保険料支払の請求をなしたる事跡なきがゆえに、本件放火行為は詐欺罪に対しては単に準備行為たる関係あるにとどまり、いまだ詐欺の着手ありというべからず」(大判昭7.6.15大集11・859。現代文表記等に修正。)としている(研修教材・三訂刑法各論(その1)216ページ、研修837号43、48ページ)。

⑷ Aは、Bに対し、Bの婚約者Cに害悪を加える旨を告知して現金を脅し取った。この場合、Cは、刑法222条の対象となる相手方本人又は親族に当たらないから、Aには、恐喝罪は成立しない。

解答・解説

(×) 脅迫を手段とする恐喝の場合、その脅迫は、脅迫罪(222条)や強要罪(223条)と異なり、相手方本人又はその親族に対する害悪の告知に限らず、それが相手方を畏怖させるに足りるものである以上、 その友人・縁故者などに対する加害の通知であっても構わない(研修教材・三訂刑法各論(その1)229ページ)。判例は、ある者の身体に対する危害を及ぼされることを危惧して畏怖した配下の者が財物を交付した事案について、「およそ人を畏怖せしむるに足るべき行為にして、その意思の反抗を抑圧する程度に達せざるものは、恐喝の手段たるを得るものにして、法律は本罪(注: 恐喝罪)に関し脅迫罪におけるがごとくその手段を制限することなし。したがって、ある者に対して恐喝を行い、業務上の関係においてこれが配下たる地位にある者をして、ある者の身体に危害の及ばんことをおもんばかりて畏怖するに至らしむるがごときは、同時に両者に対する恐喝行為たるを得るはもちろんにして、かかる手段をもって配下の者をして財物を交付せしむるときは恐喝既遂罪を構成する」とする(大判11.11.22刑集1・681。現代文表記等に修正。)。

⑸ Aは、Bが電車内で女性Cのスカート内を盗撮しているのを目撃し、Bに対し、 「お前が女性のスカートの中を盗撮するのを見た。警察に通報されたくなかったら、10万円を払え。」と言った。 Aは、警察に通報されることを恐れたBから10万円を受け取った。この場合、Aには、恐喝罪が成立する。

解答・解説

() 判例は、他人の窃盗を目撃した被告人が当該窃盗犯人に口止め料として金品を提供させた事案において、「恐喝罪において、脅迫の内容をなす害悪の実現は、必ずしもそれ自体違法であることを要するものではないのであるから、他人の犯罪事実を知る者が、これを捜査官憲に申告すること自体は、もとより違法でなくても、これをたねにして、犯罪事実を捜査官憲に申告するもののように申し向けて他人を畏怖させ、口止料として金品を提供させることが、恐喝罪となることはいうまでもない。」とし(最判昭29.4.6刑集8・4・407)、恐喝罪の成立を認めている(研修教材・三訂刑法各論(その1)229ページ)。

第15問

文書偽造の罪に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは、Bの代理人に成り済ましてBの所有する不動産を売却しようと考え、Bに無断で、売買契約書用紙の売主欄に「B代理人A」と記載し、「A」と刻された印鑑で押印し、売買契約書を作成した。 この場合、Aには、私文書偽造罪が成立する。

解答・解説

() 本人を代理代表する資格のない者が、本人を代理代表する旨の表示とともに、代理人代表者として自己の名を示して文書を作成した場合、これが有形偽造となるとするのが判例・通説である。判例は、 「他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書は、その文書によって表示された意識内容にもとづく効果が、代表もしくは代理された本人に帰属する形式のものであるから、その名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である」と判示し、文書偽造罪の成立を認めている(最決昭45.9.4刑集24・10・1319、研修教材・三訂刑法各論(その2)73、74ページ)。

⑵ Aは、警察官から求められたときに提示するため、偽造したA名義の運転免許証を携帯して自動車を運転したが、警察官を含めた第三者に実際に提示することはなかった。この場合、Aには、偽造公文書行使罪が成立する。 

