全国一斉考試

【平成27年度】検察事務官等全国一斉考試の問題・解答・解説

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憲法・検察庁法

第1問

憲法上の権利の享有主体に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 憲法上,外国人には,我が国に入国する自由が保障される。

解答・解説

(×) 判例(最判昭32.6.19刑集11・6・1663,最判昭53.10.4民集32・7・1223,最判平4.11.16集民166・575,最判平10.4.10民集52・3・677)は,外国人に入国の自由は保障されないとしている(研修教材・五訂憲法61ページ)。

⑵ 我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて,法律をもって,地方公共団体の長及びその議会の議員に対する選挙権を付与する措置を講ずることは,憲法上禁止されていない。

解答・解説

() 判例(最判平7.2.28民集49・2・639)はこの旨判示した(研修教材・五訂憲法62ページ)。

⑶ 憲法が保障する人権は,性質上可能な限り,内国の法人にも保障されるが,表現の自由は保障されない。

解答・解説

(×) 表現活動等の外面的精神活動は法人も行いうるので,かかる精神活動の自由は保障されうる。判例(最決昭44.11.26刑集23・11・1490)も,報道の自由の保障が法人たる報道機関に及ぶことを認めている(研修教材・五訂憲法54ページ)。

⑷ 非現業の国家公務員の争議行為については,一般私企業とは異なる制約が許されきるが,公務員にも労働基本権が保障される以上,その制限に当たっては,これに代わる相応の措置が講じられなければならない。

解答・解説

() 判例(最大判昭48.4.25刑集27・4・547)はこの旨判示した(研修教材・五訂憲法174ページ)。

⑸ 未決拘禁者は,当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては,原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから,刑事収容施設内の規律及び秩序が害される一般的,抽象的なおそれがあるというだけで,新聞紙の閲読を制限することは憲法に違反する。

解答・解説

() 判例(最大判昭58.6.22民集37・5・793)はこの旨判示した(研修教材・五訂憲法58ページ)。

第2問

憲法上の権利の内容に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 憲法15条1項は,立候補の自由について,直接には規定していないが,立候補の自由も,同項によって保障される権利である。

解答・解説

() 判例(最大判昭43.12.4刑集22・13・1425)は,立候補の自由が憲法15条1項の保障する権利である旨判示した(研修教材・五訂憲法179ページ)。

⑵ 憲法17条は,国又は公共団体が公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与したものである。

解答・解説

(×) 判例(最大判平14.9.11民集56・7・1439)は,「立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。」と判示した(研修教材・五訂憲法185ページ)。

⑶ 憲法21条の精神に照らし,報道のための取材の自由は,十分尊重に値するので,新聞記者は,刑事裁判において取材源について証言を求められた際,取材源の秘密を理由に証言を拒むことができる。

解答・解説

(×) 判例(最大判昭27.8.6刑集6・8・974)は,報道関係者の刑事裁判における証言拒否権を否定した(研修教材・五訂憲法114ページ)。

⑷ 憲法25条1項は,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり,直接個々の国民にとに対して具体的権利を付与したものではない。

解答・解説

() 判例(最大判昭42.5.24民集21・5・1043)はこの旨判示した(研修教材・五訂憲法163ページ)。

⑸ 憲法20条3項は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではない。

解答・解説

() 判例(最大判昭52.7.13民集31・4・533)はこの旨判示した(研修教材・五訂憲法103ページ)。

第3問

国会に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官は,国会の会期中であっても,身柄不拘束のまま国会議員を起訴することができる。

解答・解説

() 憲法50条に定める「逮捕」とは,刑事訴訟法上の逮捕・勾引・勾留を意味する。訴追はこれとは無関係であるから,身柄不拘束のまま国会議員を訴追することは差し支えない(研修教材・五訂憲法214ページ)。

⑵ 予算はさきに衆議院に提出しなければならないが,条約はさきに参議院に提出してもよい。

解答・解説

() そのとおり(憲法61条は,60条1項を準用していない。)。

⑶ 国会の権能としては,法律の制定,条約の承認,内閣総理大臣の指名,国政調査権の行使等がある。

解答・解説

(×) 国政調査権の行使は,国会の権能ではなく,議院の権能である(憲法62条)。

⑷ 法律で参議院を廃止し,衆議院のみの一院制を採用することは,憲法に違反する。

解答・解説

() 憲法42条は,「国会は,衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。」と規定し,二院制を採用することを明らかにしている。したがって,現行憲法下で衆議院のみの一院制を採用することは,憲法に違反する。

⑸ 議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,所属政党から政治的責任を問われない。

解答・解説

(×) 免責される責任は,刑事上の処罰・民事上の損害賠償のほか,公務員の懲戒責任も含むと解されている。しかし,政党・組合・会社等との間の契約関係から発生する責任は,憲法51条とは無関係である(研修教材・五訂憲法216ページ)。

第4問

司法に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 裁判の対審及び判決は,公開の法廷で行わなければならないのが原則であるが,例外として,裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあると決した場合には,非公開で行うことができる。

解答・解説

(×) 裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあると決した場合に非公開にできるのは,対審だけであり,判決は常に公開しなければならない(憲法82条2項)。

⑵ 知的財産高等裁判所は,知的財産に関する事件を専門的に取り扱う裁判所であるが,憲法76条2項にいう特別裁判所には該当しない。

解答・解説

() 特別裁判所とは,最高裁判所を頂点として構成される司法裁判所の系列から独立した裁判所のことを言うが,知的財産高等裁判所は,東京高等裁判所の特別の支部として設置された裁判所であるから(知的財産高等裁判所設置法2条。研修教材・五訂憲法249ページ,252ページ),特別裁判所には当たらない。

⑶ 憲法77条1項は,最高裁判所に対し,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について規則を定める権限を与えているので,これらの事項について法律で定めることは許されない。

解答・解説

(×) 憲法77条1項に列挙された事項について規則を定めることが,最高裁判所の専権なのか,それとも法律で定めることができるのかについて,判例は,「法律が一定の訴訟手続に関する規則の制定を最高裁判所規則に委任しても何等憲法の禁ずるものでないことは当裁判所の判例の示すところである。そして右判例が,法律により刑事手続を定めることができるものであることを前提としていることはいうまでもないところである」と判示して,法律で定めることも可能としている(最判昭30.4.22刑集9・5・911)。

⑷ 裁判官が罷免されるのは,裁判により,心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合及び公の弾劾によって罷免される場合に限られる。

解答・解説

(×) 設問に掲げた場合のほか,最高裁判所裁判官については,国民審査の結果罷免される場合がある(憲法79条3項)。

⑸ 政党が党員に対してした除名その他の処分の当否については,原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし,処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及ばない。

解答・解説

() そのとおり(最判昭63.12.20判時1307・113。研修教材・五訂憲法246ページ)。

第5問

検察庁法に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 検察官については,検察庁法に特別の規定がある場合を除き,国家公務員法が適用される。

