こんにちは。元検察事務官の検察辞太郎(やめたろう)(@moto_jimukan)です。
今回は,国家公務員が転居を伴う異動の際に貰える赴任旅費について紹介していきます。
意外と知られていませんが,国家公務員の赴任旅費は新規採用職員も貰えるため,現職の国家公務員の方以外にも,公務員受験生の方や内定者の方も是非見てくださいね。
- 本記事で説明する内容は令和3年4月時点のものとなります。
赴任旅費の対象者
赴任旅費とは,旅費の一種であり,言葉のとおり赴任した場合に貰える旅費になります。
そして,赴任の定義は,旅費法で以下のように定められています。
- 新たに採用された職員がその採用に伴う移転のため住所若しくは居所から在勤官署に旅行すること。
- 転任を命ぜられた職員がその転任に伴う移転のため旧在勤官署から新在勤官署に旅行すること。
このように,転任を命ぜられた現職の職員だけでなく,新規採用職員も赴任旅費を貰うことができます。
そのため,地元を離れていた大学生が地元に戻って国家公務員になる場合や,地元を離れて大都市で国家公務員になる場合などで,赴任旅費を貰うことができます。
これはまだお金に余裕がない新規採用職員にとっては非常に助かる制度ですね。
- 国家公務員等の旅費に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第二条第一項第七号,第三条」参照
赴任旅費の内容
赴任旅費ですが,旅費の中に赴任旅費という名目のものはなく,赴任する際に貰える旅費の総称を赴任旅費と言います。
赴任に際して貰える旅費は以下のものになります。
-
鉄道賃・船賃・航空賃・車賃などの交通費
-
移転料(本人分及び扶養親族分)
- 着後手当
- 扶養親族移転料
では,それぞれの旅費について見ていきたいと思います。
交通費
まず,交通費ですが,移動手段によって鉄道賃・船賃・航空賃・車賃のいずれかが貰えますので,よく使われる鉄道賃と航空賃について見ていきたいと思います。
鉄道賃
鉄道賃は,職員や新規採用職員が実際に支払った実費ではなく,最も経済的な経路で算定された運賃になります。
新幹線が最も経済的な経路である場合は,普通運賃の他,急行料金・座席指定料金が上乗せされますが,上乗せされるには距離が一定距離以上必要です。
- 急行料金の支給要件
特別急行列車:片道100km以上
普通急行列車:片道 50km以上 - 座席指定料金の支給要件
特別急行料金:片道100km以上
普通急行列車:片道100km以上
例えば,東京から大阪に赴任する場合は,距離が100km以上になりますので,新幹線の普通運賃・急行料金(特急料金)・座席指定料金が貰えることになります。
ちなみに,鉄道賃には特別車両料金というグリーン車の上乗せもありますが,これを貰えるのは内閣総理大臣等や指定職の職務にある者だけなので,一般の国家公務員には関係のない話になりますね。
航空賃
航空賃はいわゆる飛行機代のことですが,これは現に支払った実費分が支給となります。
なお,飛行機を利用する場合は,以下のような条件があります。
- 旧住所から赴任先へ鉄道で移動すると○時間以上かかる。
※〇時間は赴任先の旅費担当に要確認。 - 旧住所から赴任先へ鉄道で移動する通常の鉄道賃より相当に安くなる場合。
ですので,赴任に際して飛行機を使ってもいいかどうかは,事前に確認しておく必要があります。
ちなみに,後述しますが,航空賃を貰うためにはいくら支払ったかや,実際に飛行機に乗ったという証明が必要になりますので,失念しないよう注意が必要です。
- 国家公務員等の旅費に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第十六条~第十九条」参照
移転料
次に,移転料ですが,これはいわゆる引越代に当たり,引越しの方法としては,以下の3パターンがあります。
- 引越し業者に依頼して移転
- 宅配便を利用して移転
- 自家用車・レンタカー等を利用して移転
※やむを得ない場合に限る
移転料の額は,上記3パターンのいずれかで,実際にかかった引越代が実費支給されますが,旅費法によって以下の表のとおり上限額が定められています。
区分 | 3級以下 | 4~6級 | ||
定額の3倍 | 定額の3倍 | |||
50㎞未満 | (139,500) 279,000 |
(160,500) 321,000 |
||
50㎞以上 100㎞未満 |
(160,500) 321,000 |
(184,500) 369,000 |
||
100㎞以上 300㎞未満 |