解答・解説

(×) 行使罪の行使の方法に制限はなく、相手方をしてその内容を認識させ、又は、認識し得る状態に置くことを要し、かつ、それで足りるとするのが判例であるが(大判大5.7.14刑録22・1238)、本間と同様の事案について、判例は、「たとい自動車を運転する際に運転免許証を携帯し、一定の場合にこれを提示すべき義務が法律上定められているとしても、自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、 未だこれを他人の閲覧に供しその内容を認識しうる状態においたものというには足りず」とし、偽造公文書行使罪の成立を否定している(最判昭44.6.18刑集 23・7・950、研修教材・三訂刑法各論(その2)96ページ)。

⑶ Aは、真正に発行された運転免許証の有効期限の経過後に、その交付年月日と有効期限欄の記載を改ざんし、その運転免許証が有効期間内であるような外観を作り出した。この場合、Aには、公文書偽造罪が成立することはなく、公文書変造罪が成立する。 

解答・解説

(×) 文書の本質的部分に変更を加え、その同一性を害したといえる、あるいは、新たな証明力を作り出したといえる場合は、変造ではなく、偽造となる。本間と同様の事例について、裁判例は、「免許証に表示されている有効期限の経過後において該免許証に存する交付年月日及び有効期限の記載を改ざんして、該免許証が有効期間内のものであるかの如き外観を作出した場合には、従前の免許証とは全く異なった証明力を有する新たな免許証を偽造したものにほかならないから、右改ざん前の免許証が真正なものであると偽造にかかるものであるとを問わず免許証全体の偽造をもつて論ずべき」とし、公文書偽造罪の成立を認めている(東京高判昭42.10.17高刑集20・5・707、研修教材・三訂刑法各論(その2)80ページ、研修839号77、78ページ)。

⑷ Aは、自己の運転免許証の更新申請を行う際、警察本部運転免許課の係員に自己の住居につき虚偽の申立てをし、事情を知らない係員に、Aの運転免許証にその虚偽の住居を記載させた。この場合、Aには、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。

解答・解説

(×) 刑法157条の公正証書原本不実記載罪等は、虚偽公文書作成罪の間接正犯の特殊な場合を独立犯としたものであると解されており、公務員に対して虚偽の申立てをし、情を知らない公務員に対し、同条1項又は2項が規定する各文書に不実の記載・記録をさせた場合は、本条の罪が成立する(研修教材・三訂刑法各論(その2)90、92ページ、大コンメンタール刑法第三版第8巻179ページ、条解刑法第4版449ページ)。裁判例も、本間と同様の事案において、免状(等)不実記載罪(同条2項) が成立するとしている(東京高判平4.1.13判タ774・277)。

⑸ 公立の甲病院に勤務する公務員の医師Aは、Bから依頼され、Bが公務所に提出しようとしていることを知りながら、Bに交付するため、甲病院医師A名義で虚偽の病名を記載した診断書を作成した。 Aには、虚偽診断書作成罪が成立する。

解答・解説

(×) 虚偽診断書作成罪(刑法160条)の主体である「医師」は、飽くまでも私人たる資格のものに限り、公務員の医師が、その公務員たる資格において虚偽の診断書等を作成した場合は、虚偽公文書作成罪(同法156条)が成立する(研修教材・三訂刑法各論 (その2)102ページ)。 判例は、公務員である刑務所の医務課長(医師)を買収して、保釈請求に使用するための虚偽の診断書を作成させようとした事案において、公務員である医師が診断書に虚偽の記載をした場合は虚偽公文書作成罪が成立する前提で判断をしている(最判昭23.10.23刑集2・11・1386)。

刑事訴訟法

第16問

捜査機関及び捜査の端緒に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 特別司法警察職員が捜査権限を有する事件については、特別司法警察職員の捜査権限が優先し、一般司法警察職員は捜査をすることができない。

解答・解説

(×) 特別司法警察職員は、一定の区域又は施設内においてのみ捜査権限が認められるもの、特定の犯罪についてのみ捜査権限が認められるもの及びその両方にまたがるものがあり、その捜査権限は制限的であるが、一般司法警察職員は、その職務を行うべき区域が、原則として所属都道府県警察の管轄区域とされているものの、事物管轄の制限はない。そのため、特別司法警察職員と捜査権限が競合するが、原則としていずれが優先するという関係にはない(刑事訴訟法189、190条、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ17、18、25ページ)。