解答・解説

() 国家公務員法は,一般職に属するすべての国家公務員に適用されるから,一般職の国家公務員に属する検察官については,検察庁法に特別の規定のない限り,国家公務員法の適用がある(研修教材・六訂検察庁法2,3ページ)。

⑵ 検察官は,検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事の5種類であるが,このうち検事長,検事及び副検事については,任官行為のほか補職行為が必要である。

解答・解説

() そのとおり(検察庁法3条,16条1項。研修教材・六訂検察庁法68ページ)。

⑶ 副検事は,原則として,区検察庁の検察官の職務を執行するが,任命権者である法務大臣から,地方検察庁の検察官の事務の取扱いを命ぜられた場合には,地方検察庁の検察官の職務を執行することができる。

解答・解説

(×) 副検事に,その所属する区検察庁以外の検察庁の事務取扱を命ずる根拠は検察庁法12条である。同条に規定する命令権者は,検事総長,検事長又は検事正であって,法務大臣ではない(研修教材・六訂検察庁法69~71ページ)。

⑷ 地方検察庁の検察事務官は,検察官の指揮を受けて捜査する限り,地方裁判所のいわゆる合議事件についても,被疑者を取り調べてその供述調書を作成することができる。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂検察庁法84~86ページ。最判昭28.3.13刑集7・3・529)。

⑸ 検察事務官は,検察官の指揮を受けて捜査する限り,検察官事務取扱の発令を受けていなくても,自己の名義で弁解録取及び勾留請求の手続を行うことができる。

解答・解説

(×) 検察事務官は,検察官の指揮を受けて捜査を行うが(検察庁法27条3項),刑事訴訟法204条1項による弁解録取等の手続は,検察官の権限である。

民法(総則・物権)

第6問

意思表示に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 法律行為の要素に錯誤があったとしても,表意者に重大な過失があった場合には,表意者自身が意思表示の無効を主張することはできないが,相手方や第三者はその無効を主張することができる。

解答・解説

(×) 判例は,「民法95条は,法律行為の要素に錯誤があった場合に,その表意者を保護するために無効を主張することができるとしているが,表意者に重過失ある場合は,もはや表意者を保護する必要がないから,同条但書によって,表意者は無効を主張できないものとしているのである。その法意によれば表意者が無効を主張することが許されない以上,表意者でない相手方又は第三者は,無効を主張することを許さるべき理由がないから,これが無効の主張はできないものと解するのが相当である。」としている(最判昭40.6.4民集19・4・924。研修教材・七訂民法I(総則)106ページ)。

⑵ A所有の土地につき,BのAに対する債権を担保するため一番抵当権が,CのAに対する債権を担保するため二番抵当権が,それぞれ設定されていたところ,BがAの詐欺によって一番抵当権を放棄し,その後,その放棄を詐欺を理由として取り消した。Bは,詐欺を理由とする抵当権放棄の取消しを,常にCに対抗することができる。

解答・解説

() 詐欺による意思表示の結果反射的に利益を得た者は,民法96条3項の「第三者」には当たらない(大判明33.5.7民録6・5・15。研修教材・七訂民法I(総則)112ページ)。したがって,本問におけるCは,「第三者」に当たらず,Bは,詐欺を理由とする抵当権放棄の取消しを,常にCに対抗することができる。

⑶ Aは,真実は自己が所有する家屋をBに売却する意思がないのに,「俺の家を売ってやる。」とBに申し向けた。この場合,BがAの真意を知っているか否かにかかわらず,Aの意思表示は無効である。

解答・解説

(×) 民法93条。心裡留保は,本来であれば,表意者の内心の意思と表示行為が一致していないのであるから,無効とされるべきところであるが,取引の安全を図る必要がある一方,自ら本心と異なる表示行為に出た表意者は保護する必要がないことから,表示に従って効果を与えることを原則としている(研修教材・七訂民法I(総則)92ページ)。

⑷ Aは,Bと通謀して,A所有の土地をBに売却する旨仮装し,当該土地のBへの所有権移転登記をした。その後,Bが死亡してCがBを単独で相続した。Cは,上記仮装の事実を知らなかったとしても,Aに対して当該土地の所有権を主張することはできない。

解答・解説

() 民法94条2項の「第三者」とは,虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者であって,虚偽表示の目的ないし効果について新たな利害関係を有するに至った者をいう。したがって,Aの包括承継人である相続人Cは,民法94条2項の「第三者」には当たらない(研修教材・七訂民法I(総則)94ページ)。

⑸ 民法97条1項は,「隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と規定するが,この場合の「到達」とは,相手方が了知することまでは必要ではなく,一般取引上の通念により相手方の了知し得るようにその勢力範囲(支配圏)内に入れば足りる。

解答・解説

() 判例は,「隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法97条により浪速自動車に到達することによってその効力を生ずべき筋合のものであり,ここに到達とは右会社の代表取締役であったAないしは同人から受領の権限を付与されていた者によって受領され或は了知されることを要するの謂ではなく,それらの者にとって了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく,換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべき」であるとしている(最判昭36.4.20民集15・4・774。研修教材・七訂民法I(総則)117ページ)。

第7問

代理に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 代理人が相手方の詐欺によって意思表示をした場合には,代理人ではなく本人にその取消権が帰属する。

解答・解説

() そのとおり。代理において,法律効果は全て直接本人に帰属し,代理人が詐欺された場合の取消権や売買の場合の担保責任の追求権なども本人に帰属する(研修教材・七訂民法I(総則)129ページ)。

⑵ 民法上,代理人は,行為能力者であることを要しないので,後見開始の審判を受けた場合でも,その代理権が消滅することはない。

解答・解説

(×) 民法111条1項2号。代理権は,代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたことにより,消滅する。

⑶ Aは,代理権を有しないにもかかわらず,Bの代理人として,B所有の土地をCに売却した。Cは,売買契約当時,Aが代理権を有しないことを知らなかったとしても,Bが当該売買契約の追認をCに対してした後は,無権代理を理由として,当該売買契約を取り消すことはできない。

解答・解説

() そのとおり。民法115条は,「代理権を有しない者がした契約は,本人が追認しない間は,相手方が取り消すことができる。」旨規定しており,本人が追認した後には,もはや取消権を行使することはできない(研修教材・七訂民法I(総則)142ページ)。

⑷ Aは,代理権を有しないにもかかわらず,Bの代理人として,B所有の土地をCに売却した。その後,Aが死亡して,BとDがAを相続し,更にBが死亡して,DがBを単純承認して相続した。この場合,Dは,売買契約の追認を拒絶することはできない。