(198,000) 396,000 |
(228,000) 456,000 |
||
300㎞以上 500㎞未満 |
(244,500) 489,000 |
(280,500) 561,000 |
||
500㎞以上 1000㎞未満 |
(324,000) 648,000 |
(372,000) 744,000 |
||
1000㎞以上 1500㎞未満 |
(340,500) 681,000 |
(391,500) 783,000 |
||
1500㎞以上 2000㎞未満 |
(364,500) 729,000 |
(418,500) 837,000 |
||
2000㎞以上 | (423,000) 846,000 |
(486,000) 972,000 |
表のとおり,移転料は級と距離によってそれぞれ金額が定めれており,単身の場合は()内の赤字の金額が上限となります。
※定額の金額は紛らわしくなるため省略
※7級以上と指定職の金額は省略
- 令和2年3月までは定額支給であったが,国家公務員の異動時期が3・4月と引越代が高騰する時期であり,定額を大幅に超えた分を職員に負担させることが問題視され,定額の3倍まで実費支給に変更。
- 実費支給になったことから,引越代にかかる資料の提出が必要となった。
- 国家公務員等の旅費に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第二十三条」参照
※「別表第一内国旅行の旅費」参照
着後手当
次に着後手当ですが,これは赴任先に着任した後の諸雑費に充てるために支給される旅費で,その額は以下のように旅費法で定められています。
- 日当定額の5日分に相当する額
- 赴任に伴い住所又は居所を移転した地の存する地域の区分に応じた宿泊料定額の5夜分に相当する額
このように,日当と宿泊料の5日分が着後手当として支給されます。
では,具体的な日当と宿泊料の金額ですが,こちらも旅費法によって以下の表のとおり定められています。
区分 | 日当 | 宿泊料 | |
甲地 | 乙地 | ||
3級以下 | 1,700 | 8,700 | 7,800 |
4~6級 | 2,200 | 10,900 | 9,800 |
※7級以上と指定職の金額は省略
着後手当は,この表記載の金額の5日分となりますので,計算例は以下のとおりとなります。
- 3級以下で赴任先が甲地の場合
日 当:1,700×5= 8,500円
宿泊料:8,700×5=43,500円
合 計:52,000円
宿泊料については,甲地と乙地によって金額に違いがありますが,甲地は東京都特別区や大阪市といった大都市で,乙地はその他の地域となります。
もう少し厳密に言うと,給与法で地域手当の級地というものが定められていましたが,その級地の1級地~5級地に該当する地域が宿泊料における甲地となります。
地域手当の詳細については,下記記事でご確認ください。

- 国家公務員等の旅費に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第二十四条」参照
※「別表第一内国旅行の旅費」参照
扶養親族移転料
最後に,扶養親族移転料ですが,赴任の際に扶養親族も一緒に随伴する場合に、扶養親族一人ごとに支給されるもので,年齢によって以下のように金額の算定が異なります。
- 12歳以上
職員相当の交通費の全額及び着後手当の3分の2に相当する額 - 6歳以上12歳未満
12歳以上の金額の2分の1に相当する額 - 6歳以下
職員相当の着後手当の3分の1に相当する額
※3人以上の場合は,3人目からは職員相当の鉄道賃・船賃の2分の1に相当する金額を加算。
職員の交通費が1万円で,着後手当が5万2千円だった場合の年齢別扶養親族移転料は以下のとおりとなります。
- 12歳以上
10,000+(52,000×2/3)=44,666円 - 6歳以上12歳未満
44,666×1/2=22,333円 - 6歳以下
52,000×1/3=17,333円
- 国家公務員等の旅費に関する法律(e-GAV法令検索)
※「第二十五条」参照 - 国家公務員等の旅費支給規定(e-GAV法令検索)
※「第十四条,第十五条」参照
赴任旅費の請求手続き
次に,赴任旅費の請求手続きですが,航空賃と移転料は資料を提出しなければならないので,どういった資料が必要か見ていきたいと思います。
航空賃の必要書類
まず,航空賃の必要書類ですが,以下のものが必要になります。
- 航空券の領収書原本
- 搭乗券若しくは搭乗レシート原本
※Eチケット控えは不可