⑵ 変死者又は変死の疑いのある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検察事務官又は司法警察員に検視をさせる場合を除き、自ら検視をしなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法229条、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ34~37ページ)。

⑶ 親告罪の捜査は、告訴がなされる前であっても、これをすることができる。 

解答・解説

() そのとおり(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ48ページ)。

⑷ 犯罪の被害者は、自らが被害者になった当該犯罪については、告発することができない。

解答・解説

() そのとおり。告発とは、犯人又は告訴権者以外の第三者から捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求める意思表示をいう。告訴権者である被害者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求める意思表示は告訴である(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ38、39、51ページ)。

⑸ 自首は、いかなる場合でも、犯罪事実及び犯人が捜査機関に発覚する前に、自ら直接、 捜査機関に対し、自らが罪を犯した犯人であることを申告しなければ成立しない。

解答・解説

() 自首は、犯人がいつでも捜査機関の支配内に入る態勢にある場合は、自ら直接申告する必要はなく、他人を介したり、書面によって行うこともできる(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ57ページ)。

第17問

逮捕、勾留に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 通常逮捕状の請求が裁判官に却下された場合、その請求者は、準抗告をすることはできない。

解答・解説

() そのとおり。却下された場合は、新たな疎明資料を追加して請求すれば足りる(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ113ページ)。

⑵ 私人が現行犯逮捕した犯人は、検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならず、私人が釈放することはできない。

解答・解説

() そのとおり。私人に刑事手続に関する処分権限を認めないのが法の原則である(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ131ページ)。

⑶ 被疑者の勾留を請求するには、逮捕前置主義により、既に被疑者がその事実により逮捕されている必要があることから、A事実で逮捕した被疑者をそれとは別のB事実を加えて、A事実及びB事実で勾留請求することは許されない。

解答・解説

(×) A事実で逮捕された被疑者をB事実で勾留することはできないが、問題文のように、A事実に逮捕されていないB事実を加えて勾留請求することは可能である。いずれかの事実で逮捕されていれば、それで足りる(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ138ページ)。

⑷ 一罪一逮捕一勾留の原則があるので、ある事実について逮捕勾留された被疑者を、起訴できるまでの証拠が得られなかったとして釈放したときは、その後、 釈放した事実と全く同じ事実で再度の逮捕をすることが許される余地はない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法には、同一事実について逮捕することを前提とした規定があり、これが同一の犯罪事実について2度以上の逮捕が認められる根拠とされている。また、勾留については、同一の犯罪事実について勾留できることを前提とした規定はなく、これを禁止した規定もないが、被疑者の勾留は、逮捕前置主義のもとで逮捕を前提とした手続であり、逮捕と勾留は、捜査方法としては密接不可分の関係にあるので、再逮捕が許される場合には、これに引き続き勾留することができるものと解されている(刑事訴訟法199条3項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ147、148ページ)。

⑸ 被疑者を逮捕するに当たり、逮捕状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し、被疑事実の要旨と逮捕状が発付されていることを告げて被疑者を逮捕することができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法201条2項、73条3項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅰ114ページ)。

第18問

保釈に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 保釈の請求をすることができるのは被告人の弁護人だけであって、被告人やその法定代理人が保釈の請求をすることはできない。

解答・解説

(×) 保釈の請求をすることができるのは、勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹とされている(刑事訴訟法88条1項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ50ページ)。

⑵ 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるときは、裁判所は、いかなる事情があっても、保釈を許す決定をすることはできない。

解答・解説

(×) 「被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。」は、権利保釈の除外事由を定めた刑事訴訟法89条1号に該当し、権利保釈は許される余地はないが、なお、同法90条の裁量保釈は許される余地がある(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ50、51ページ)。

⑶ 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は、権利保釈の規定は適用されない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法344条、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ52ページ)。