解答・解説

() 判例は,「無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては,当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく,本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。けだし,無権代理人が本人を相続した場合においては,本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく,右のような法律上の地位ないし効果を生ずるものと解すべきものであり(中略),このことは,信義則の見地からみても是認すべきものであるところ(中略),無権代理人を相続した者は,無権代理人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから,一旦無権代理人を相続した者が,その後本人を相続した場合においても,この理は同様と解すべきであって,自らが無権代理行為をしていないからといって,これを別異に解すべき根拠はなく(中略),更に,無権代理人を相続した者が本人と本人以外の者であった場合においても,本人以外の相続人は,共同相続であるとはいえ,無権代理人の地位を包括的に承継していることに変わりないから,その後の本人の死亡によって,結局無権代理人の地位を全面的に承継する結果になった以上は,たとえ,同時に本人の地位を承継したものであるとしても,もはや,本人の資格において追認を拒絶する余地はな」いとした(最判昭63.3.1判時1312・92。研修教材・七訂民法I(総則)145ページ)

⑸ 無権代理行為の追認は,相手方に対してしなければならず,無権代理人に対してすることはできない。

解答・解説

(×) 判例は,「無権代理行為の追認は,相手方または無権代理人のいずれに対してもすることができるのであって,必ずしも相手方に対してこれをするか,または無権代理人に対する追認のあった事実を相手方が知ったときでなければその効力がないものではない。ただ,無権代理人に対する追認は,その事実を相手方が知らなかったときはこれをもって相手方に対抗することはできないが,相手方において追認のあった事実を主張することは何ら妨げないものと解すべきである。」としている(最判昭47.12.22判時696号189ページ)。

第8問

所有権に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ AがB所有の土地に権原なく樹木を植栽した場合,当該樹木は,土地に付合し,Bの所有に帰する。

解答・解説

() そのとおり(民法242条本文。最判昭46.11.16判時654・56。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)93ページ)。

⑵ AがB所有の自転車を窃取した後,そのサドルを取り外し,自己の自転車に取り付けたが,車体から容易に分離することができる状態である場合,Bは,当該サドルの所有権を失わない。

解答・解説

() そのとおり(民法243条。最判昭24.10.20刑集3・10・1660。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)94ページ)。

⑶ 土地の共有者の1人であるAは,他の共有者の同意を得なくても,当然,Aの持分を単独で第三者に譲渡することができる。

解答・解説

() 民法上,明文はないが,持分権が所有権の本質を持つことから当然のこととされる(研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)97ページ)。

⑷ 土地の共有者の1人であるAが死亡して相続人がないときは,Aの持分は,国庫に帰属する。

解答・解説

(×) 民法255条。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)97ページ。

⑸ 土地の共有者の1人であるAは,当該土地を無断で占拠している第三者に対し,単独で,当該土地全部につき妨害排除請求をすることができる。

解答・解説

() そのとおり(大判大10.7.18民録27・1392。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)99ページ)。

第9問

占有権に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,自己所有の絵画をBに売却したが,Bとの間の合意に基づき,引き続きAがBのために保管することにした。Bは,Aから引渡し(民法178条)を受けたといえる。

解答・解説

() そのとおり(民法183条。占有改定)。

⑵ Aは,Bに預けている自己所有の絵画をCに売却した。その際,Aは,Bに対し,以後Cのために保管するよう命じ,Bがこれを承諾した。Cは,AB間の上記事情を知らなくても,Aから引渡し(民法178条)を受けたといえる。

解答・解説

(×) Cの承諾が必要である(民法184条。指図による占有移転)。

⑶ Aは,BからB所有の絵画を賃借して占有していたが,賃貸借期間が終了した後も占有を続けた。Bは,賃貸借期間終了後1年以内であれば,Aに対し,占有回収の訴えにより返還を請求することができる。

解答・解説

(×) Bは,絵画の間接占有者であるが,占有を侵奪されたとはいえない(民法200条1項)。

⑷ Aは,意思無能力者であるBから,B所有の絵画を購入し占有を始めたが,Bが意思能力者であると誤信し,そのように信じるにつき過失がない場合,当該絵画の所有権を取得する。

解答・解説

(×) 相手方が意思無能力者の場合,即時取得の適用はない(研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)62ページ)。

⑸ Aは,Bから賃借しているB所有の絵画を,Aの所有物としてCに売却したが,Cとの間の合意に基づき,引き続きAがCのために保管することにした。Cは,Aが所有権者であると誤信し,そのように信じるにつき過失がない場合,当該絵画の所有権を取得する。

解答・解説

(×) 占有改定での即時取得は成立しない(最判昭32.12.27民集11・14・2485,最判昭35.2.11民集14・2・168。研修教材・七訂民法Ⅱ(物件・担保物権)61ページ)。

第10問

担保物権に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,Bの所有する動産につき留置権を有する場合,Bから当該動産を譲り受けたCに対しても留置権を主張することができる。

解答・解説

() 判例は,「留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても,債権者がその留置権を主張しうることは,留置権が物権であることに照らして明らかである」としている(最判昭47.11.16民集26・9・1619,最判昭58.3.31判時1078・73同旨。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)125ページ)。

⑵ Aは,自己所有の土地をBに貸し,Bは当該土地上に建物を建てた。Aは,Bから当該建物を買い取ったが,所有権移転登記はしていなかった。その後,Aが当該土地につき抵当権を設定したところ,当該抵当権が実行され,Cが当該土地を競落した。この場合には,建物のために法定地上権が成立する。

解答・解説

() 判例は,「土地とその地上建物が同一所有者に属する場合において,土地のみにつき抵当権が設定されてその抵当権が実行されたときは,たとえ建物所有権の取得原因が譲渡であり,建物につき前主その他の者の所有名義の登記がされているままで,土地抵当権設定当時建物についての所有権移転登記が経由されていなくとも,土地競落人は,これを理由として法定地上権の成立を否定することはできないものと解するのが相当である。」としている(最判昭48.9.18民集27・8・1066。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)179ページ)。

⑶ 抵当不動産を第三者が占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態さえあれば,第三者に占有権原があるか否かにかかわらず,抵当権に基づき妨害排除請求をすることができる。

解答・解説

(×) 判例は,「第三者が抵当不動産を不法占拠することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権に基づく妨害排除請求として,抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるというべきである。」とし,不法占拠者に対する抵当権に基づく妨害排除請求を認めている(最大判平11.11.24民集53・8・1899)のみならず,「抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。」としている(最判平17.3.10民集59・2・356。研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)185,186ページ)。占有権限者に対する抵当権に基づく妨害排除請求が認められるためには,上記の要件を満たす必要があるので,本問は誤っている。

⑷ 動産質権者は,質物の占有を奪われた場合,質権に基づく返還請求権を行使することができる。

解答・解説

(×) 動産質権者は,質物の占有を奪われたときは,占有回収の訴えによってのみ,その質物を回復することができる(民法353条)。

⑸ 動産質権者は,質物の保存に必要な使用をする場合を除き,設定者の承諾なしに,質物を使用,賃貸することはできないが,不動産質権者は,原則として,自ら又は第三者をして,質権の目的である不動産をその用法に従って使用・収益することができる。