まず,航空券の領収書原本で実費額を確認し,搭乗券若しくは搭乗レシートによって飛行機を実際に利用したかどうかを確認します。
ちなみに,搭乗レシートとは保安検査場や搭乗ゲートで渡されるレシートのことです。
赴任後に,赴任先の旅費担当者に上記資料を提出しなければならないため,特に搭乗券なんかは無くさないように気を付けてください。
また,航空券の購入や利用に際しては以下のような注意点がありますので,実際に利用する際は注意してください。
- 旅行代理店や格安航空券の販売サイトは利用不可
- 格安航空会社(LCC)の利用不可
→ANA・JAL等の公式サイトから直接購入 - マイレージ取得の禁止
- 座席アップグレード分は不支給
- パック旅行は利用不可
移転料の必要書類
次に,移転料の必要書類ですが,以下の3パターンの移転方法によって提出書類が異なります。
- 引越し業者に依頼して移転
- 宅配便を利用して移転
- 自家用車・レンタカー等を利用して移転
※やむを得ない場合に限る
では,それぞれどういった資料が必要になるか見ていきたいと思います。
引越し業者利用
引越し業者を利用する場合は,以下の資料の提出が必要になります。
- 引越し業者が発行する領収書
- 見積明細書(最低3社分)
領収書は実際に引越代としていくらかかったか実費を確認するもので,3社分の見積明細書は,見積合わせをして最も安価な業者を選んでいるか確認するものとなります。
この見積合わせには細かいルールがありますので,また別の記事で紹介したいと思います。
宅配便利用
宅配便を利用する場合は,以下の資料が必要になります。
- 領収書
- 配送伝票控え
※配送伝票控えが領収書を兼ねる場合は配送伝票控えのみ
宅配便利用の場合の移転料は,旧住居から新住居へ送ったもののみが支給対象となるため,送付先が分かる配送伝票が必要となります。
自家用車及びレンタカー等利用
自家用車等の利用は,やむを得ない場合に限られ,基本的には認められていませんが,やむを得ない場合は以下の資料が必要となります。
- ガソリン代・高速代・駐車場代・レンタカー代が発生した場合は各領収書
基本的には認められないので詳しくは書きませんが,各費用が本当に必要だったか等,追加資料を提出しなければならない場合もあります。
赴任旅費の具体例
では,実際に赴任旅費がどれくらいになるか,具体例を見ていきたいと思います。
単身の場合
- 1級・単身・運賃1万5千円・東京→大阪(401㎞)・引越代20万円の場合
- 交通費 : 15,000円
- 移転料 :200,000円
- 着後手当: 52,000円
- 赴任旅費:267,000円
この事例だと,級が3級以下で距離が300㎞以上500㎞以下になるため,単身の場合の移転料の上限は「244,500円」となります。
仮に引越代が30万円とすると,職員の自己負担額は「55,500円」となります。
扶養親族がいる場合
- 4級・扶養親族(妻・10歳子)・航空賃3万円・東京→福岡(886㎞)・引越代60万円の場合
- 交通費 : 30,000円
- 移転料 :600,000円
- 着後手当 : 65,500円
- 扶養親族移転料(妻): 73,666円
- 扶養親族移転料(子): 36,833円
- 赴任旅費 :805,999円
この事例だと,級が4~6級で距離が500㎞以上1,000㎞以下になるため,扶養親族がいる場合の移転料の上限は「744,000円」となります。
仮に引越代が80万円とすると,職員の自己負担額は「56,000円」となります。
【参考】地方公務員の赴任旅費
ちなみに,地方公務員の赴任旅費の制度はどうなっているかと言うと,旅行法に倣って各自治体で条例を定めているので,基本的には地方公務員も国家公務員と同じように赴任旅費をもらうことができます。
しかし,新規採用職員が赴任旅費を貰えるかどうかは,各自治体によって異なりますので,注意が必要です。
私が採用された政令市では新規採用職員に赴任旅費の支給がなかったため,引越代約30万円は全額自腹でしたね。
遠方から赴任する場合は引越代も高額となりますので,内定を貰った後に各自治体の採用担当者に確認してもらえればと思います。
おわりに
今回は,国家公務員の赴任旅費について説明してきました。
国家公務員の場合は新規採用職員にも赴任旅費が支給されますので,公務員受験生の方や内定者の方はこの記事を見て,だいたいどれくらい貰えるか参考にしてもらえればと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。