⑷ 裁判所は、犯罪の性質や情状によっては、保証金額を定めることなく、保釈を許すことができる。 

解答・解説

(×) 裁判所が保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない(刑事訴訟法93条1項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ51ページ。

⑸ 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法92条1項)。

第19問

公判手続に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 起訴状に明白な誤記・脱漏がある場合にとる起訴状訂正の手続は、書面で行われなければならず、起訴状朗読時に口頭で行うことはできない。

解答・解説

(×) 起訴状の訂正は、書面で行われなければならないとはされておらず、口頭で行うことも可能である(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ101ページ)。なお、起訴状の訂正は、訴因の同一性を害しない範囲で許されるところ、この範囲を超えて訴因変更をする場合は、原則として、書面を提出し、これを公判期日において朗読することとされるが、例外として、被告人が在廷する公判廷においては、口頭で行うことができる場合がある(刑事訴訟規則209条1項、4項、7項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ191ページ)。

⑵ 裁判所は、弁護人から証拠調べ請求があった場合において、証拠調べをする旨の決定又は証拠調べ請求を却下する旨の決定をするときは、検察官の意見を聴かなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則190条2項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ118ページ)。

⑶ 検察官は、書面の同一性について証人を尋問する場合において必要があるときは、裁判長の許可を受けずに、その書面を示すことができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則199条の10第1項)。これに対し、証人の記憶を喚起するために示す場合や証人の供述を明確にするために示す場合は、裁判長の許可を要する(同規則199条の11、199条の12、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ124、125ページ)。

⑷ 公判前整理手続に付されていない事件では、弁護人が公判期日において冒頭陳述をすることは許されない。

解答・解説

(×) 公判前整理手続に付されていない事件では、裁判所の許可があれば、弁護人又は被告人は、冒頭陳述をすることができる(刑事訴訟規則198条1項)。なお、公判前整理手続に付された事件では、弁護人又は被告人の冒頭陳述は必要的である(刑事訴訟法316条の30、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ105ページ)。

⑸ 証人尋問に先立って被告人質問をすることは許されない。 

解答・解説

(×) 被告人質問の時期については制限がない(刑事訴訟法311条2項、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅲ146ページ)。

第20問

証拠に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 公判においては、公知の事実であっても、厳格な証明が必要である。

解答・解説

(×) 「公知の事実」とは、一般に広く知れ渡っている事実、すなわち、通常の知識・経験を有する一般人が疑いを持たない程度に知れ渡っている事実をいい、証明を要しない(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ11ページ)。

⑵ 被告人の自白について、補強証拠がないときは、いかなる場合であっても被告人の自白を録取した供述調書は、証拠能力を有しない。

解答・解説

(×) 補強証拠がない場合、その自白だけで有罪を認定することはできないが、これは証明力の問題であり、自白の証拠能力の問題ではない(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ110ページ)。

⑶ 任意性のない自白は、刑事訴訟法326条の同意がある場合でも、公判で証拠として用いることができない。

解答・解説

() 任意性のない自白の証拠能力は常に否定されると解されている。したがって、刑事訴訟法326条の同意があっても、証拠能力を認めることはできない(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ107、108ページ、研修868号78ページ)。

⑷ 証人Aは、公判廷で「BがCを殺すのを見た。」と証言したが、捜査段階では、「DがCを殺すのを見た。」と供述し、その旨の検察官面前調書が作成されていた。当該供述調書が、刑事訴訟法321条1項2号の要件を満たさず、同法326条の同意が得られない場合でも、これを証拠として用いることができるときがある。

解答・解説

() 伝聞証拠として証拠能力のない証拠であっても、証人等の法廷供述の証明力を争うためであれば、これを証拠とすることができる場合がある(刑事訴訟法328条、研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ200、201ページ)。

⑸ A及びBが共謀の上で恐喝をしたという事案で、両名が共同被告人となっている公判において、Bの警察官に対する自白調書は、刑事訴訟法326条の同意がなくとも、同法322条の要件を満たせば、Aに対する関係でも犯罪事実を認定するための証拠とすることができる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法322条は、当該自白をした被告人に対する関係で証拠とする場合の規定であり、他の共犯者に対する関係で犯罪事実を認定するための証拠とする場合は同条ではなく、同法321条の適用を受ける(研修教材・八訂刑事訴訟法Ⅱ176、177ページ、研修870号101、102ページ)。