解答・解説

() 動産質の場合,民法350条,298条2項により,原則として,債務者の承諾なしに,質物を使用し,賃貸することはできないが,不動産質の場合には,質権の目的である不動産の用法に従い,その使用及び収益をすることができる(民法356条)。この場合,質権者自らが,使用・収益できるのみならず,その存続期間中,第三者に使用・収益させ,賃借権・制限物権を設定することもできる(研修教材・七訂民法Ⅱ(物権・担保物権)154ページ)。

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刑法

第11問

故意に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 酒気帯び運転の罪の故意が成立するためには,行為者において,政令所定の数値以上のアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識が必要である。

解答・解説

(×) 酒気帯び運転の故意が成立するためには,行為者において,アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り,政令所定のアルコール保有量の数値まで認識している必要はない(最決昭52.9.19刑集31・5・1003)。

⑵ Aは,Bを殺害して財物を奪おうと考え,Bに向かってけん銃を発射したが,Bに重傷を負わせたにとどまり,さらに,Bの体を貫通した弾丸を近くにいたCに命中させてCに重傷を負わせた。この場合,Aには,Bに対する強盗殺人未遂罪に加えて,Cに対する強盗殺人未遂罪も成立する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論193ページ。最判昭53.7.28刑集32・5・1068)。

⑶ 覚せい剤を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合,覚せい剤所持罪と麻薬所持罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で法定刑が軽い麻薬所持罪の故意が成立し,麻薬所持罪が成立する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論200ページ。最決昭61.6.9刑集40・4・269)。

⑷ A,B及びCは,Dとけんかとなる事態になれば,Dを殺害することとし,その際,現実にD殺害の実行に着手すべき事態に至ったかどうかについては,現場に赴くBとCの状況判断に委ねた。その後,現場に赴いたBとCは,Dとけんかになったため,D殺害の実行に着手すべきと判断してDを殺害した。この場合,現場に赴かなかったAには,殺人罪の故意は成立しない。

解答・解説

(×) 最決昭56.12.21刑集35・9・911は,本問と同様の事例において,「謀議された計画の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても,そのような殺害計画を遂行しようとする被告人の意思そのものは確定的であったのであり,被告人は被害者の殺害の結果を認容していたのであるから,被告人の故意の成立に欠けるところはないというべきである。」と判示した(研修教材・六訂刑法総論186ページ)。

⑸ 覚せい剤を所持している者が,所持している物が覚せい剤かもしれないし,その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないと認識していれば,覚せい剤所持罪の故意は成立する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論185ページ。最決平2.2.9判時1341・157)。

第12問

共犯に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×」の欄に印を付けなさい。

⑴ AとBは,Cに対する傷害を共謀したが,Bが殺意をもってCの腹部を包丁で刺しCを死亡させた。この場合,Aには傷害致死罪の共同正犯が成立する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論302ページ。最判昭54.4.13刑集333・179)

⑵ AはBに対し,Cを殺害するよう教唆したが,BはCの殺害を実行せず,Dに対し,Cを殺害するよう教唆した。DがCを殺害した場合,Aには犯罪は成立しない。

解答・解説

(×) 教唆者を教唆した者には,正犯の刑が科せられる(刑法61条2項)。

⑶ 予備行為は,実行の着手前において,実行行為を準備する行為であるので,殺人予備罪の共同正犯は観念できない。

解答・解説

(×) 判例は,予備の共同正犯を認める(研修教材・六訂刑法総論283ページ。最決昭37.11.8刑集16・11・1522)。

⑷ Aは,Bが営利目的を持つことを知りながら,Bと共同して麻薬を輸入した。この場合,A自身に営利目的がなくても,Aには営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立する。

解答・解説

(×) 麻薬輸入罪の営利目的は,刑法65条2項の「身分」に当たり,営利目的を持たない者には,非営利の麻薬輸入罪が成立する(研修教材・六訂刑法総論297ページ。最決昭42.3.7刑集21・2・417)。

⑸ AとBに殺人罪の共同正犯が成立する場合,Aに過剰防衛が成立するとしても,その結果当然にBにも過剰防衛が成立するわけではない。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・六訂刑法総論132ページ,最決平4.6.5刑集46・4・245)。

第13問

国家の作用に対する罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,執行官の指示に従って家財道具を屋外に搬出していた補助者(非公務員)に対し,暴行を加え,その搬出を妨害した。この場合,Aには,公務執行妨害罪が成立する。

解答・解説

() 公務執行妨害罪の暴行・脅迫は,必ずしも直接に公務員自身に対して加えられることを要せず,その補助者に対してなされるものでもよい(研修教材・改訂刑法各論(その2)165ページ。最判昭41.3.24刑集20・3・129)。

⑵ 公務員が適法に封印を施した密造酒入りの瓶を保管していたAは,封印をそのままにしてその瓶を割り,密造酒を流出させた。この場合,Aには,封印破棄罪は成立しない。

解答・解説

(×) 封印・差押えそのものを物理的に破壊することなく,その事実上の効力を滅却又は減殺した場合にも,封印破棄罪が成立する(研修教材・改訂刑法各論(その2)171ページ。大判明44.7.10大録17・1409)。

⑶ Aは,Bが罰金以上の刑に当たる罪を犯して逃走中であることを知りながら,Bに対し,Bに係る捜査の進行状況,Bの留守宅の状況,Bの家族の安否等を知らせるなどして逃走の便宜を与えた。この場合,Aには,犯人隠避罪が成立する。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・改訂刑法各論(その2)192ページ。大判昭5.9.18大集9・10・668)。

⑷ 証人Aが,宣誓の上,証言を拒否せず虚偽の陳述をした場合であっても,自らが刑事訴追を受ける可能性のあるときは,Aには,偽証罪は成立しない。

解答・解説

(×) 証言拒否権を有する者(刑事訴訟法146条以下,民事訴訟法196条以下)であっても,宣誓の上,証言拒否権を行使しないで虚偽の陳述をしたときは,偽証罪が成立する(研修教材・改訂刑法各論(その2)202,203ページ。最決昭28.10.19刑集7・10・1945)。

⑸ Aは,内容虚偽の告訴状を甲警察署に郵送した。同告訴状は,甲警察署に到達し,甲警察署の司法警察員の閲覧に供し得る状態になったが,実際には,同告訴状に基づく捜査はされなかった。この場合,Aには,虚偽告訴罪は成立しない。

解答・解説

(×) 虚偽告訴罪は,虚偽の告訴,告発その他の申告が捜査官署に到達した時に既遂に達する(研修教材・改訂刑法各論(その2)208ページ。大判大3.11.3大録20・2001)。

第14問

放火の罪に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,A所有の無人の物置小屋に放火してこれを焼損する目的で,灯油とライターを持ってこの小屋に向かったが,警察官から職務質問を受けて灯油とライターを発見されてしまい,この小屋に放火するには至らなかった。Aに放火予備罪が成立する。