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徴収事務

第21問

徴収金に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 徴収金の裁判については、裁判所又は裁判官が執行を指揮する場合がある。

解答・解説

() そのとおり。没取の裁判については、裁判所に納付されている保釈保証金の没取の執行は、裁判所又は裁判官が執行指揮すべき場合とされている(刑事訴訟法472条1項ただし書、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説11ページ、研修877号52ページ)。

⑵ 仮納付を命ずる裁判があったときは、裁判の確定を待たず、強制執行の手続を執ることができる。

解答・解説

() そのとおり。仮納付の裁判の執行については、刑の言渡しや略式命令があれば直ちに執行することができるとされていることから、その納付に向けた手続を行うことができる。仮納付の裁判を履行しない場合には、強制執行の手続を執ることができる(刑事訴訟法348条3項、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説13、14、123ページ、研修877号59ページ)。

⑶ 検察官の取り調べた者等に対する旅費、日当 宿泊料等支給法によって支給された旅費は、訴訟費用に含まれる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法の訴訟費用は、刑事事件が裁判所に係属した時から裁判が終結するまでの間において、訴訟手続上生じた費用のうち、刑事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律41号)2条に定める費用である。したがって、検察官の取り調べた者等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法(昭和24年法律57号)によって支給された費用は、訴訟費用には含まれない(研修877号49ページ)。

⑷ 訴訟費用の執行免除申立期間は、訴訟費用の負担を命ずる本案の裁判が上訴権放棄又は上訴取下げにより確定したときは、上訴権放棄の日又は上訴取下げの日の翌日から起算した20日である。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法500条2項、55条1項、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説52、53ページ、研修878号73、74ページ)。

⑸ 徴収主任の固有の職務には、徴収金の集計、徴収金の一部納付の申出及び納付延期の申出に対する事情調査及び許可、徴収・収納済通知書の確認及び収入官吏への送付、印紙納付書に貼付した印紙の消印手続並びに徴収金に関する統計報告がある。

解答・解説

(×) 徴収金の一部納付の申出及び納付延期の申出があったときは、徴収主任は事情を調査し、その事由があると認めるときは、検察官の許可を受けるとされている(徴収事務規程16条1項、17条、研修877号57、58ページ)。

第22問

徴収金の時効に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。なお、徴収金に係る裁判は、令和3年4月1日にあったものとする。

⑴ 罰金の時効期間は、罰金を言い渡した裁判の確定日から起算して3年である。

解答・解説

() そのとおり(刑法32条、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説15、16ページ、研修878号82、83ページ)。

⑵ 訴訟費用の時効は、訴訟費用の負担を命ずる裁判に対し、その執行免除の申立期間内にその免除の申立てがあった場合において、その後、執行免除の申立期間の経過後に申立てを取り下げたときは、その取下げの日が時効期間の起算日となる。

解答・解説

(×) 訴訟費用の時効は、訴訟費用の負担を命ずる裁判に対し、執行免除申立期間内及び執行免除の申立てがあったときは、その申立てに対する裁判が確定するまで、時効は進行しない。執行免除の申立てがない場合や申立てがあっても執行免除申立期間内に取り下げた場合には、執行免除申立期間の末日の翌日が時効期間の起算日となる。しかし、執行免除申立期間経過後に申立てを取り下げたときは、取下げの日に訴訟費用の裁判の執行力は生じるが、その翌日が時効期間の起算日となる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説21ページ、研修878号85ページ)。

⑶ 非訟事件手続法による過料の時効は、即時抗告の申立てのない場合には、裁判告知と同時に執行力が生じるので、裁判告知の日の翌日が時効期間の起算日となる。

解答・解説

() そのとおり。非訟事件手続法による過料の時効は、即時抗告の申立てのない場合には、裁判告知と同時に執行力が生じるので、裁判告知の日の翌日が時効期間の起算日となる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説20ページ、研修878号83、84ページ)。