解答・解説

(×) Aが犯す目的の罪は自己所有非現住建造物等放火罪(刑法109条2項)だが,同罪は放火予備罪の目的に当たらない(同法113条)。Aに同罪は成立しない。

⑵ Aは,B所有の木造アパートの空き部屋の板壁に火を付けて放火したが,この板壁を焼損した時点で,炎に気付いた近隣住民に消し止められた。Aは,このアパートに人が居住する部屋があることは知っていたが,その部屋に延焼するかもしれないとは考えておらず,空き部屋のみを焼損するつもりだった。Aに現住建造物等放火罪が成立する。

解答・解説

() 木造アパート全体が現住建造物で,空き部屋はその一部であるから,空き部屋のみを焼損するつもりでも,現住建造物等放火罪の故意はある(研修教材・改訂刑法各論(その2)14,15ページ)。Aに同罪が成立する。

⑶ Aは,B所有の木造家屋にBが一人で居住していることを知りながら,その板壁に火を付けて放火し,この家屋を全焼させた。この家屋内にはBがいたが,Aはそのことを知らず,Bは外出中で人は誰もいないと誤信していた。Aに現住建造物等放火罪が成立する。

解答・解説

() 現にBがいることの認識はないが,現にBが住居に使用することの認識はあるので,現住建造物等放火罪の構成要件該当事実の認識はあり(刑法108条),同罪の故意はある。Aに同罪が成立する。

⑷ Aは,B所有の火災保険に付された木造家屋に一人で居住するBとの間で,火災保険金をだまし取るためこの家屋に放火して焼損することを計画した上,その板壁に火を付けて放火し,この家屋を全焼させた。Aに現住建造物等放火罪が成立する。

解答・解説

(×) Bは共犯者なので「人」(刑法108条)に当たらず(研修教材・改訂刑法各論(その2)12,13ページ),Aに現住建造物等放火罪は成立しない。また,本件家屋の焼損を所有者Bは承諾しているが,本件家屋は火災保険に付されているので,自己所有非現住建造物等放火罪は成立しない(同法115条)。Aに非現住建造物等放火罪が成立する。

⑸ Aは,深夜,駅構内に止められたB会社所有の電車の座席シートに火を付けて放火し,この電車を全焼させた。この電車内にはいたずらで入り込んだ子供がいたが,Aはそのことを知らず,人は誰もいないと誤信していた。なお,この電車以外の物に延焼するおそれはなかった。Aに非現住建造物等放火罪が成立する。

解答・解説

(×) 電車は現住建造物等放火罪の客体にはなるが(刑法108条),非現住建造物等放火罪の客体にはならない(同法109条1項)。Aに同罪は成立しない。公共の危険を発生させたとすれば,Aに建造物等以外放火罪が成立する。

第15問

財産犯に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ Aは,現金10万円を自宅居間の畳の下に隠したが,その後,この現金の存在を失念したまま自宅で生活を続け,10年が経過した。この現金については,もはや,Aの占有は認められない。

解答・解説

(×) 自宅その他自己が排他的に管理・支配している場所においては,その場所それ自体が排他的に管理・支配されている以上,そこに存在する個々の財物について,いちいち認識していなくても,居住者等の包括的な支配意思があるというべきであって,積極的に支配の意思を放棄しない限り,個々の財物に対する占有は認められる(研修教材・改訂刑法各論(その1)176ページ)。

⑵ Aは,野外において,Bを殺害した後,初めてBの所持品を領得する意思を生じ,殺害直後,その現場において,Bが身につけていた時計を外して持ち去った。この場合,Aには,殺人罪と占有離脱物横領罪とが成立する。

解答・解説

(×) 最判昭41.4.8刑集20・4・207は,設問の事案について,「被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は,これを全体的に考察して,他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから,右奪取行為は,占有離脱物横領ではなく,窃盗罪を構成する」旨判示し,いわゆる死者占有を肯定した(研修教材・改訂刑法各論(その1)182~184ページ)。

⑶ 甲郵便局局長の指揮監督下,甲郵便局内で郵便物を整理していたアルバイトAは,整理中の現金書留郵便1通を,領得する意思で,自宅に持ち帰った。この場合,Aには,窃盗罪が成立する。

解答・解説

() 雇用契約などに基づいて上下主従の関係に立つ者が,財物に対して事実上共同支配の状態にある場合,通常は,上位者(雇主)だけが刑法上の占有を有し,下位者(雇人)は現実に財物を握持・監視していても,単なる手足としての占有補助者であって独立した占有者ではないから,この財物に対する占有を有しない。よって,Aには,窃盗罪が成立する(研修教材・改訂刑法各論(その1)179,180ページ。大判昭15.11.27大集19・820)。

⑷ 旅館の宿泊客Aは,旅館備付けの浴衣を,領得する意思で,これを着たまま行方をくらませた。この場合,Aには,(単純)横領罪が成立する。

解答・解説

(×) 旅館が宿泊客に提供する浴衣などは,宿泊客が着用中であっても,所有者である旅館の占有に属する。よって,Aには,窃盗罪が成立する(研修教材・改訂刑法各論(その1)179ページ。最決昭31.1.19刑集10・1・67)。

⑸ Aは,コンビニエンスストア店内で,商品の缶コーヒー1本を,領得する意思で,持っていた手提げバッグの中に入れた。Aが,まだ同店外に出ていなければ,Aには,窃盗既遂罪が成立することはない。

解答・解説

(×) 通説・判例は,窃盗の既遂時期について,目的物を自己又は第三者の占有に移した時であるとする取得説に立つ。設問の場合,缶コーヒーはAの占有に移ったと認められるから,Aには,窃盗既遂罪が成立する(研修教材・改訂刑法各論(その1)186,187ページ。大判大12.4.9大集2・330)。

刑事訴訟法

第16問

告訴に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴器物損壊罪について告訴をすることができる者は,損壊された物の所有者に限ら生まれる。

解答・解説

(×) 最判昭45.12.22刑集24・13・1862,研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)41ページ。

⑵ 被疑者A及び共犯者Bに対する器物損壊事件について,Aに対してした告訴は,Bに対しても,その効力を生ずる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法238条1項)。

⑶ 告訴は,書面又は口頭で,検察官,検察事務官又は司法警察員に対してすることができる。

解答・解説

(×) 検察事務官は,告訴を受理できない(刑事訴訟法241条1項)。

⑷ 告訴は,意思表示を内容とする訴訟行為であるから,未成年者が単独ですることはできない。

解答・解説

(×) 年齢に制限はないが,告訴の何であるかの意味を理解する能力を有する者であることを要する(研修教材・七訂刑事訴訟法I(捜査)41ページ)。

⑸ 告訴をすることができる者が数人ある場合には,その1人について,犯人を知った日から6か月を経過した場合であっても,他の者は告訴をすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法236条)。

第17問

逮捕に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 私人が現行犯逮捕をしようとする場合であっても,現行犯人から抵抗を受けたときには,その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許される。