⑷ 罰金、科料又は追徴に係る徴収金については、一部納付願が検察庁に送付されても現実に納付がない場合には、時効は中断しないが、過料に係る徴収金については、一部納付願が検察庁に送付され、受理された場合には、時効は更新される。

解答・解説

() そのとおり。罰金、科料又は追徴に係る徴収金については、時効が中断するためには現実の納付など執行行為が必要であり(刑法34条2項)、一部納付願が検察庁に送付され、検察官がこれを許可したとしても時効は中断しない。これに対し、過料に係る徴収金については、会計法30条、31条2項により民法の規定が適用され、権利の承認があったときは、時効は更新され、その時から時効期間は新たにその進行を始める(民法152条1項)ことから、検察庁において一部納付願を受理した日に時効は更新される(令2.3.31法務省刑総349号刑事局長通達・記第1、1、⑷、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説17、20、23ページ、研修880号39、40、44ページ)。

⑸ 訴訟費用の連帯負担を命ぜられた者のうち一人について時効が完成した場合には、他の連帯債務者に対しても時効の効力が及ぶので、その負担部分については、他の連帯債務者から徴収することはできない。

解答・解説

(×) 平成29年法律第44号「民法の一部を改正する法律」が令和2年4月1日から施行され、連帯債務者の一人について生じた事由の一部について、絶対的効力事由から相対的効力事由にされた(改正前の民法439条は削られ、これに相当する規定は設けられていない。)。したがって、訴訟費用の連帯負担を命ぜられた者のうち一人について時効が完成した場合には、他の連帯債務者に対して時効完成の効力は及ばないので、他の連帯債務者から、その負担部分について、徴収することはできる(令2.3.31法務省刑総349号刑事局長通達・記第2、研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)92、93ページ、研修881号50、51ページ)。

第23問

徴収金の執行に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。なお、徴収金に係る裁判は、令和3年4月1日にあったものとする。

⑴ 徴収金が納付告知書に定められた期限までに納付されなかったときは、督促状その他適宜の方法により納付を督促しなくとも、強制執行をすることや、罰金及び科料について労役場留置の執行のための呼出状又は収容状を発することができる。

解答・解説

() そのとおり。督促は、納付告知の場合とは異なり、徴収事務規程15条では「必要に応じ」と規定して、特にこれを義務付けていない(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説64ページ、研修881号55ページ)。

⑵ 納付義務者の依頼を受けた代納者から一部納付の申出があった場合には、その一部納付願は、代納者から徴すべきである。

解答・解説

(×) 一部納付順は、納付義務者から徴すべきであり、これを徴することができない事情があるときは、代納者からこれを徴することなく、徴収主任において、事情調査の結果について適宜の様式による報告書等を作成してこれに検察官の押印を受けるなどして、その経緯を明確にするとともに、検察総合情報管理システムの調定情報の備考欄においてその経緯を管理する(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説65ページ、昭和32年検務実務家会同徴収事務関係9問答、昭和47年検務実務家会同徴収事務関係23問答、研修881号56、57ページ)。

⑶ 「懲役3年及び罰金50万円に処する。罰金を完納することができないときは、金5,000円を1日に換算した期間労役場に留置する。この裁判が確定したときから3年間その懲役刑の執行を猶予する。」との裁判が確定した場合において、法定通算する未決勾留日数が10日のとき、当該罰金に係る執行すべき金額は、45万円である。

解答・解説

(×) 自由刑と罰金刑とが併科され、自由刑に執行猶予の言渡しがなされている場合において、未決勾留日数の法定通算があるときは、直ちに罰金刑に通算する。設問の場合は、罰金50万円から、法定未決勾留日数10日について、刑事訴訟法495条3項により1日として折算される金額4,000円すなわち4万円(10日×4,000円)を除した金額「46万円」が徴収すべき罰金額となる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説40ページ、研修880号51ページ)。