解答・解説

() そのとおり(最判昭50.4.3刑集29・4・132)。

⑵ 逮捕状を執行するに際し,逮捕状を所持しないため,これを示すことができない場合において,急速を要するときは,被疑者に対し,被疑事実の要旨及び逮捕状が 発せられている旨を告げて,その執行をすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法201条2項,73条3項)。

⑶ 裁判官は,検察官又は司法警察員から逮捕状の請求をされた場合,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,逮捕状を必ず発付しなければならない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法199条2項ただし書

⑷ 裁判官が逮捕状の請求を却下する裁判をした場合には,これに不服があったとしても,準抗告を申し立てることができない。

解答・解説

() そのとおり(最判昭57.8.27刑集36・6.・26)。

⑸ 緊急逮捕した被疑者を釈放した場合には,逮捕状を求める手続をする必要はない。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法210条1項

第18問

公判手続に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件を審理する場合において,裁判所が公判期日への弁護人出頭確保のための方策を尽くしたにもかかわらず,被告人が,弁護人の公判期日への出頭を妨げるなど,弁護人在廷の公判審理ができない事態を生じさせ,かつ,その事態を解消することが極めて困難な場合には,裁判所は,弁護人の立会いのないまま当該公判期日の審理をすることができる。

解答・解説

() そのとおり(最判平7.3.27刑集49・3・525)。

⑵ 傷害被告事件において,勾留されている被告人が,公判期日に召喚を受け,正当な理由がなく出頭を拒否し,刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは,裁判所は,被告人が出頭しないでも,その期日の公判手続を行うことができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法286条の2)。

⑶ 被告人又は弁護人が冒頭陳述を行うに当たっては,公判前整理手続に付された事件であるか否かを問わず,裁判所の許可は不要である。

解答・解説

(×) 被告人又は弁護人が冒頭陳述を行うに当たっては,公判前整理手続に付された事件では,裁判所の許可は不要である(刑事訴訟法316条の30)が,公判前整理手続に付されていない事件では,裁判所の許可が必要である(刑事訴訟規則198条1項)。

⑷ 裁判所が,取調べの必要性がないことを理由に,検察官の証拠調べ請求を却下した場合,検察官は,その却下決定が相当でないことを理由として異議の申立てをすることはできない。

解答・解説

() 証拠調べ請求の却下決定は,「証拠調に関する決定(刑事訴訟規則205条1項ただし書)」であるから,異議申立理由は法令違反に限られ,相当でないことを理由とした異議は認められない。

⑸ 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については,検察官及び被告人又は弁護人は,やむを得ない事由によって当該手続において請求することができなかったものを除き,当該手続が終わった後には,新たに証拠調べを請求することができないが,裁判所は,当該手続において請求されなかった証拠につき,やむを得ない事由の有無にかかわらず,必要と認めるときは,職権で証拠調べをすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法316条の32第1項,2項)。

第19問

被害者参加制度に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 詐欺被告事件の被害者は,被害額がどんなに多額であっても,およそ当該被告事件の手続に参加することはできない。

解答・解説

() 被害者参加制度の対象事件は,刑事訴訟法316条の33第1項各号に規定されているが,詐欺被告事件は,そのいずれにも該当しない。

⑵ 被害者参加人又はその委託を受けた弁護士は,自ら被告人質問を行うことができる場合でも,犯罪事実に関する質問を行うことはできない。

解答・解説

(×) 証人尋問の場合とは異なり,被告人質問においては,被害者参加人又は委託を受けた弁護士は,意見の陳述(刑事訴訟法316条の38)をするために必要と認める場合には,情状に関する事項のみならず,犯罪事実に関する質問を行うことも許される(同法316条の37)。

⑶ 被害者参加人又はその委託を受けた弁護士が,検察官の論告の後に,事実又は法律の適用についての意見を陳述した場合であっても,裁判所は,陳述された当該意見を証拠とすることはできない。

解答・解説

() いわゆる弁論としての意見陳述(刑事訴訟法316条の38第1項)で陳述された意見は,証拠とならない(同条4項)。

⑷ 被害者参加制度においては,被告人から被害者参加人の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができるが,傍聴人と被害者参加人との間で,相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることはできない。

解答・解説

(×) 被害者参加人と傍聴人との間では,相互に相手の状態を認識することができないようにするための遮へい措置が認められている(刑事訴訟法316条の39第5項)。

⑸ 裁判所は,被害者参加人が多数である場合には,必ずしも被害者参加人の全員を公判期日に出席させる必要はない。

解答・解説

() 裁判所は,被害者参加人が多数である場合に,必要があると認めるときは,被害者参加人の全員又は一部に対し,公判期日に出席する代表者を選定するよう求めることができ(刑事訴訟法316条の34第3項),審理の状況,被害者参加人の数その他の事情を考慮して不相当と認めるときは,公判期日の全部又は一部への出席を許さないことができる(同条4項)。

第20問

証拠に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 証人の公判期日における供述の証明力を争うためであれば,被告人が証拠とすることに同意しなかったとしても,当該証人の供述内容を記載した警察官作成の捜査報告書を証拠とすることができる。

解答・解説

(×) 最判平18.11.7刑集60・9・561は,火災発見者から火災発見時の状況を聞き取った内容が記載された消防司令補作成の書面について,同書面に供述者の署名押印がないことを理由として,刑事訴訟法328条が許容する証拠には当たらないとした(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)186ページ)。

⑵ 被告人の自白を録取した供述調書に加えて,その自白と同様の内容を被告人が自ら記載した上申書があれば,他に証拠がなくても被告人を有罪にすることができる。

解答・解説

(×) 本人の供述は,補強証拠とならない(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)104ページ)。

⑶ 公判廷における被告人の自白は,強要されたものでないことが明らかであるから,これがあれば,他に証拠がなくても被告人を有罪にすることができる。

解答・解説

(×) 公判廷における自白であっても補強証拠が必要である(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)99ページ。刑事訴訟法319条2項)。

⑷ 恐喝事件の被害者が「犯人から『金を出さないと殺す。』と言われた。」と日記帳に記載していた場合において,被告人が被害者に対して「金を出さないと殺す。」と言ったことを立証するために当該日記帳の証拠調べを請求するときは,伝聞法則の適用を受ける。

解答・解説

() そのとおり(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)214ページ)。

⑸ 強制わいせつ事件の被害者が被害状況を再現し,これを警察官が見分し,写真撮影するなどして記録した実況見分調書について,検察官は,再現されたとおりの犯罪事実が存在することを立証する趣旨で証拠調べを請求した。これに対し,被告人が証拠とすることに同意しなかった場合,刑事訴訟法321条3項の要件を満たせば,当該実況見分調書全体の証拠能力が認められる。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法321条3項の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,同条1項3号所定の要件を満たす必要がある(研修教材・七訂刑事訴訟法Ⅱ(証拠法)158ページ。最決平17.9.27刑集59・7・753)。

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事件事務(令状事務含む)

第21問

事件の送致(付)に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 司法警察員は,犯罪の捜査をした場合において,犯罪の嫌疑が十分でないと認めたときや犯罪の成立を阻却する事由があると認めたときは,事件を検察官に送致(付)する必要はない。

解答・解説

(×) 司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,検察官が指定した事件以外は,犯罪を認めた場合はもちろん,犯罪の嫌疑が十分でないと認めた場合や犯罪の成立を阻却する事由があると認めた場合であっても,事件を検察官に送致しなければならないとされている(刑事訴訟法246条。研修804号48,49ページ。大コンメンタール刑事訴訟法第二版第4巻838ページ)。

⑵ 司法警察職員は司法警察員と司法巡査に分けられるが,司法巡査には事件を検察官に送致(付)する権限がない。

解答・解説

() そのとおり。司法巡査は,事件を検察官に送致(付)する権限はない(刑事訴訟法39条3項,246条,242条,245条。研修804号50ページ)。

⑶ 司法警察員は,少年の被疑事件について,当該被疑少年を逮捕し捜査を遂げた結果,軽犯罪法違反の嫌疑があるものと思料する場合,当該被疑少年が住居不定であるときは,当該被疑少年の身柄を拘束したまま当該事件を検察官に送致することができる。

解答・解説

(×) 司法警察員は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,罰金以下の刑に当たる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,これを家庭裁判所に送致しなければならないとされている(少年法41条。研修804号49ページ)。

⑷ 司法警察員は,反則金の納付のあった道路交通法違反事件について,告発を受けたときは,当該事件を検察官に送付しなければならない。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟法242条。昭和43年6月24日付け刑第800号次長検事通達。研修804号50ページ)。

⑸ 収税官吏は,所得税法に関する犯則事件の調査により犯則があると思料するときは,当該事件を検察官に送致(付)することができる。

解答・解説

(×) 収税官吏は,内国税の賦課徴収及びその犯則事件の調査に関する事務に従事する職員をいい,特別司法警察職員ではない。したがって,収税官吏は,事件を検察官に送致(付)する権限はない(国税犯則取締法12条ノ2,13条。九訂特別研修資料第4号・事件事務解説(以下「事件事務解説」という。)10ページ。研修806号47ページ)。

第22問

事件の受理に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 事件担当事務官は,他の検察庁の検察官から証拠品のある事件の送致を受けたときは,事件記録・証拠品受領書(甲)又は事件記録・証拠品受領書(乙)を作成の上,事件記録及び証拠品を証拠品担当事務官に送付する。

解答・解説

(×) 改正前の事件事務規程(昭和62年12月25日付け法務省刑総訓第1060号大臣訓令)(以下「旧事件事務規程」という。)では,事件係事務官は,事件記録・証拠品受領書(甲)又は事件記録・証拠品受領書(乙)を作成することとされていたが,事件事務規程(平成25年3月19日付け法務省刑総訓第1号大臣訓令)では,検察総合情報管理システム(以下「検察システム」という。) により事件記録・証拠品の授受関係を管理することとされた(事件事務規程5条,85条。事件事務解説83ページ。研修806号44,45ページ)。

⑵ 事件担当事務官は,同一の被疑者について,事件番号の異なる2件の中止事件を1枚の認知・再起事件表紙で再起するときは,1個の事件番号を付して受理する。

解答・解説

(×) 旧事件事務規程では,同一機会に,同一の受理事由で,同一被疑者に対する数個の被疑事実を受理する場合は,1個の事件番号を付すこととされていたが,検察システムにより事件の受理及び処理を管理することになったことに伴い,本問のような事例では,2個の事件番号を付すこととなった(事件事務規程5条2項。事件事務解説11,12ページ。研修806号51,52ページ)。

⑶ 公判担当事務官は,再審開始決定により事件が対応裁判所の公判に係属したときは,検察総合情報管理システムにより管理する。

解答・解説

() そのとおり。旧事件事務規程では公判事件カードにより把握していたが,事件事務規程では検察システムにより管理することとされている(事件事務規程91条。事件事務解説8ページ。研修804号48ページ)。

⑷ 不起訴処分に付した事件について,検察審査会から不起訴不当の議決書の謄本の送付を受けた場合であっても,検察官が犯罪の嫌疑が十分でないと判断したときは,事件担当事務官は事件の受理手続を行う必要はない。

解答・解説

(×) 検察審査会から不起訴不当の議決があった場合には,再起して受理手続を行わなければならない(事件事務規程169条2項,3条6号。事件事務解説108ページ。研修804号54ページ)。

⑸ 前に公訴の取消しによる公訴棄却の決定が確定した事件については,公訴の取消し後,犯罪事実につき新たに重要な証拠を発見した場合に限り,同一事件について更に公訴を提起することができるが,更に公訴を提起しようとするときには,事件担当事務官は事件の受理手続を行う。

解答・解説

() そのとおり(事件事務規程3条8号。事件事務解説8ページ。研修806号42ページ)。

第23問

逮捕又は勾留に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 少年事件の逮捕状の請求は,請求者の所属する官公署の所在地を管轄する家庭裁判所の裁判官にすることができる。

解答・解説

() そのとおり(刑事訴訟規則299条2項。事件事務解説19ページ。研修808号55ページ)。

⑵ 甲事実で逮捕されている被疑者に対し,甲事実に代えて,甲事実と公訴事実の同一性の認められない乙事実で勾留請求することも許される。

解答・解説

(×) 逮捕中の甲事実のほか乙事実を付加して勾留請求することは許されると解されているが,甲事実に代えて乙事実を勾留請求することは逮捕前置主義に反し許されないと解されている。例えば,出入国管理及び難民認定法違反(旅券不携帯)で逮捕されていた被疑者に対し,同法違反(不法在留)で勾留請求し,誤って発せられた勾留状を執行して,被疑者を不当に勾留したという職務上の過誤事例がある(研修808号61ページ。大コンメンタール刑事訴訟法第二版第4巻357ページ)。

⑶ 法定刑が拘留又は科料に当たる事件については,被疑者又は被告人が定まった住居を有していても逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときは勾留することができる。

解答・解説

(×) 法定刑が30万円以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被疑者又は被告人が定まった住居を有しないときに限って勾留することができる(刑事訴訟法60条1項,3項,207条。研修808号58ページ)。

⑷ 検察官が勾留請求又は観護措置請求をするときは,令状担当事務官は,検察総合情報管理システムにより,当該請求に関する事項を管理するとともに,勾留等請求透付票を作成する。

解答・解説

() そのとおり(事件事務規程23条2項。事件事務解説25ページ。研修808号62ページ)。

⑸ 執行猶予の裁判の告知があったときは,検察官は,直ちに釈放指揮書により,刑事施設の長に対して被告人の釈放の指揮をする。

解答・解説

(×) 刑事訴訟法345条の規定により被告人が釈放されたときは,検察官は,直ちに釈放通知書(丁)により,その者が収容されていた刑事施設の長に対してその旨を通知する(事件事務規程143条。事件事務解説101ページ。研修809号73ページ)。