⑷ 国選弁護人として総合法律支援法39条2項2号に該当する弁護士(いわゆるスタッフ弁護士)が選任された場合において、訴訟費用の負担を命ずる裁判に費用の額が表示されていないときは、日本司法支援センターの地方事務所から当該弁護士に係る報酬及び費用の額が検察庁に通知されるので、これに基づき国選弁護人の訴訟費用の額を算定する。

解答・解説

(×) 総合法律支援法39条3項の規定に基づき同条2項2号の国選弁護人等契約弁護士(いわゆるスタッフ弁護士・一括契約弁護士)に係る報酬及び費用の額の算定については、検察官は裁判所に対し国選弁護人に係る報酬及び費用額算定申立書により算定の申立てを行い、裁判所は日本司法支援センターの地方事務所から国選弁護人に係る報酬及び費用の額の算定又は概算に関する資料を入手し、国選弁護人に係る報酬及び費用の額を算定し、検察官に対し算定結果を通知することになる。したがって、検察官は、この算定結果通知により、訴訟費用の額を算定することになる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説53、54ページ、附ー2、研修881号47ページ)。

⑸ 共同審理された共犯者A、Bに対し、訴訟費用につき連帯負担を命ずる裁判があった後、Aについて刑事訴訟法500条の規定により訴訟費用の執行の免除の裁判があった場合には、連帯負担とされた訴訟費用の全額について、執行の免除を受けなかったBから徴収することになる。

解答・解説

() そのとおり。連帯債務者の一人に対する債務の免除の効果については、平成29年法律第44号「民法の一部を改正する法律」が令和2年4月1日から施行され、連帯債務者の一人について生じた事由の一部について、絶対的効力事由から相対的効力事由にされた(改正前の民法437条は削られ、これに相当する規定は設けられていない。)。したがって、訴訟費用の連帯負担を命ぜられた者のうち一人についての訴訟費用の執行免除は、他の連帯債務者に対して免除の効力は及ばないので、他の連帯債務者から、その負担部分について、徴収することはできる(令2.3.31法務省刑総349号刑事局長通達・記第2、研修教材・八訂民法Ⅲ(債権法)92、93ページ、研修881号48~51ページ)。

第24問

労役場留置に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 勾留中の被告人に対しても労役場留置の執行は可能であるが、留置施設に勾留されているときは、労役場留置の執行はできない。

解答・解説

() そのとおり(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説100ページ、研修883号76ページ)。

⑵ 罰金を完納する資力を有している納付義務者であっても、本人の承諾があれば労役場留置の執行をすることはできる。

解答・解説

(×) 納付義務者が完納しない場合であっても、納付義務者に完納の資力があるときは、財産刑の本旨にのっとり、まずは強制執行により徴収すべきであり、労役場留置の執行をすることはできない(刑法18条1項、2項、明40.6.15法曹会第三科決議、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説99、100ページ、研修883号75ページ)。

⑶ 収容状を執行して納付義務者を検察庁に引致した後、労役場留置執行指揮前に徴収金について全部が納付されたときは、直ちに釈放することになる。この場合には、留置一日に相当する金額を控除した分を徴収して即日釈放する。

解答・解説

(×) 収容状を執行して納付義務者を検察庁に引致した後、労役場留置執行指揮前にその徴収金について全部が納付されたときは、直ちに納付義務者を釈放する。この場合には、釈放当日分も徴収することを要する(昭24.7.4検務20637号検務局長通達、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説104、105ページ、研修883号78ページ)。

⑷ 罰金10万円(労役場留置1日の換算金額5,000円)の未納者に対し、令和4年2月1日に収容状を執行、仮留置し、2月2日に労役場留置の執行を指揮したところ、2月10日に家族の者が出頭し代納の申出があった。この場合、2月10日中に釈放するためには、5万円を徴収する。