第24問

事件の処理等に関する次の記述のうち,正しいものには○の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 告訴,告発又は請求に係る事件について,検察官が中止,移送又は家庭裁判所送致の処分を行った場合には,告訴人,告発人又は請求人に対する処分通知は不要である。

解答・解説

(×) 事件事務規程60条に定める告訴人等に対する処分通知について,刑事訴訟法の解釈上は,家庭裁判所送致・中止の場合は必ずしも通知を要しないが,事件事務規程は,刑事訴訟法の精神を踏まえ,これについても通知するものとしている(刑事訴訟法260条。事件事務解説57ページ。研修811号62ページ)。

⑵ 「保護処分済み」の裁定主文は,被疑者が既に成人となっている場合であって,少年の時に同一事実について保護処分がなされたときに限って用いる。

解答・解説

() そのとおり(事件事務規程75条2項9号。事件事務解説72ページ。研修811号60ページ)。

⑶ 被疑者の行為が正当防衛に当たることが証拠上明確なときは,「嫌疑なし」の裁定主文により不起訴処分に付することとなる。

解答・解説

(×) この場合は,「罪とならず」の裁定主文を用いる(事件事務規程75条2項16号。事件事務解説74ページ。研修811号60,61ページ)。

⑷ 被疑事実が明白な場合において,放火予備(刑法113条ただし書)や偽証自白(刑法 170条)のように,法律上刑を「免除することができる」と規定されている罪名の事件を不起訴処分にするときは,「刑の免除」の裁定主文を用いる。

解答・解説

(×) 「刑の免除」の裁定主文は,被疑事実が明白な場合において,法律上「刑を免除する」と規定されている場合に用いるが,法律上単に刑を「免除することができる」と規定されている場合は,「起訴猶予」の裁定主文を用いる(事件事務規程75条2項20号。事件事務解説75ページ。研修811号61,62ページ)。

⑸ 被害者等通知制度に基づき,被害者に不起訴処分を通知した場合であっても,その被害者が同一事件につき告訴を行っており,被害者からの請求があるときは,不起訴処分の理由を告げる必要がある。

解答・解説

() そのとおり。被害者等通知制度に基づき,被害者に不起訴処分を通知した場合であっても,その被害者が同一事件につき告訴人,告発人又は請求人の請求を行っており,被害者からの請求があるときは,不起訴処分の理由を告げる必要がある(研修811号64ページ)。

第25問

被疑者又は被告人の勾留に関する次の記述のうち,正しいものには〇の欄に,誤っているものには×の欄に印を付けなさい。

⑴ 被疑者又は被告人が勾留執行停止により釈放された日に,勾留執行停止が取り消されて収容された場合は,その勾留日数は2日として計算する。

解答・解説

(×) 勾留執行停止により釈放された日及び勾留執行停止が取り消されて収容された日は,いずれも勾留期間に算入されるが,勾留執行停止により釈放された日にこれが取り消されて収容された場合には,現実の勾留日数は1日であるから,勾留日数は1日として計算する(事件事務解説35,95ページ。研修809号63,64ページ)。

⑵ 次の事例における被疑者の勾留期間の満了日は,平成28年2月11日である。
【事例】
平成28年2月2日(火) 勾留請求,勾留請求済証明書を交付して留置施設に留置
平成28年2月3日(水) 勾留状発付,勾留状執行,勾留状指定の留置施設に引致

解答・解説

() 被疑者の勾留期間は,勾留請求の日から10日間であるが,勾留請求の日の翌日に勾留状が発付され留置施設に引致されたとしても,「勾留請求の日」が勾留期間の起算日となる。したがって,勾留請求日である2月2日を起算日として10日後の2月11日が勾留期間の満了日となる。なお,期間の末日が国民の祝日に関する法律に規定する休日であっても,期間に算入する(刑事訴訟法208条1項。事件事務解説35ページ。研修809号65ページ)。

⑶ 次の事例における残勾留日数は,1か月と10日である。
【事例】
平成28年1月20日(水) 逮捕中の被疑者を公訴提起(公訴事実は逮捕の基礎となった事実と同一)
平成28年1月21日(木) 勾留状発付,勾留状執行,勾留状指定の留置施設に引致
平成28年2月10日(水) 保釈により釈放

解答・解説

(×) 被告人の勾留期間は,公訴提起の日から2か月であるが,逮捕中の被疑者に対し,逮捕の基礎となった犯罪事実と同一の事実について公訴が提起された場合も同様であり,公訴提起の日の翌日に勾留状が発付されて執行されたとしても,「公訴提起の日」が勾留期間の起算日となる。したがって,公訴を提起した1月20日を起算日として暦に従って2か月後の3月19日が当初の勾留期間の満了日である。したがって,残勾留期間は,保釈による釈放の日の翌日である平成28年2月11日から3月19日までとなり,この期間を暦に従って計算すると,2月11日から3月10日までが1か月となり,3月11日から19日までの9日間,つまり,「1か月と9日」が残勾留日数となる(刑事訴訟法60条2項。事件事務解説94~96ページ。研修809号71ページ)。

⑷ 次の事例における残勾留日数は,5日と1か月である。
【事例】
平成27年12月16日(水) 勾留中の被疑者を公訴提起(公訴事実は勾留の基礎となった事実と同一)
平成28年2月8日(月) 勾留期間更新決定(2月16日から1か月の分)
平成28年2月10日(水) 保釈により釈放

解答・解説

() 保釈による釈放前に勾留期間更新決定の執行がなされている事例であり,当初の勾留,すなわち,2月15日までの勾留とその後の更新決定による勾留とは別個の裁判であるから,執行も各別になされなければならないので,残勾留日数は,保釈による釈放の日の翌日である2月11日から当初の勾留期間の満了日である2月15日までの5日と保釈釈放前に執行した勾留期間更新決定による1か月,すなわち,「5日と1か月」となる(事件事務解説96ページ。研修809号71,72ページ)。

⑸ 次の事例における被告人の勾留期間の満了日は,平成28年3月24日である。
【事例】
平成27年12月16日(水) 勾留中の被疑者を公訴提起(公訴事実は勾留の基礎となった事実と同一)
平成28年2月8日(月) 勾留期間更新決定(2月16日から1か月の分)
平成28年2月10日(水) 保釈により釈放
平成28年2月19日(金) 実刑言渡しにより刑事施設に収容

解答・解説

(×) 残勾留日数は,(4)のとおり5日と1か月。実刑言渡しにより刑事施設に収容した2月19日を初日として5日を加えた2月23日の翌日(2月24日)から暦に従って1か月を加えて算出した3月23日が,収容後の勾留期間満了日となる(事件事務解説96ページ。研修809号72ページ)

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