解答・解説

(×) 収容状を執行して納付義務者を検察庁に引致し、労役場留置の執行を指揮した場合の留置期間は、収容状の執行については、勾引状の執行に関する規定が準用されるので、収容状執行の日から起算する。したがって、2月1日を起算日とし、2月20日が留置期間満了日となる。そして、2月10日に釈放するためには、釈放当日分も徴収する必要があるので、2月1日から2月9日までの9日分の労役場留置換算金額4万5,000円(9日×5,000円)を、執行すべき金額10万円から控除した「5万5,000円」を徴収することになる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説104、105ページ、研修883号80、81ページ)。

⑸ 労役場留置の執行を指揮し、その執行に着手した後に罰金が完納されたときは、検察官は、労役場留置執行指揮取消書により速やかにその指揮の取消しをする。

解答・解説

(×) 労役場留置の執行を指揮した後、その執行着手前に徴収金が完納されたときは、労役場留置執行指揮取消書により速やかにその指揮の取消しをすることとなり(徴収事務規程34条1項)、執行に着手した後であればその指揮を取り消すことはできず、労役場留置執行指揮の変更の手続によることになる(徴収事務規程35条1項)(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説106、107ページ、研修883号80、81ページ)。

第25問

徴収停止・徴収不能決定に関する次の記述のうち、正しいものには○の欄に、誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 罰金の確定裁判に対して再審請求があり、再審により無罪の裁判が確定した場合において、その罰金が未納となっているときは、徴収不能決定の処分をする。

解答・解説

() そのとおり。徴収事務規程40条1項5号に定める「その他法律上執行できない事由が生じたとき」に該当し、徴収不能決定処分をする(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説116~118ページ、研修883号87ページ)。

⑵ 刑法18条5項の規定により労役場留置の執行をすることができない場合には、徴収停止の処分をすることができない。

解答・解説

() そのとおり。納付義務者が法人や少年である場合、刑事訴訟法480条に規定する事由又は刑事訴訟法482条各号に掲げる事由により納付義務者に対して労役場留置の執行をすることができない場合と異なり、刑法18条5項の規定によって労役場留置の執行をすることができない場合は、その性質上徴収停止の処分をすることはできない(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説113、114ページ、研修883号84ページ)。

⑶ 租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡された罰金について、刑の言渡しを受けた者が判決の確定後死亡した場合には、納付義務者の相続財産に対して執行することができるので、当該罰金に付随して言渡しがあった追徴又は訴訟費用についても、その相続財産に対して執行することができる。

解答・解説

(×) 刑の言渡しを受けた者が、判決の確定後死亡した場合に、その相続財産に対して執行することができるのは、刑事訴訟法491条に定める没収又は租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡した罰金若しくは追徴に係る裁判であって、訴訟費用については、一身専属的なものとして、納付義務者の死亡により徴収不能決定の処分をすることになる(徴収事務規程40条1項2号、九訂特別研修資料3号・徴収事務解説117ページ、研修883号87ページ)。

⑷ 略式命令による罰金について、検察官の指揮を受け、納付義務者に対し、納付告知したところ、納付義務者は、略式命令謄本の送達を受けた後、正式裁判請求期間内に死亡していたことが正式裁判請求期間経過後に判明した。この場合には、徴収不能決定の処分をする。

解答・解説

(×) 納付義務者が死亡したのは裁判確定前であり、当該事件は、被告人の死亡により終了し、略式命令はその執行力を生じないこととなるので、裁判が確定したとして行われた検察総合情報管理システムによる調定情報の作成は、結果的には、執行すべき裁判がないのに行ったこととなり、徴収事務規程67条の過誤訂正の手続により処理することになる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説151ページ、研修883号86ページ)。

⑸ 徴収不能決定は、法律上又は事実上執行することが不能の場合に検察官が行う処分であるから、再入国する見込みがないとして、一旦徴収不能決定に付した納付義務者である外国人が再度入国したとしても、これを取り消すことはできない。

解答・解説

(×) 徴収不能決定は、検察庁の内部手続として行われるものであり、必ずしも債権が消滅した場合のみに限ってなされるものではない。一旦徴収不能決定をした徴収金についても、その後の事情によっては、これを取り消し、徴収することもできる(九訂特別研修資料3号・徴収事務解説116ページ、研修883号85ページ)。

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